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お狐様スローライフ  作者: くるみざわ
狐っ娘、王都ライフ
41/144

P41 王都から帰還する

 絨毯の旅は快適だ。何せ地面のようにデコボコがないし、曲道もないし障害物も何もないからね。

 高度を上げれば遠くまで見ることが出来るのも利点の一つだ。だからと言って、飛行機並みに高く上がったりはしないけどね。

 高く上がるとそれだけ酸素が薄くなる。流石に神様謹製の巫女服も酸素生成機能何てものははないから、息苦しくなってしまう。


 ルルの街が見えるのはあっという間だった。

 そりゃそうだろう。行きは騎士という徒歩の護衛を連れてちんたら進んだけど、帰りは言うならば車だ。空飛ぶ車みたいなものだ。そりゃ、あっという間に着くよね。


 速度を上げ過ぎて一回目は落ちたけど、そこは学習能力が備わっているわたしだ。ちゃんと対策補施した。

 進行方向に風魔法の壁を応用して新幹線みたいに空気抵抗を減らすようにバリアを張った。これで、風に突き落とされる心配もないし、空気抵抗も減らすことが出来る。

 風魔法の壁。つまり空気の壁なので透明だから視界も良好。魔法って最高だね!


 街の壁も何のその、無視して上空から侵入……いや、帰還する事が出来る。ワーウルフの時に壁を乗り越えてるからね。今更だよ、今更。

 そのまま、屋敷のルルの部屋へ外から直行する。部屋の窓を外からコンコンとノックする。


「ルルー! ただいま、やっと帰ってこられたよ!」


「遅いです! 遅いですよ、ツズリ! 本当に王をはっ倒して地下牢にでも閉じ込められているのかと思いましたよ!」


 窓がバーンと勢いよく開き、ルルが飛び出してきた。危うく落ちる所だったけど、わたしに抱き着く事で難を逃れた。

 ふぅ、絨毯がなければ落ちてるところだったよ。まぁ普通は窓から帰って来る人なんていないから、ルルも跳び出したりはしないだろうし、絨毯がなくても落ちはしないけどね。


「流石のわたしもそんな事はしないよ。はっ倒してもいいような王だったし、牢屋に閉じ込められても抜け出せると思うけどね」


 わたしに王子を押し付けて取り込もうと考えてそうな王だし、はっ倒しても文句は言われないだろう。ただ、ラライア姫の父親ではあるから、そんな事は絶対にしないけどね。折角仲良くなれたのに、王ごときで仲違いしたくない。


「はっ倒していいような王なんていませんよ! 強いて言うなら魔王くらいです!」


「魔王をはっ倒す使命を背負いたくないから、魔王ははっ倒さないよ」


 ただでさえ女神という役職を背負っているんだから、勇者とか言う責務なんて背負いたくない。これ以上背負っちゃうと、背が伸びなくなりそうだ。


「ところで、この絨毯は何ですか? ツズリに事だから別に浮いてても不思議には思わないですが」


「あー、これはえーっと、ツ、ツズリ一号機だよ」


 二号機はまだない。というか絨毯だから機ですらないか。


「何ですかそのへんてこりんな名前は……」


「いや、名前があった方が良いかなって……。これに乗って王都から帰って来たという思い出が出来たからね」


「絨毯に乗って帰って来たんですか? また、ツズリは変な事ばかりしてますね」


「いやいや、変な事じゃないよ。絨毯と言えば空を飛ぶでしょ?」


 空飛ぶ絨毯に透明になれるマント、空を飛べる箒。変身ステッキとか変身ベルト。魔法のアイテムと言えば当たり前のように出てくるものだ。だから絨毯は飛んで当然だ。

 ……変身ベルトは趣旨が違ったか。


「普通は飛ばないです。部屋に敷くものですよ。ツズリは相変わらず、そんな常識的な事も分からないんですか?」


 ルルがジト目でいつもの台詞を口にする。

 わたしは思わずルルの手を握り上下に振って嬉しさをアピールした。


「わー、本物のルルだ! その台詞久しぶりに聞いたよ!」


「何で喜んでるんですかっ!」


「ルルにやっと再会出来た嬉しさが抑えきれないから?」


「そんな何年も生き別れていたみたいに言わないで下さい! でもまぁわたしも会えて嬉しいです。お帰りなさい、ツズリ!」


「うん、ただいま!」


 絨毯の上で感動の再会だ。って訳ではないけど、ルルのところへと戻って来た。王都も楽しかったけど、この世界に来て初めて仲良くなったのがルルだから、やっぱり落ち着くよね。

 実家に帰って来た感覚ってこんな感じだろうか。前世では結局、家には戻らなかったからなぁ。戻る必要性も感じなかったけど。


「ツズリ様、お帰りなさいませ」


 ルルとの会話が終わるのを見計らってノリスさんが話しかけてきた。

 ノリスさんがいるって事はルルは勉強中だったのかな。


「窓越しからでなんか申し訳ないけど、ただいま、ノリスさん」


 絨毯の上で座っているわたしとルル、そしてルルの部屋の窓を挟んでノリスさんがいる。何だこの状況は。いや、わたしが窓からルルの所に直接来たのが悪いんだけどね。

 折角の空飛ぶ絨毯なんだから、見せびらかしたかったっていう思いもあったんだよ。だからこの状況は仕方がない事なのだ。


「窓から帰られる方は初めてなので、どうお迎えすればいいのか困りますね」


「うん、そうだよね。ごめんなさい。今度からはちゃんと門から飛んでくるよ」


「ツズリ……飛ぶことをやめた方がいいですよ……。降りて歩いて入って来て下さい」


 おっと、そうだったか。飛べる嬉しさで降りるという選択肢がわたしの中から消去されてたよ。もうずっと飛んでいた気持ちで一杯だった。


「それはそうとルルーナ様、勉強がまだ途中ですよ。ツズリ様が戻って来られて嬉しいのは分かりますが、私はそんな事では甘やかしませんよ」


「ええー! 折角ツズリが帰って来たのに勉強なんてしてる場合じゃないです!」


「ダメですよ。今日の分の勉強範囲はまだ終わっていないんですから」


「ブーブー!」


 ルルがわたしに抱き着き、ブーイングをして勉強には戻らないという意思表示をしている。

 久々に会ったからなのかやたらとスキンシップが激しいな。というか、どさくさに紛れて耳と尻尾をもふもふしているな。

 いつからルルはモフラーになったのか。……わたしのせいかもしれないね。わたしって毛並み良いしもふもふだし可愛いし仕方ないね。わたしももふりたいけど、自分で自分の尻尾をもふるのは違うんだよね。


「ぐぅ~」


 っと、そんな事をしているとわたしのお腹が鳴ってしまった。恥ずかしい……。

 もう昼食の時間になっていたのか。朝一で帰るつもりだったけど、何故か城の探索という緊急イベントが入ったから、思っていた以上に時間が経っていたみたいだ。


「ほら! ツズリもこう言っています! お昼の時間です! 勉強終わりー!」


「いよーし、わたしはリリナの所でお昼を食べてくるから、ルルは勉強頑張ってね!」


「何でですか! わたしも連れて行ってくださいよ!」


「痛い痛い! 連れて行くから尻尾を握らないで!」


 さっきまでもふもふと握っていた手に力が入り、尻尾を強く握られてしまった。どんだけ勉強が嫌なんだ。元から一緒に食べるつもりだったよ。変な冗談は言うものじゃないね。

 勉強が嫌というよりは、わたしと一緒に居たいという気持ちもあるんだろうけどね。勿論、勉強も嫌なのも理由の一つだろうけど。


「はぁ、分かりました。今日ところはこれでお終いとします」


「やったー! ありがとう、ノリス! ではツズリ、ノリスの許可も得たのでお昼を食べに行きましょう!」


「そうだね。じゃあ、このまま飛んで行こっか」


「お気をつけていってらっしゃいませ」


 絨毯に乗って、リリナの所へと移動する。

 やっぱ空を飛んで移動するって楽だね。建物の上を飛んで行けるから、一直線だ。元の世界だと電線とかがはびこっているから、飛ぶのが難しいかもしれないけど、この世界の灯は魔法だから電線なんてものは勿論ない。そもそも、電気がないしね。


 それに、街を歩くと視線がどうしても視線が集まって注目の的になりがちだけど、この状態なら見られても絨毯の裏側しか見られないからね。「何だあれっ」て騒がれるだけだ。

 まぁ、この街だとわたしを見慣れてる人ばかりだから「ああ、またあの獣人の娘か」って思われるだけなので、特に問題はない。


「わー! 本当に飛んで移動できるんですね、ツズリ一号機!」


「はしゃぐのは良いけど、柵とか何にもないんだから落ちないでね」


 ルルが飛んで移動する事にテンションが上がっている。王都からの帰りみたいな速度ではなく自転車並みの速度だから、風魔法で壁は張っていない。どっかの誰かみたいに落ちたら大変だ。

 え? どっかの誰かはワタシジャナイデスヨ。ヤダナー。


「柵が無い事ぐらい見れば分かります。落ちないですよ。馬鹿じゃないんですから」


「……うん、そうだね」


 ルルはわたしが落ちた事を知らないはずだけど、遠回しにわたしが馬鹿って言われた気分になる。いやいや、わたしは才色兼備だから馬鹿なはずはない。


 そうこうしているうちにリリナがいる宿に到着した。


「こんにちは、リリナ。久しぶりだね」


「久しぶり。重罪をやらかして捕まったって風の噂で聞いてたけど、帰ってたんだ。脱獄おめでとうございます」


「いや、どんな噂が流れてるんだよ……。捕まってなんかないし、脱獄したわけじゃないよ」


 誰だそんな噂流したやつ。ここは冒険者とか旅してる人が良く泊まる宿だから、色んな人が来るので色んな噂を聞くんだろうね。

 まぁ実際、捕まったって言うか、王族に取り込もうとはしてきたから、その噂はあながち間違ってはいないかもしれない。


「そうですよ! 捕まったのではなく、捕まる事をしでかすかもしれなかっただけです!」


「それもないよ! わたしが何かやらかした事なんて何もないでしょ」


「「…………」」


「どうして二人ともが黙るんだよ。せめて、何か言ってよ」


 それ本気で言ってるの? っていう感情が伝わってくる目でこちらを見てくる二人。どうして、わたしの印象は何かをやらかすって事になっているのだろうか。

 ルルの話した事が盛られてすり替わって流れてわたしが捕まったって言う噂に化けたのではないだろうか。噂とは得てして真実としては伝わらないものだしね。


 なんか納得がいかないけど、わたしとルルは席に着く事にする。いつものように今日のオススメ料理を頼み持ってきてもらう。


「うん! 今日も美味しいね! お城の料理も美味しかったけど、やっぱわたしはここの料理が一番好きだよ」


「ありがとう。王城に勝ったとなれば母も喜ぶ」


「流石はこの街一の美味しい料理です! いや、この国一の美味しい料理ですね!」


 お城の料理は王族に出す料理だ。そりゃもう、最高級の素材と料理人を使っているんだろうけど、わたしの舌にはここの料理が一番合う。この世界に来て、この街に住みだしてからほぼ毎日のように来てたからっていうのもあるだろうけどね。


「この国一って事は、実質、世界一。これ以上繁盛してしまったら、あたしの体力が持たなくなる」


 この一瞬でもう世界を取ってしまった。噂を飛躍させているのはリリナなのではないだろうか。


「人を雇えばいいのに、何だったらわたしが手伝ってあげてもいいよ?」


 冒険者業もいいけど、雑魚狩りばかりのクエストばっかだだろうからね。ゲームでもそうなんだけど、レベルが上がると高ランク帯にしか興味がなくなってしまうんだよね。

 元々お金の為に始めた冒険者だし、今はお金は十分にあるから冒険者に精を出す必要はないんだよね。


「ツズリが手伝うならわたしも手伝います! 任せてください!」


「両方無理。ツズリは尻尾とかの毛が料理に入りそう。領主の娘であるルルーナ様を働かせたり出来ない」


「相変わらず辛辣だね……」


 ルルは「また領主の娘である弊害が……」と下を向いて落ち込んでいる。

 リリナの意見はもっともな意見だと思うけどね。街の領主の娘、つまり貴族にバイトさせるって流石に気が引けるんじゃないだろうか。客側としても領主に接待されたら、普通の人は緊張して折角の料理の味が分からなくなりそうだ。

 わたしは王に接待されたとしても、そんなことはどうでもいいので普通に味を楽しむけどね。とくにこの国の王は姫よりもコタビよりも下なわけだから、何の気負いもいらない。


 ルルに関しては分かる。いいとしよう。

 わたしが無理な理由なんて毛が入るからだよ!? わたしはペットか!

 飲食店はそりゃペットの持ち込みはダメだろうけど、わたしはペットじゃないよ! 確かに、獣人だから獣ではあるけどもさ。


「それでずっと気になっていたんですけど、王都で何してきたんですか? 王様直々に呼ばれたみたいですけど」


「あたしも気になる。王都に行った事ないから、色々聞かせてほしい」


 リリナは王都に行った事ないのか。まぁ、遠いしからね。それに宿での仕事もあるだろうし、遠出は出来ないんだろう。


「うーん、そうだねー。姫を助けたり、害虫駆除したり、王子を押し付けられそうになったり、パンツを拾ったりしたよ。あと王都では碌でもない男が姫に見張られてるね。調査されてたね」


「なるほど、やっぱり何か色々やらかしてきたんですね。それだけは分かりました」


「やらかしてないよ! 総合的に見たら王都を救って来ただけだよ!」


「害虫に襲われていた姫様を助けて、その害虫を倒し、王子様のパンツを押し付けられそうになって、王子様が王城を追放されて、姫様がその王子様を見張っていると……」


「リリナ、全く合ってないよ! 何一つ合ってないよ! かすってもいないよ!」


 やっぱリリナの曲解のせいで変な噂が流れているんじゃないだろうか……。この宿は色んな人が来るから、リリナから聞いた人が広めて更に変に伝わったりしているのではないだろうか……。


 そんなこんなでルルとリリナに詳しく王都での事を話したりした。途中途中でリリナが母親に働けって呼ばれたりしてたけど、沢山話す事が出来た。

 こうやって話してると、帰って来たんだなって思えるね。




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