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お狐様スローライフ  作者: くるみざわ
狐っ娘、キャンプライフ
47/144

P47 初めてのキャンプに行く

リリナ視点です。

 ツズリからキャンプに誘われた。

 あたしは街の外に行くどころか誰かと遊びに出掛けるのも初めてだから、緊張と不安で一杯。

 それでも楽しみという感情の方が強い。ルル様とツズリと遊ぶのが楽しみ。


「母さん、明日からルル様とツズリと一緒にキャンプに行こうって誘われた」


「ああ、リリが毎晩嬉しそうに話してくれる一人は領主様の娘さんで、もう一人は商業の女神様の二人ね」


 母さんはツズリの事を商業の女神様って呼んでいる。

 ツズリのお陰で借金を返せて、女神様印のブランドがそれに拍車をかけて儲かったから、商業の女神様らしい。

 ツズリ自体は店に尻尾の毛を落としていって掃除を大変にするだけなのに。


「毎晩は話してないし、嬉しそうにもしてない! けど、そうその二人。仕事を休む事にはなるけど、あたしは行きたい」


「勿論、行って来ていいわよ。商業の女神様が一緒なら安心できるわ。リリから色々噂を聞いているからね。森を凍らせて無くならせたり出来るくらい強いらしいものね。それに、商業の女神様のお陰で人手も増えたからね。看板娘が不在になるのは痛手だけど、そこは私が代わりを務めるわ!」


「それはやめて。客が減る」


 母さんはもうちょっと自分の年齢を考えてほしい。

 周りからは二十代に見られているけど、実際にはもっと上。見た目と実際の年齢は時に一致しない。


「もう酷いわね~。一体誰が育てたのかしら親の顔が見てみたいわ」


「はい、鏡」


「あらぁ~、素敵な母親が写ってるわ。やっぱり看板娘役もまだまだいけるわね」


「それはやめて。宿が潰れる」


 見た目若いからお客様の中には喜ぶ人がいるかもしれない。でも、娘のあたしから見ると精神的に来るものがある。

 それに、料理を作れるのは実質母さんだけなので、接客に回ると誰も母さんレベルの料理を作れない。

 あたしも練習はしているけど、まだまだ追い付くには程遠い。

 そういう意味でも宿が潰れてしまう。


「はいはい、看板娘はやらないわよ。それにしても、リリに遊べる時間が出来て良かったわ。リリには遊ぶ暇なく働かせちゃって苦労ばかり掛けて来たものね」


「父さん亡くなってから、あたし達二人で頑張って行くって決めたから気にしてない。それに働くのもあたしは楽しい」


「あらあら、いい子に育っちゃって~。一体誰が育てたのかしら。あ、私だわ~」


 母さんが年甲斐もなく可愛いと思っているであろうポーズで照れている。

 見る人が見れば可愛いのだろうけど、娘としてはつらい。これ以上見ていると精神が持たないので、逃げよう。


「明日の準備をして寝る」


「あら、もう寝ちゃうの?」


「キャンプは遠出だから朝が早い」


「そうなのね。初めてのキャンプだから楽しみで寝られなかったってならないようにね」


 母さんがからかうように微笑みながら言ってくる。


「そんな事になんてならない! ちゃんと寝る、おやすみ!」


 あたしだっていつまでも子供じゃない。ちゃんと成長している。

 街の外に出るのも初めてで楽しみだけど、だからって寝られなくなるなんて事はない。絶対。


「……ね、寝られない。どうしよう……。そ、そうだ、動物の数を数えるといいって聞いた事がある。それを試してみよう」


 なんの動物だったのか覚えてない。確か、もこもこした動物。

 もこもこ……もふもふ……。ツズリ……?

 ツズリは獣人の見た目をしているし、動物と言っても過言じゃない。ツズリを数えよう。


 ツズリが一匹、ツズリが二匹――

 ツズリが百四十三匹……。


「あーもう! 尻尾が暑苦しい……! って夢……」


 いつの間にか寝られていたのに夢の中までも数えていたから悪い夢を見てた。

 折角寝られたのに。ツズリのせいだ。


 その後、一回目が冴えてしまったせいで寝る事が出来なくて、結局朝。


「母さん、おはよう」


「おはよ~。昨日はちゃんと寝られた?」


「もう、ばっちり」


「ふふ、目の下に隈が出来てるけどばっちりなのね。朝食出来ているから食べてね」


 母さんが笑いながら指摘してくる。どうやら寝不足で隈が出来ているみたいだ。

 確かにいつもよりは短めだけど、少しは寝られたからばっちりだ。

 朝食を食べ終わると、丁度ツズリが迎えに来た。


「ツズリ、おはよう。今日はよろしく」


「うん、任せて! さ、乗って乗って!」


 乗ってと案内されるのは宙に浮いている絨毯。ルル様も既に上に乗って座っている。

 絨毯に乗って移動するなんて初めてで怖いけど、貴族のルル様が安心して毎回乗ってくるから安全だとは思う。


 あたしは恐る恐る絨毯に乗る。

 あ、薄いからふにゃふにゃしてるのかと思ったら、意外とちゃんと踏みしめる事が出来て安定感がある。


「おはようございます!」


「ルル様、おはよう」


 嬉しそうな笑顔で挨拶をしてくれるルル様の目の下には隈が出来ている。


「リリナも隈が出来ているんですね! わたしも今日のキャンプ楽しみで全然寝られませんでした!」


「あたしはツズリのせいで寝られなかっただけ。全部ツズリの尻尾が悪い」


「え? わたし?」


 ツズリがあられもない疑いを掛けられて困っている。

 あたしが勝手にツズリで数を数えて悪夢を見ただけだから仕方ない。でも、ツズリのせいだ。


「ツズリ! リリナにも何かやらかしたんですか!」


「何もしてないよ!」


「ツズリに悪夢を見せられた。尻尾の熱で苦しめられる悪夢だった」


 火に油スライムを投げ入れるかの如く、あたしは答える。


「ほら! リリナもこう言ってるじゃないですか!」


「見せてないよ! 悪夢を見せるなんて、そんな魔法使えないよ!」


「ツズリならそういう魔法も使えそうですけどね」


 ルル様がツズリを疑わしそうな目で見ている。

 確かにツズリなら悪夢を見せる魔法も使えそう。そんな魔法聞いた事もないけど、ツズリは知らない魔法を沢山使っているのを噂で聞く。使えても不思議ではない。


「うーん、今度使えないか考えてみるよ」


 余計な知識をツズリに与えてしまったかもしれない。

 そんなこんなであたし達はキャンプの場所に向けて飛び立った。


 っと、思ったら何故か向かった先は王都の王城。しかも、窓越しの目の前に姫様と神官様がいる。

 姫様は見た事がないけど、お城にいるお嬢様なら姫様で間違いない。高価そうな、というか絶対高価な服を着ているから確定で姫様。

 神官様の方は服装で分かる。神官様の服を着ているから神官様。

 一体どうしてこうなっているんだろう。


「ぃやっすー! 迎えに来たよ!」


「ツズリ様待ってましたわ!」


「待ってたの!」


 ツズリが姫様と神官様に対して気安く話しかけている。いや、まぁそれはいい。ツズリはあんなんだけど、女神らしいから、姫様よりも立場が上でも問題ない。

 そうなると、そのツズリに気安く口を利いているあたしは姫様よりも……上?

 うん、そうなるね。


「ツズリ、ツズリ。どうして姫様と神官様がいるんですか!」


「え? 言ってなかったっけ? 王都に来てる時に仲良くなった二人も一緒に誘ったんだよ。誘わなかったら絶対に後から文句言われるからね」


「そういう事は事前に言ってくださいよ!」


 あたしもルル様と同じ意見。

 ツズリはいつも説明不足。ちゃんと言っておいてほしい。


「ごめんごめん。じゃあ、紹介しとくね。この国の姫のラライア姫と忠犬……じゃなくて神官のコタビ」


「フォルグナス王国の姫、ラライア・フォルグナス・アーベラルですわ! ツズリ様繋がりの縁です。気軽にラライアとお呼びくださいですわ!」


「コタビはコタビなの。ツズリ様の一番弟子なの! 尊敬の眼差しで崇めるといいの!」


 姫様の方はルル様と同じく階級関係なく仲良くしようって言う考え方みたい。凄くありがたい。

 コタビって言う子は何て言うか、凄く扱いやすそう。


「はいはい、調子に乗らないの。魔法は教えたけど、別に弟子じゃないからね。っんで、こっちの二人がわたしがお世話になっている街の領主の娘のルルと、街一番の料理を作る宿の娘のリリナだよ」


「えっと、ゼルドガルの街の領主の娘、ルルーナ・ゼシュルーネです。えっと、本日はお日柄も良く……」


「そんな堅苦しい挨拶は良いよ、ルル。ラライア姫はそんな硬い人じゃないからね」


「そうですわ! 折角、歳も近いんですもの、気軽に接してくださいですわ!」


「ね? ルルがリリナに求めるような感じの付き合い方でいいんだよ」


「わ、分かりました」


 ルル様の今の気持ちは良く分かる。あたしが普段ルル様に思っているのと同じ気持ちだ。

 街の領主の貴族だから、いくら仲良いとはいえ失礼は出来ない。周りで誰が見て聞いているから分からないから、他の貴族の人に見られて嘗めた口を利きやがってって怒られるかもしれない。

 まぁそれは建前で、本当はルル様をからかっているだけなんだけど。拗ねてるルル様が可愛いからついついからかってしまう。


 ルル様の紹介が終わったので次はあたしの番だ。


「あたしはリリナ。ラライアとコタビ、二人ともよろしく」


「よろしくですわ!」


「同じツズリ様教徒として、よろしくなの!」


「そんな教徒は作ってないよ!」


 店を毛で汚す教徒には入りたくないので、是非ともご遠慮したい。

 あたしが入るとしたらルル様を陰から見守る教徒。その教徒なら入ってもいい。寧ろあたしが設立する。


「ちょっと待て下さい、リリナ! どうしてわたしの事は様付けなのに姫様には様には付いてないんですか!」


 やっぱり、ルル様が突っかかって来た。絶対そう来ると思った。というかそうさせた。

 ちょっとふくれっ面のルル様が一番可愛い。膨らませてる頬をツンツンしたい。


「気軽にラライアと呼べって命令が下ってた。あたしは姫様の命令に背くような不敬な国民ではない」


「だったら、わたしもルルって呼べと命令します!」


「あたしは街の領主の娘を崇め奉らなければならないからその命令には従えない」


「なんでですかー!」


 ルル様をからかうのが楽しいから。とは言えない。その方が楽しいし、ふくれっ面のルル様の顔を拝める。


「おー! コタビもツズリ様を崇め奉ってるの! リリナとは崇め仲間なの!」


「わたくしもツズリ様を崇めてますから、崇め仲間ですわね!」


「仲間。よろしく」


 あたしはコタビとラライアと硬い熱い握手を交わした。

 崇める先は違えど、思いは一緒だ。この二人とも気が合いそう。


「なんかお互い大変だね、ルル」


「そうですね……」


 そんな思わぬ出会いがあったけど、あたし達は今度こそキャンプ地へと向かった。




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