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お狐様スローライフ  作者: くるみざわ
狐っ娘、王都ライフ
40/144

P40 お城冒険記

「それで、姫様。緊急事態ではないのなら、ご用件はなんですか?」


「ツズリ様が絨毯が欲しいといっているので、いくつか絨毯を持ってきて欲しいのですわ」


「絨毯ですか? どれくらいの広さの絨毯が必要ですか?」


 スインさんが腕で四角く表しながら、広さを聞いてきた。

 広さかー。そこまで広くなくてもいいんだよね。わたしがゴロゴロ出来ればいいだけだし。

 あーでも、ルルやリリナ、ラライア姫やコタビを乗せたりもするかもしれないし、五人は乗れるくらいの広さが欲しいかも。

 まぁ、直接見に行った方が早いか。この城の移動は大変だけど、わたしの身体は運動くらいじゃ疲れないからね。便利な身体になったものだ。

 長い廊下という精神的ダメージにさえ耐えられればいいだけだ。


「自分の目で見た方が早いから、絨毯倉庫にわたしも付いていくよ。案内してもらえる?」


「いいですけど、遠いですよ?」


「だ、大丈夫。遠くてもいいよ」


 なんで同じ城内にあるのに遠いって表現が出てくるんだ。もっと小さくてもいいよ城。国の象徴たる建物なんだろうけどさ。


「分かりました! では、女神様を絨毯倉庫へ案内いたしますね! まさか、神様を案内するという大任を任されるなんて思いもしませんでした! 張り切って行きまっへぶあっ!?」


 スインさんが張り切ってって言いながら、手を突き上げ後ろを振り向いて、壁にぶつかった。本当におっちょこちょいで慌てん坊だね。

 張り切るのはいいけど、空回りしまくってるよ。流石、慌てん坊スインの異名をほしいままにしているだけある。


「えっと……、大丈夫?」


「は、はい……。いつもの事なのでこれくらいへっちゃらです!」


 いつもの事って……。スインさんのせいで城内ボロボロになっていってるんじゃないか?

 この城スインさんに壊されたりしない? 大丈夫?


「っという事で、わたしはスインさんと絨毯を見に行ってくるから、二人はリバーシでもしてて待ってて」


 リバーシを収納魔法で取り出し、コタビに渡す。

 コタビが嬉しそうにわたしから受け取った。そんなにやりたかったのかな、リバーシ。


「おー! 前にやった神々の遊びなの!」


「ルールはちゃんと覚えてますわ!」


 神々の遊び……ではないんだけど、まぁいいか。そう思われていても、さして問題はないだろうしね。




 ラライア姫の部屋を後にして、わたしとスインさんは城内を移動する。長い長い廊下を歩く。


「大分歩いてきたと思うけど、もうすぐ着きそう?」


「あ、はい! もうちょっとです! もうちょっと!」


 そして再び、長い長い廊下を歩く。

 この景色さっき見た気がする。いや、長い廊下だし模様が一緒だから、そういう風に見えるだけか。


「そろそろ着く?」


「もも、もうちょっとですー! 任せてください!」


 なんか若干声が震えてる気がする。まさか、迷子になったりしていないよね。

 わたしも何も考えずに付いてきただけだから、ラライア姫の部屋にここから戻れって言われると、全く覚えていないから強くは言えない。けど、城のメイドである人がそんな迷子になるなんて事はないよね。

 ……。でも、スインさんだからなぁ。あの慌てん坊スインさんだからなぁ。


「あー! 着きました! ここです、ここ!」


 スインさんが目の前にある扉を指さして、ジャンプしながら喜んでいる。その後ホッと胸をなでおろし、一言。


「いやー、一時はどうなる事かと思いましたね!」


「やっぱ迷子だったんじゃん!」


「あわわわわー! そんな事は……ないですよ!」


 何だその一瞬の間は。絶対、迷ってたでしょ。確定じゃないか、その反応は。

 まぁいいか。無地に目的地に着いたみたいだからね。結果的に辿り着けたのなら道のりなんて気にしなくていいのだ。


 扉を開け中に入ると、そこは……雪国でも絨毯倉庫でもなく、花瓶倉庫だった。絨毯倉庫も大概だけど、花瓶倉庫まであるのか。


「現在進行形で迷子なんじゃん!」


「あわわわわー! 間違えましたー!」


 迷子だったのではなく、迷子だ。道のりなんて気にしないとは言ったけど、現在その道のりの最中のようだ。これは長い道のりになりそうだね。

 遠いですよって聞いてきたあの言葉の意味は、実は迷子になる事を見越しての事だったのではないだろうか……。


 それから色んな扉を開けていった。

 布団類倉庫、ソファー倉庫、魔石倉庫、武器庫、絵画倉庫……。

 倉庫類が多い。多すぎる。七割方倉庫で出来ているんじゃないのか、この城。


 そしてさらに、調理場、書庫、ラライア姫の服部屋、ラライア姫の部屋、メイドの控室、極めつけは外。城外だ。

 なんだ? わたしは城の探検でもしているのか?

 ラライア姫の部屋に一回戻ってきたときは目が点になったよ。言葉を失ったよ。どうしてスタート地点に戻ってきているんだ。双六の害悪マスを踏んだわけではないんだぞ。

 外とかもう、どうしようもないじゃん。開ける前から分かってたじゃん。出入り口だもん。ここに来たら絶対通る場所だもん。


「はぁ……はぁ……。こ、今度こそ……!」


「もう、運ゲーになってるじゃん……」


 城内をくまなく歩きまわったせいか、息を切らしているスインさんが次の扉を開ける。

 なんで、絨毯探すだけで物凄い運動量になっているんだろうか。これだけ運動していれば、スインさんのスタイルの良さもうなずけるというものだ。ほぼ自滅の運動量だけど。


「正解です! 正解を引きましたよ!」


「おめでとう! 成し遂げたね!」


 わたしも色々な所をめぐり回って精神的に疲れて変なテンションで喜んでしまったけど、いやいや、おめでとうじゃないんだよ。一発で辿り着いてくれよ。


 絨毯倉庫から手ごろな絨毯を選び、ラライア姫とコタビがいる部屋へと戻る。たったこれだけの為にどれだけ時間を掛けているんだか……。


 戻るときはわたしが先頭で歩く。ここまで迷子になってる人にもう案内は任せられない。一回、ラライア姫の部屋に戻ってから、わたしの頭はマッピングスキルに全振りしている。

 ゲームでも一回、批判殺到の迷路イベントがあった。一時間くらい掛かる迷路を抜けないとボスに辿り着けない仕様だ。その時に鍛えられたマッピング能力がこんな所で行かされるとは思わなかったよ。

 まぁ、そのマッピングしたマップを使わなくなったら、すぐ忘れるんだけどね。城にも頻繁に来るわけじゃないだろうから、使う機会はないだろう。


「女神様凄いですねー。もう城の構造を覚えたんですか?」


「まぁね。このままだと陽が暮れそうだったから必死で覚えたよ」


 本当に陽が暮れてしまうと帰るのがまた長引いてしまう。これ以上長引くとルルに忘れられてしまうかもしれないね。


 っという事で、ラライア姫の部屋に再び戻って来た。絨毯倉庫探しで一回戻ってきているので、再び、だ。

 そもそも、絨毯倉庫探しって言うのがおかしいのだ。普通は探すものではなく、探さずに辿り着くものだ。


「ただいまー。色々な冒険を経て、無事、絨毯を入手出来たよ」


「お帰りなさいですわ。一回戻ってきて、また出発しましたけれど、何かあったんですの?」


「あー、まぁ、本当に色々あったんだよ。色々とね」


 色々あったというか、色々な場所に行ったと言った方が正しいけどね。いや、本当に。城内くまなく巡った気がするもの。

 今ならこの城のトップレベルで城の事について詳しい自信あるよ。こんな事でトップなんて取りたくはないけども。


「そうなのですね。スインの事ですから大体想像できますけれど、何というか……お疲れ様でしたわ」


「スインさんだし仕方ないの。お疲れ様なの」


 長い事一緒に居るであろう、主従関係の二人。ラライア姫とスインさん。そして、姫専属でもある神官コタビもスインさんとは長い付き合いなのだろう。スインさんが何をしでかしたのか二人は察しているみたいだ。


「ちょっとー。その言い方だと私が何かやっちゃったみたいじゃないですかー! 心外ですよー!」


「「「…………はぁ……」」」


 わたし達三人はお互いに顔を見合わせ、そして溜息を吐いた。出さざるを得なかった。

 あれだけ迷子になったのに本人に失敗しているのだという自覚がない。どういう頭の作りをしているんだ。ポジティブだから失敗を失敗と思わないって事なのか? それともただの馬鹿なのか?


「皆さん揃ってなんですかその溜息は! 合唱ですか!?」


 自覚がないメイドはなんで溜息をつかれたのか分からず、合唱だと勘違いしている。意味が分からない。

 どうしようもないメイドはどうしようもないので、ひとまず置いておくとしよう。


「それで絨毯は持って来たけど、いくらくらいするの?」


 収納魔法で持って来た絨毯を取り出し、値段を聞く。城の物だから高級なものに違いない。そんなものをタダで貰うわけにはいかないので、ちゃんとお金を払はないとね。


「絨毯くらい差し上げますわ。どうせ倉庫に使えないほどあるんですもの」


 確かに、倉庫にはぎっしりと絨毯が置いてあった。絨毯倉庫が必要だなって思えるほど置いてあった。けど、それとこれとは話が別だ。

 くれるものは何でも貰うけど、自分から欲しいと言ったからには自分から何か支払わないといけないと思うんだよね。


「うーん、そういうわけにはいかないから、やっぱ払うよ。タダで貰うとなんかモヤモヤするし」


「そうですの? だったら、絨毯と交換でこのリバーシを頂けませんか?」


「え? それ、わたしが作ったものだから何の価値もないよ?」


 そのリバーシは土魔法でパパッと遊びで作ったものだ。材料費も何も必要なく、わたしの妖力があればいくらでも生産出来る燃費が良い代物だ。


「ツズリ様の手作りだなんて、それだけで物凄く価値がある物ですわ! 女神様が直に作られた遊具、国宝物ですわ!」


「神々の遊び物なの! 国宝物、いや人族の宝なの!」


 リバーシが国宝になってしまった。人族を代表する宝になってしまった。大丈夫かそれ……。


 まぁでも、わたしも神様謹製の武器と巫女服を持っているから思う事なんだけど、神様が作ったってなると本当に国宝級の物だと思う。

 武器も手入れがいらないし折れないし、巫女服なんて防具に優れてるだけではなく、防汚防臭という機能まで付いている。国宝級どころの代物じゃないね。世界レベルの宝物だね。


 それに比べてリバーシが国宝級って……。

 もし魔王とかが攻めてきて、国宝級の物を差し出せば許してやろうみたいな展開になった時に、リバーシなんて出したら怒るんじゃないだろうか。ふざけてんのかって言われるんじゃないだろうか。


「魔王には出しちゃダメだからね?」


「何で魔王ですの?」


「何で魔王なの?」


 頭で考えてたことをそのまま口にしてしまった。そりゃ二人から疑問に思われるのも無理はない。


「あわわわわー! 魔王が来るんですか!? 大変ですぅ! 今すぐ王様の知らせてきますぅ!」


 っと、スインさんが慌てて部屋を出て行ってしまった。物凄い勢いで出て行ったので止める間もなかった。


「本当に魔王が来るの?」


「いや、来ないよ……。どうしよう、スインさん王様に報告に言っちゃったんだけど」


 止めるべきだった……。何かまためんどくさい事になってしまうんじゃないだろうか。


「それは心配いりませんわ。お父様の所へスインが辿り着くまではかなり時間が掛かると思いますし、魔王が来るってスインが騒いでも、軽くあしらわれて終わりですわ」


「そ、そうなんだ。それなら安心だね」


 それならば、問題は無さそうだね。良かった良かった。

 でも、わたしには問題はないかもしれないけど、スインさんの信頼度の低さに問題がある。今回はその低さに助かったわけだけど、姫の従者がそんなんでいいのか……?




 リバーシをラライア姫に渡し、絨毯を心置きなく手に入れた。

 いや、心置きなくはない。リバーシと高級であろう絨毯。絶対に釣り合っていない。けどまぁ、それでいいって事だから、それでいいって事にしよう。

 今度また何か作ったら、渡す事にしようかな。


「それじゃあ、わたしは帰るね。何か用事があったら、えーっと……あっちの方向の街にいるから、そこに連絡くれればわたしに伝わるよ」


 ルルの街の名前を言おうと思ったけど、早速覚えていなかった。なんだったっけなぁ。ギ……、ゴ……、ガ……。濁音から始まった気がするんだけど思い出せない。

 街の名前なんて覚えていなくても生きていけるんだからいいのだ。うん。


「コタビはゼルドガルまで迎えに行ったから知ってるの! 何かあれば手紙を送るの!」


 あーそうそう、そんな名前だった。見事に濁音しか合ってないな。


「わたくしもこの窓から面白い物を見つけましたら、ツズリ様に報告のお手紙を送りますわ!」


「うーん、その報告はいらないかなぁ……。コタビが何か面白い失敗でもしたら報告してくれたんで良いよ」


 浮気調査報告書なんていう手紙を送られてもどう返せばいいのか全く分からないよ。ラライア姫の手紙だから捨てるにも捨てがたいし、収納魔法の肥やしとしかならない気がする。


「分かりましたわ! ツズリ様からの天命しかと承りましたわ!」


「そんな報告はしなくていいの! 必要ないの!」


 嬉しそうな顔でコタビの面白集を書き留める決意をしたラライア姫と、それを必死で止めようとするコタビ。でも、ラライア姫の決意は固いようだ。

 お疲れコタビ! 楽しみにしているよ!


 窓の外に収納魔法で絨毯を空中に浮かせた状態で取り出し、その上にぴょんと飛び乗る。ここで飛び乗れず落ちていたら恥ずかしかったね。この身体が運動神経良くて助かった。


「っという事で! また会おうね、二人とも!」


「またですわ!」


「またなのー!」


 美少女二人に見送られ、わたしは空を飛ぶ。王都の上を絨毯がすーっと飛んでいく。

 後ろを振り向くと、二人が大分小さく見えるようになっているけど、まだ手を振ってくれているみたいだ。

 そのまま、王都を囲む壁が小さくなるまで進んだ。


「飛んでるよ、空を! 肌に当たる風が心地いい!」


 誰に言うわけでもないけど、虚空に向かってわたしは叫んだ。嬉しさのあまり叫んだ。

 わたし自身が浮いてるわけではないけど、絨毯を使って空を飛ぶ事が出来ている。魔法でしてみたい事の一つの夢が叶ったね。


 もうちょっと速く飛べば、それだけ早く帰る事が出来るよね。


「わたしは風になる!」


 っと絨毯の上で仁王立ちをし、叫んでみる。叫んでも空には誰もいないので恥ずかしくない。素晴らしい。

 絨毯に込めている妖力をさらに強め速度を上げる。


「あっ……。にゅわあああああああん!」


 急激に速度を上げた事により風圧に押されて絨毯から落とされた。風に落とされた。


 何て風だ! わたしが風になれないように突き落としてくるとは!

 酷い風もあったものだな。許さないぞ風。まぁ、自業自得だけどさ。


 風魔法で空中に壁を作り、足場にして空中に無事に着陸。陸ではないから着空?

 わたしがいなくなった事でヒラヒラと舞っている絨毯を回収して、空の旅行を再開した。


 はぁ、良かった……。誰も見ていない空で……。

 コタビの面白話で笑うどころかわたしが笑われるところだったよ……。




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