P49 魔道具ツズリ
「ツズリ様、天界シックなの!?」
「なるほど、だからこのキャンプ場を作ったって事。故郷の天界に帰った気分になるのではと。ツズリは女神だけど見た目通り子供。天界シック説に納得」
ルルの天界シックという言葉に、コタビとリリナが食いついた。リリナなんてさっきわたしがからかったからか、ここぞとばかりに楽しそうな笑顔になっている。
「だから! 別に何シックにもなってないよ!」
天界もとい日本には別に帰りたくなるようないい思い出はない。強いて言うならばゲームの世界には戻りたいなとたまに思うから、ゲームシックだ。
でも、この世界は魔法があってゲームみたいなものだから、そこまでゲームシックって訳でもない。なので、何もシックってない。
「ツズリ、天界に帰ったりしないですよね?」
ルルが淋しそうに悲しみを含んだ声で聞いてくるけど、帰るつもりはない。というか、行った事すらないし、そもそも天界があるのかすら分からない。
「大丈夫ですわ! ツズリ様にはわたくし達がいますもの。天界に帰りたいという淋しい思いはさせませんわ!」
「そうなの! ツズリ様にはコタビ達がいるの!」
「……ま、あぁツズリが帰ったら、折角繁盛しだした宿の売り上げも落ちるから帰ってほしくは、ない」
何なんだこの流れは、天界シックでもなしい、帰るなんて一言も言っていないのに帰らないでって言われているみたいになっている。
「帰りたいとはこれっぽっちも思っていなかったけど、ありがと……」
実際、皆がいるからわたしは淋しくないからね。
元々独りだったわたしだけど、この世界に来てからずっと誰かと一緒に居るから、今更一人になると思うと淋しくもなるというものだ。
「ずっと一緒に居てくださいね! ツズリ!」
「うん、それは勿論だよ!」
折角仲良くなれたんだから、急にいなくなったりはしない。
移動手段を手に入れたからちょっと色んな所を見に行きたいけど、それも皆で行けば良い事だしね。
「家に入ってからずっと気になっていたんですけど、なんでこんなに狐の置物だらけなんですか?」
そう、ルルの言う通りこの家には至る所に狐の置物が置いてある。外に置いてある等身大の大きさの物はないけど、ラライア姫やコタビにあげたようなフィギュア程度の大きさの物を置きまくってある。
「それは当然の事なの! ツズリ様は狐の女神様だから、ご自身の神殿には狐をたーくさん飾っているのは当然の事なの!」
「そうですわ! 寧ろ狐の置物がない家はツズリ様の家とは言えませんわ!」
わたしの代わりに何故かここぞとばかりに答える王都勢。
ただただゲームも本も何も置くものがなくて、「そうだ! 狐を飾ろう!」ってなっただけで、別に深い理由はない。
狐を飾ろうって思ってしまう時点で何かしら違う気がするけど、わたしは狐っ娘獣人なのでそういう思考回路になっても致し方がない。
「コタビ……様、さん、ちゃんとラライア……姫様、ちゃんがそう言うなら間違いないですね! ツズリですもんね!」
「待ってルル! 王都勢に洗脳されちゃダメだよ! 負けないで! って言うか、その前に二人の呼び方安定させようよ!」
「洗脳されてませんよ! ツズリなら素直にあり得そうだと思っただけです! 呼び方は……その内……慣れます」
ルルはまだ二人との距離感を掴めていない感じのようだ。
このまま仲良くなると、いずれ王都勢に洗脳されてルルまでツズリ様って言いだしそうだから、いっそのこと距離感を掴めないままでも良いかもしれない。
「これだけ狐が置いてあると、洗脳してるのはツズリの方。皆を狐好きに洗脳していっている。はっ! まさかその為に天界から来たのでは!? キャーあたしも狐にされるー」
リリナが名推理がひらめいたとばかりに得意げに推理を語った後、すっごく心の籠っていない棒読みで狐にされると怯えるしぐさをしている。
狐になんかしないよ。……いや、狐耳と尻尾を付けたリリナ達か……。ありだね!
自分のをもふもふしても虚しいだけだけど、皆をもふもふ出来るならそれもいいかもしれない! 皆可愛いし絶対に合うしね!
「コタビは狐になってもいいの! 寧ろなりたいの!」
流石狂信者コタビ! 何でかんでもわたし関係の事なら首を突っ込んでくる!
「ならなくていいよ! 狐はわたしだけで十分だよ!」
似合うだろうけど、なってほしい訳ではない。そもそもコタビは既に犬じゃないか。イヌ科という意味で既にもうわたしと一緒だよ。
「わーコタビが洗脳されているこのままでは皆狐に……。にげろー」
抑揚のない言葉でまたリリナがそう言って逃げ出した。
「リリナー! 余計な事ばっかり言って! その口を塞がないと駄目なようだね!」
逃げたって事は追いかけてほしいって事だ。城ほど冒険は出来ないけど、わたし達くらいの小さい子供なら走り回れるくらいの広さはある。
しばらく走り回ったりと、皆でわちゃわちゃ騒いで遊んだ。
普段は皆、勉強やら手伝いやら仕事やらと忙しそうにしているけど、たまにはこういう羽目を外して騒ぐのも良いものだ。息抜きって大事だからね。
そんな目的はなく、ただただわたしが皆とキャンプしたいなーってだけだけど、結果オーライだ。
何はともあれ、みんな笑顔で楽しそうにしてくれていて良かった!
そして昼時。昼食時間だ。
キャンプに来てお昼に食べる物と言えば、そう――
「っという事で! お昼はここでバーベキューをするよ!」
場所は池の近くで花畑が一望出来る景色が良い所だ。
本当は川の近くが良いけど、水場という意味で池でも何ら問題はない。
わたしが作っただけあって綺麗な池だしね!
「バーベキューって何ですか?」
なーに言ってんだ、こいつは、と思ってそうな顔で四人とも頭にはてなマークが浮かんでいる。
この世界バーベキューってないのかな。いや、あると思うんだけどなぁ。準備するときバーベキューコンロとか外で料理する用の道具もちゃんとあったし。
「ほら、これを使って外で料理するんだよ」
収納魔法からバーベキューコンロを取り出す。
このキャンプ場を作るってなってから色んなものを収納に詰め込んでる気がする。あれもこれもと準備したり予備も常備したりしていると物の数が多くなっていったんだよね。
整理整頓もする必要もないし、ポンポンポンポンと色んなものを詰め込んでしまった。
わたしの場合はメニューからアイテム欄を開けば収納しているものが分かるので覚えてなくても良いけど、本来そんな便利機能はないから、闇雲に突っ込んでいたら分からなくなる。
唯一あるこのゲーム機能。あまり活用はしていないけど、あるとないとじゃ大違いだ。
「これって、冒険者が野宿するときに使うものですよね?」
「騎士も使うの。遠征したりして野宿するときに使うの」
あーなるほど、バーベキュー用じゃなくて普通に旅用に使うやつなのか。
ワーウルフの時も他の冒険者達とは違ってわたしは街に帰ったし、街から王都までの経路もずっと馬車の中だったから全く知らなかったよ。
「まぁやる事は一緒だね」
「で、でも、ツズリ。お姫様がいるんですよ? 冒険者や騎士の真似事なんてして大丈夫なんですか? 高級な食材と一流の料理人が作らない口に合わないかも知れないですよ?」
確かにお姫様ってなるとそういう事を口にするイメージもある。
魚は切り身で泳いでるとか、木に肉が実ってるとかそんな事を言う世間知らずのお姫様もいるだろうけど、ラライア姫はそんな事は言わないと思う。
世間知らずどころか趣味で世間を見てるからね。主に浮気関係。
「ラライア姫はそんなワガママ姫じゃないよ」
「わたくし、バーべキューやりたいですわ! 寝たきりの期間が長かったので、やった事がない事をドンドンやりたいんですの!」
「ね? ラライア姫はこう言う子なんだよ。それに一流の料理人ならいるからね!」
そう言ってわたしはリリナの方に目線を向ける。
目線を向けられたリリナは「え? あたし?」って戸惑っている表情をしている。
「そうですね! 街一番、いえ世界で一番の料理人です!」
「それは母さんであってあたしじゃない。料理の手伝いはしているけど、雲泥の差」
「そんな事はないよ。上手い人の料理をずっと傍で見て手伝ってたんだから、少なくともここにいる誰よりも実力は一番なのは確かだよ。わたしなんて料理スキルはほぼゼロと言っていいからね」
魔法で料理を生み出せたらそりゃわたしにだって出来るかもしれないけど、そんな事は流石に出来るはずもない。
料理スキルは魔法と違ってイメージ云々ではどうしようもない。経験でしか伸ばせないスキルだ。
元の世界でもこっちの世界でも料理なんてしてこなかったから、料理に振っているスキルはゼロである。
「世界は取れないけど、確かにこの中でなら一番の自信はある」
「ふふふ! リリナ、わたしだって負けてませんよ! こういう事もあろうかとノリスに料理を教わっていたんです!」
「ならどっちが美味しく出来るか勝負。宿屋の料理屋の娘として負けられない」
「望むところです!」
美味しくも何もバーベキューは焼くだけだから、大して料理スキルは必要ないと思うけどね。誰でも出来る、つまりわたしにでも出来そうだからバーベキューにしたんだし。
「コタビも神官として料理はある程度出来るの。ツズリ様に美味しい料理を提供するの!」
神官は騎士に付き添って遠征したりする野宿もする事があるので、料理のスキルもあるんだろうね。コタビという美少女の手料理が食べられるなんて騎士はいい職ですなぁ。
わたしもこれからその手料理を食べるんだけどね! 焼くだけだから誰が焼いても味は変わらないけど!
「わたくしは料理もした事がないので是非ご教授してくださいですわ!」
「コタビが教えてあげるの! コタビをコタビ料理長とお呼びしていいの! ふふーん!」
真っ先にコタビが手を挙げて教えると宣言した。そして、いつものように調子に乗って胸を張って偉そうにしている。
胸を張る事によって子供にしてはふくよかな胸が協調されて……ちっ。
「では、リリナ料理長ご教授お願いしますわね」
「任せて」
ラライア姫はコタビには一切目もくれず、リリナを料理長に任命した。
「どうしてなのー!」
「いや、正しい判断だと思うけど」
「酷いのー!」
項垂れているコタビを一先ず置いておき、バーベキューの準備に取り掛かる。
机を出して食器類と具材を並べる。
家から持ち運んだ訳でもなく手で移動させた訳でもない。収納魔法で収納していた物をパパッと並べるだけだ。取り出したい所に取り出せるから、重たい物でも簡単だ。
準備は完璧! さーバーベキューをするぞって意気込んだところで、問題が発生した。
「ツズリ、これどうやって火をつけるつもり?」
「水もないですよ。まさか池から汲んで来るわけじゃないですよね?」
なーに言ってるんだ、この娘らは。炎も水も魔法があるんだから魔法でやるんじゃないの?
ガスとか水道とか今まで使ってるとこも見た事ないし、使った事もないよ。魔法が使えるんだから全部セルフサービスだ。
「火も水も魔法で出せるでしょ?」
右手に水球、左手に火球を作り出して証明して見せる。
「ツズリ……、それが出来るのはツズリだけです。普通はそれぞれ炎の魔石と水の魔石を用いた魔道具を使うんですよ。そんな常識的な事も分からないんですか?」
確かに、普通は一属性しか使えないと言っていた気がする。すっかり失念していたよ。
「そんな道具がある事すら知らなかったよ……。用意してないからわたしが魔道具の代わりになるよ! 魔道具ツズリとして活躍するよ!」
「分かった。じゃあ、お肉を焼くから炎魔法使って」
「いよーっし! 任せて!」
わたしはリリナの指示に従ってバーベキューコンロに火を灯す。
ガスも炭もいらない! なんて魔法は便利なんだろうか!
「もうちょっと火力上げてもいい」
「りょーかーい!」
リリナに言われた通りに火力を上げる。わたしは魔道具。リリナの言われた通りに魔法を使う道具だ。
細かい妖力のコントロールの練習にちょうどいいかもしれない。
……。焼けるの遅いな。もっとパパッと焼けないかな。
火力をあげたら一瞬で焼けるんじゃないだろうか。そうすれば早く食べられるし、そうした方がいいよね!
思い付いたら即行動。わたしは込める妖力を多くした。
すると、バーベキューコンロの炎が燃え上がり、お肉を焼いていく。
「わっー! こらー! 魔道具ー!」
「危ないじゃないですか! 急に火力をあげないで下さい!」
「はい! ごめんなさい!」
料理をしていたルルとリリナに怒られてしまった。
うん。そりゃそうだ。火元の近くで料理しているんだから、危うくルルとリリナまで焼けてしまう所だった。
流石に無計画過ぎた。気を付けないといけないね……。
「あー、お肉も焦げ焦げ」
「ツズリは魔道具クビです! 今からでいいので魔道具を買ってきてください!」
「はい! 畏まりました!」
魔道具をクビになってしまった。
おかしいなぁ。火力をあげたら焼ける早さが上がって効率よくなるはずだったのに。




