P5 お姫様でも呪われた子でもありません
「あら? ツズリちゃんは炎魔法も使えるの? 水魔法でワーウルフ倒してたから水魔法だと思ったけど」
ん? どういう意味?
ゲームでの魔法は全部覚えてるから多分使えると思う。炎だろうが水だろうが使えるはずだし。
そもそも使ったのは水魔法じゃなくて氷魔法だ。
「普通は一つの属性しか適性がないのよ? 王城魔法使いくらい凄い人なら複数の属性を扱えるらしいけど、その歳で水魔法の上級魔法まで使ってるんだから他の属性が使えたとしても水魔法だけで精一杯だと思ったのよね。獣人が属性魔法ってだけで驚きなのに」
え? そうなの?
この世界では複数の属性って使えないものなのか。
そして氷魔法は水魔法の上級ねぇ。まぁ水を固まらせたら氷だから水魔法でも間違ってないのかもね。
「うーん。まぁ色々使えるよ。魔法が好きだからね」
ゲームの知識がステータスが反映されてるからだよって言っても信じないだろうし、説明がめんどくさいし、色々めんどくさい事になりそうだから適当に言っておく。
魔法が好きなのは間違ってないしね。うん。
「まぁ他人の事情を探るのは冒険者としてあまり好まれない事だから深くは聞かないわ」
それは有難い事だね。
わたしも話す気ないし。
「話を戻そう。森が燃えた理由はわかった。どうして獣人が部族を離れて1人で森の中に居たんだ? しかも子供が」
「ちょっと! 深く聞かないって言ったばかりでしょ!」
「お前は冒険者だろうが、俺は領主だ。それに獣人を誘拐したと獣人達に思われたら大ごとだ。事情は聴いておく必要がある」
誘拐?
なるほど、そういう考え方も出来るか……。
うーん。でも何て説明したらいいのかな。気づいたら森に居た。としか言えないけど……。
「えーっと、迷子というか……気づいたら森に居たというか?」
「迷子? 親はどうした?」
親かー。
いるっちゃいる。別世界に。
ツズリとしての親なら、わたしかな。いや、神様か? ゲーム制作者か?
キャラを創ったのはわたしだからわたしか?
「親は……いないよ」
わたし自身が親ですとか馬鹿なことは言わないよ。
「……そうか」
「ハセン様、ちょっとこちらに」
メアさんの膝から解放されソファーに降ろされる。
そのまま、ハセンさんとメアさんは部屋の隅の方に移動して何やら話し始めた。
ルルーナちゃんと2人にされてなんか気まずい。
何か話した方がいいのかな。
でも、話す事なんてないしなぁ。
「ツズリちゃん、多分あの子捨てられたんだわ」
ん?
耳が良いからか部屋の隅に行った2人の会話が聞こえてくる。
捨てられたってなんだ?
「捨てられた?」
「ほら獣人にしては珍しいというかあり得ない髪色でしょ? それに属性魔法を使えてる」
「確かに獣人っぽいが今まで見た獣人とは違うな。服装も見たことがない」
「きっと。呪われた子として扱われてきて、捨てられたんだわ」
ナ、ナンダッテー!?
わたしは呪われた子だったのか!
ステータスが妖怪だから間違ってはいないのかもしれないけどさ!
「ふむ……。可能性としてはあり得るな。俺たちが知らない遠くの国で拾われたのだとすると服装が見たことがなくても納得がいく」
お、おう。
遠くの国っていうのはあながち間違いではないけどね。
「でも、また捨てられたんだわ……」
メアさん泣いちゃってるよ!?
勝手な妄想で泣いちゃってるよ!
「そうか……。そうか……」
ハセンさんもなんか悩んじゃったよ。
どうしてこうなった。
「あの、ツズリちゃん」
「えっあ、なに?」
向こうの話に集中してたから、ルルーナちゃんに話しかけられてびっくりしてしまった。
「獣人の人初めて見ました。その……尻尾って触っても大丈夫ですか?」
ああ、獣人初めてだったんだ。
ハセンさんは見たことあるっぽかったけど、子供だからかな?
触られるのは男だったら嫌だけど女の子になら別に良いかな。うん。
「いいよ」
そういうと、ルルーナちゃんは嬉しそうにわたしの横に座って尻尾を触りだした。
「わー! 凄いです! 凄くもふもふしています!」
「そう? 良かった」
嬉しいようなそうじゃないような微妙な気持ちだ。
わたしももふもふするのは好きだけど、自分のではダメなんだよ。
「この見たこともない服もとっても触り心地がいいです! どんな素材で作っているんですか?」
巫女服の素材か。
気にした事なかったけど、なんだろう。
神様謹製だからきっと凄い素材何だろうね。
「うーん。わたしにもわからないよ」
「そうなんですね。ツズリちゃんはどこかのお姫様ですか?」
「えっ? 違うよ? どうして?」
呪われた子にされたと思ったらお姫様にされてる。
「この服、凄くいい素材を使っていますし、豪華な感じが伝わってきます。尻尾ももふもふで髪もサラサラなのでどこかのお姫様かと思ったのですが」
「お姫様ではないよ。普通の……一般市民? だよ」
市民で伝わるのかな?わかんないけどお姫様ではない。
ついでにいうと呪われた子でもない。と思う。
「そうなんですか」
聞きたいことは終わったのか尻尾もふもふを再開したルルーナちゃん。
そう言えば、収納魔法って子供の頃にはもう教えてもらってるって言ってたなぁ。
ルルーナちゃんも使えるのだろうか。教えてもらえないかな。
「ルルーナちゃん、聞いてもいい?」
「ルルでいいですよ。その代わりツズリって呼んでもいいですか?」
この子、随分とフレンドリーだ。
領主の子だから生意気とか我が儘だとか勝手に思ってたけど、仲良くできそうな可愛い女の子だね。
「構わないよ」
「ありがとうございます」
「そんなに丁寧に話さなくてもいいよ?」
「いえ、癖付いてますからこの話し方がちょうどいいんです」
丁寧に話すことが癖付くってなんだ。
領主の教育がちゃんとしているって事なのかな。
領主の娘って言うのもなんか大変そうだね。
「そう。ならいいけど」
「それで、聞きたい事とはなんですか?」
「収納魔法って使えるの?」
「収納魔法ですか? もちろん使えますよ。無属性魔法の基本中の基本ですからね」
収納魔法使えるのか!
しかも基本中の基本ですか!
わたしも知りたい! 使いたい!
「教えてもらう事ってできる?」
「いいですけど、ツズリって属性魔法使えるんですよね? 収納魔法使えないんですか?」
「使えないよ。だから知りたいの!」
「わかりました。習ったのが4年前なので正確に教えられるかわかりませんが」
「ありがとう! ルル!」
思わずルルとハグしてしまった。
でも嬉しいこの思いを抑えられなかった!
「あー! ルルーナ様ずるいですよ! 私のツズリちゃんと抱き合うなんて!」
ハセンさんとの話が終わったメアさんが戻ってきてなんか言い出した。
わたしは誰かの物になった覚えはないよ!
「ツズリに収納魔法を教えると言ったらこうなっただけですよ」
「えぇー!? ツズリちゃん水の上級魔法使えるのに収納魔法使えなかったの!? そう言う事なら魔法使いである私が教えてあげるわ!」
「いや、大丈夫。ルルに教えてもらう事になってる」
先約がいるから、先約優先だ。
「じゃあ土魔法を教えてあげるわ!」
「間に合ってるよ」
「ええ!? まさか水や炎だけじゃなく土まで使えるの!?」
全属性覚えてるよ。ゲームの。
「こんな子供なのにどうしてそこまで魔法が使えるのよ!」
そんなこと言われても困る。
それに……。
「子供子供ってわたしは子供じゃないよ。17才だし大人だよ」
「「「え?」」」
「え?」
みんなが一斉に疑問を浮かべてたからこっちもで疑問に思ってしまった。
え? 何? わたし変なこと言った?
「ツズリちゃん、17才なの? どう考えても嘘まるわかりだけど……」
「どう見ても、ルルーナと同じ年だと思うぞ。ルルーナ、ツズリと並んで立ってみろ」
ルルが座っていたソファーから立ち上がったのでわたしも立ち上がる。
「ほらみろ、身長がほぼ変わらないだろう」
……。
確かに目線の高さが殆ど一緒だ。わたしが少し高いくらい。
そう、少しだけ。 何故……。
ゲームキャラの身長設定、こんなに低かったかな……。
高いよりは低い方が小回りが利いて戦いやすいと思って低く設定した記憶あるなぁ…。
他のプレイヤーのキャラだって、同じくらいの身長は結構多かった気がする。
「ルルーナはもうすぐ10才だ。そのルルーナと一緒くらいなのだからお前も10才前後だろう」
「そうよ、ツズリちゃん。見栄を張るのは良いけどあからさまな嘘はいけない事よ? 子供は子供らしく、見栄なんて張らなくていいのよ」
見栄も何も本当に17才なんだけど……。
ゲームキャラである弊害がついに出てきてしまったか……!
でも、この身体じゃなかったら森で死んでたかもしれないし……子供扱いくらいなら受け入れよう……。
うん、そうしよう。
「ツズリと同い年と思ったから仲良くなりたかったんです。貴族ってだけで街の同い年くらいの子は皆一歩引いちゃうって言うから……」
ルル……やっぱ貴族の子も大変なんだね……。
わたしも友達は居なかったけど、わたしとは別問題で友達がいないのか。
仲良くしてあげたいな。
トントントン。
「今日はここまでだ。メア、テントを立てるから手伝え」
「えー、もうそんな時間?」
「さっさとこい」
「はいはい、わかったわよ」
馬車の扉が開き、ロングソードさんがメアさんを呼び出した。
ロングソードさん名前なんだっけな。一回誰かが言ってた気がするけど、うーん。
「ツズリ話がある」
名前を思い出そうとしているとハセンさんが話しかけてきた。
「話?」
「お前、この後、行く場所あるのか?」
「うーん。とりあえず街を探して冒険者にでもなろうかと思ってたけど」
「そうか。お金はあるのか? 街で泊まるなら宿代がいるだろう」
あー、そうか。食料もだけど泊まる場所にもお金掛かるよね。
元の世界だとお金があって嫌な事あったけど、お金がないと不便だね……。
お金が欲しい。
「……一文無しだね」
「お父様……」
ルルが心配そうにわたしを見てハセンさんの方に目をやる。
「ツズリ、俺の屋敷に泊まるといい。ルルーナとも仲良くなったのだろう。部屋も余ってる。どうだ?」
「ツズリ! そうしましょう!」
うーん。嬉しい提案だけど……領主の屋敷か……。
貴族関係と関わるのって嫌なんだよねぇ。
あーでもルルは良い子だし、もう関わっちゃってるよね。
どうしようかな。
「収納魔法以外にもツズリの知らない魔法があると思いますよ! 一応貴族の家ですから、魔法陣の事を書いてある高価な本だってあります!」
「わかったよ。泊めさせてもらおうかな」
ハセンさんとルルの優しさに甘えるとしよう。
魔法とか魔法陣に釣られた訳ではないよ。
ルルの良心を無下には出来ないからね。
わたしが断ったら悲しむかもしれない。こんな可愛い子を悲しませるなんて出来ないからね。
決して、魔法に釣られてはいない。
「良かったです!」
「ワーウルフを倒してくれたと聞いている。恩人として屋敷に招待させてもらうつもりだ。貴族の屋敷だからと気負うことなく泊まっていってくれ」
顔に出てたのかな?
恩人って言われても原因を作ったのもわたしみたいなもんだし……。
微妙な気持ちだ。
それからわたしは用意してくれたご飯を食べて、寝る事になった。
夜の見張りは交代で護衛の4人がしてくれるらしい。
わたしもやろうか? と言ったんだけど、子供は寝てろって言われた。
まぁ護衛があの人達のクエストだしね。他人の仕事を取っちゃダメって事だろう。
馬車にはベッドも用意されていて、ルルと一緒のベッドに入ることになった。
ソファーでいいよって言ったんだけどルルにより却下された。
はぁ、なんだか長い一日だったなぁ。