表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お狐様スローライフ  作者: くるみざわ
狐っ娘、王都ライフ
39/144

P39 空を飛ぶ道具と言えばやっぱりコレ

 それからしばらくして、スインさんが再びやってきて二人を起こし、運んできてくれた朝食を食べた。

 強制的朝パン派の世界なので勿論パンだった。嫌いではないし元から朝ご飯はパン派なので何も問題はないんだけどね。


「っというこ事で! そろそろわたし、帰ることにするよ。予定より長居し過ぎてるから、心配してるかもしれないからね」


 謁見が終わったらパパッと帰るつもりだったんだけど、ラライア姫の治療やらムカデやらなんやらで長引いてしまった。


 突然わたしが帰るって言った事で、二人が目を丸くしている。


「えっと……、天界に帰られるって事ですの?」


 ラライア姫が眉を八の字にして悲しそうな顔で聞いてくる。

 あーそっか、ラライア姫はわたしがルルの街から来たって知らないんだよね。最初の謁見のときにいなかったわけだから。

 神の存在がそんなホイホイと何回も降りてくるとは思ってないだろうし、天界に帰ったらもう会えないと思ってるのかもしれないね。


「天界に帰るわけじゃなくて、わたしが冒険者として拠点にしてる街に帰るだけだよ。だから、いつでもってわけにはいかないかもしれないけど、会おうと思えば会えるよ」


「そうなのですね。ですが、しばらくお別れになるのは残念ですわ。ずっと、このお城にいてくださればいいですのに」


 このお城に住み着いてしまうと、王と王妃に王子を押し付けられそうで嫌なんだよね。あの二人はわたしを王族に取り込もうとしてる節があるからね。

 絶対にまだ諦めてないと思うから、今後もまたさりげなく王子を景品として、わたしに渡そうとしてくるだろうね。受け取らないけどね。いや、わたしが受け取られる側になるのか。わたしは誰にも受け取らせないぞ。


「もう帰っちゃうの? もっと一緒にいたかったの。奇跡魔法についても、もっと色々教えてほしかったの。ラライア様を治したくらいまで極めたかったの」


 コタビも悲しそうな顔をしている。そんな、死に別れるみたいな顔をしなくても、わたしは死なないよ。


 魔法を極めたいって気持ちは素晴らしい事だ。わたしもゲームで魔法を極め続けて来たからね。勿論、この世界に来てからもそうだ。コタビとわたしはなかなかに気が合う考え方を持っているね。

 それに、コタビの狂信的なイメージ力と呪文的詠唱の考え方を持っているコタビならば、わたしが言ったことをそのまま信じるから、使うことが出来るようになるんじゃないだろうか。


「そうだねー。次あった時にでも教えてあげるよ。こう約束しておけば、また会えるって思えるでしょ?」


 距離はあるけれど、隣の街なんだから会えるに決まっている。王都という首都みたいなところには、どうせまた来ることになるだろうからね。


「言質取ったの! 姫の権力を持ってるラライア様の耳にもはっきりと届いているの!」


「ええ、きっちりと聞きましたわ!」


 さっきとは打って変わって、嬉しそうな表情の二人が権力を行使している。

 また会えるという約束が嬉しかったのは分かるけど、こんな所で権力なんて使わなくてもいいでしょうに。


「はいはい、権力なんて言葉を使わなくても約束はちゃんと守るよ。なんたって女神だからね。約束を破ったら女神の名が汚れちゃよ」


 神と慕われているのに、おいそれと約束を破れない。本当の神ではないけれど、本当の神様にも迷惑が掛かるかもしれないからね。わたしをこの世界に連れて来てくれた本当の神様には色々お世話になったから、そこのところはしっかりとしとかないとね。


「それじゃあコタビは、ツズリ様を乗せる馬車と、護衛する騎士達の手配をしてくるの!」


 と、勢いよく部屋を飛び出そうとするコタビをわたしは全力で呼び止めた。行動力が凄い。決めたらすぐ実行しようとする。


「待ってコタビ! その必要はないから! 馬車も護衛もいらないから!」


 馬車に乗って帰ったら、また三日くらい掛かってしまう。三日も馬車生活なんてもう嫌なんだよ。馬車の中は豪華な部屋なのはいいけど、する事が何もないのが耐えられない。


 呼び止められたコタビがキュッと方向転換して戻ってくる。

 なんか投げたボールを拾って来た犬的なものを感じる。ついつい、頭を撫でたくなる衝動に駆られるけど、とくに褒めるようなことをしたわけではないので、グッと我慢をする。


「護衛はツズリ様ご自身がお強いですからいらないかもしれませんけれど、馬車は必要ではないですの? 走って帰るおつもりですの?」


「神様を走って帰らせるわけにはいかないの。そんな事をしたら罰が当たるの。馬車の手配をしてくるの!」


 ラライア姫の疑問は当然だ。馬車を使わないのなら足を使うしかないと思い至るだろうね。実際わたしも今までは真っすぐ走って移動してたわけだしね。

 そして、再び走り出して部屋を飛び出そうとするコタビ。


「コタビ! 待て! おすわり!」


 それを再び呼び止めるわたし。わたしはコタビの飼い主か何かか。

 コタビはというと、言われた通りにペタンと座って待っている。流石、忠犬コタビ。わたしが冗談で言った事に対しても信じて、パンツを穿かないだけある。


「馬車なんて遅い移動方法よりわたしにいい考えがあるんだよ。勿論、走るとかそんな安易な考えじゃないからね」


 二人が「いい考え?」と頭の上にはてなマークを浮かべている。

 はてなマークを浮かべてしまうのも仕方ない。わたしが知らないだけかもしれないけど、この世界には馬車以外の移動方がないみたいだからね。

 魔法の世界だから転移魔法とかあればいいなと思うけれど、それもないみたいだしね。


「今朝、白とピンクの縞々の布がヒラヒラしてるのを見て思いついたんだよね」


「布が飛んでたんですの? 朝からゴミを飛ばすなんて不届き物がいるものですわ」


 ラライア姫がやれやれといった感じで呆れたように言う。

 そのゴミって言ってるのはラライア姫、あなたのパンツだよ……。更に言えばその不届き物はあなたのメイドだよ……。


「どんな方法を思いついたの?」


「えーっとね。空を飛んで帰る!」


 そう言うと、二人がキョトンとした顔になっている。ちょっと説明が足りなさ過ぎたかな。どう空を飛んで帰るのかも言っとかないとだよね。


「やっぱり、神様という存在にもなると翼で空を飛んで帰るのですわね!」


「おー! そういう事なの! 翼、見てみたいの!」


 目をキラキラさせて期待のまなざしでこちらを見つめてきている。

 説明を簡素にし過ぎた為にあらぬ方向に想像が膨らんでいる。耳と尻尾があるのに翼を生やすとか、これ以上オプションを増やしたくないよ。


「あ、いや、そういうことではないんだけれども……。翼じゃなくて普通に魔法を使って帰ろうかなって」


「魔法で空を飛ぶの?」


「うん、まぁそんな感じ。ラライア姫に聞きたい事があるんだけど、いらない絨毯とかない? それを使いたいんだよね」


 そう、わたしが思いついたのは魔法の絨毯だ。魔法を使って空を飛ぶ移動と言えば、箒か絨毯だよね。

 箒はお尻が痛くなりそうだし、跨ると股が痛くなりそうだしでどっちみち痛くなりそうだから無し。絨毯なら寝られるし、数人乗せられるしで便利そうだから絨毯の方にしたというわけだ。


「絨毯ですの? 絨毯倉庫に行けば腐るほどあると思いますけれど、絨毯で飛ぶんですの?」


 なんだ絨毯倉庫って。この城には絨毯専用倉庫があるの? 必要かな倉庫。しかも、腐るほどあるって……。


「ラライア様、絨毯は飛ばないの。敷くものなの」


 コタビがラライア姫にジト目で、なーに言ってるんだ、こいつは目線を送っている。


「それは分かってますわ! でも、ツズリ様が絨毯を使うって!」


「絨毯は飛ぶものなの!」


 今度は手のひらクルクルコタビをラライア姫とわたしが、なーに言ってるんだ、こいつは目線をコタビに向けて送る。

 わたしが1+1を3と言えば3になるように、絨毯が飛ぶものと言えば飛ぶものに変わるコタビ脳。いい脳をお持ちですね。


「イメージ的に絨毯が良いかなってだけで、絨毯にこだわる理由はないんだけどね。例えば、そこのベッドでもいけるよ。こんな感じで」


 ラライア姫のベッド。今回も三人で寝たベッドだ。そのベッドに妖力糸を伝わせて妖力を流し込み、浮遊させる。

 どんなに重くても流し込む妖力量次第で浮かせる事が出来る。魔法って便利だね。


「ベッドが一人でに浮いてますわ!」


「生きてるの! このベッド生きてるの! 魔物が取りついてるの!」


 ベッドが浮いた事で二人が驚きふためいている。

 取りついてるのは魔物ではなくわたしだ。いや、取りついてるわけではないんだけれども。ただの魔法なんだけれども。

 魔法という概念がなければ、確かにポルターガイストっていう幽霊の仕業に見えるかもしれないけど、魔法で動かしているから幽霊の仕業ではない。


「わたしが動かしているだけだよ。こうやって魔法で浮かせた絨毯に乗って帰れば空を飛んで帰る事が出来るってわけだよ」


「魔法で物を浮かせる……そんな事も出来るのですわね」


「流石、ツズリ様なの!」


 飛べたらベッドでも何でもいいんだけど、やっぱ空飛ぶ絨毯だよね。

 ベッドを元の位置にそっと降ろし、話の続きをする。


「っと言うわけで、絨毯が欲しいんだけど、その絨毯倉庫に案内してもらえる?」


「城の中を移動するのは少しばかり骨が折れるので、スインを呼びますわ」


 この城、無駄に広いもんね……。出来る限り移動はしたくないという思いはある。ラライア姫は体力がないからわたしよりもっとその思いは強いだろう。

 そもそも、姫、なのだから使用人を使うのは当然か。


 ラライア姫が自分の収納魔法から鈴を取り出した。その鈴を軽い動作でチリンチリンと鳴らした。


「それでスインさんを呼んだの? スインさんってそんな小さな音を聞き取れるくらい耳良いんだね」


 この広い城のどこにいるのか分からないスインさんを呼ぶのに、軽く鳴らしただけの音で聞き取れるのだろうか。狐の耳のわたしでも、無理だと思う。


「スインの耳が良いわけではありませんわ。この鈴は魔道具なんですの。スインも同じものを持っていてペアになっているのですわ。片方が鳴らせばもう片方が鳴るようになっているんですの」


「へー、そんな便利な道具があるんだね」


 ラライア姫が鈴をチリンチリンと鳴らしながら説明をしてくれた。傍から見ると鈴で遊んでいる可愛い子供にしかみえない。

 説明によると、スインさんの耳が特別に優れているわけではなく、魔道具だったらしい。

 携帯呼び鈴の魔道具か。携帯電話の声がない、ただ鳴るだけのアイテムって感じだね。


「ツズリ様は色々な知らない魔法を使いこなしているのに魔道具は詳しくないの?」


「道具系は全く知らないんだよね。使った事があるのも、ペンくらいだよ。わたしの国にはなかったからね」


 冒険者登録をするときに使った魔法ペン。使った事があるものと言えばそれだけだ。馬車の空間拡張は自分で使ったわけではないし、魔道具とは違う。


「天界には魔道具がないのですわね。不便ではございませんの?」


「そんな事はないよ。寧ろ、あっちにしかない物もあるから、こっちで不便って思う事もあるくらいだよ」


 魔道具も便利だけど、元の世界には電気製品というものがある。ゲームだってそうだしね。

 ただ、清潔魔法とか収納魔法に勝る電気製品は流石にないから、やっぱ魔法の世界の方が便利だよ。魔法ってだけで楽しいしね。


 そんな話をしていると、ドタドタドタっと今朝も聞いた慌てた足音が聞こえてきた。

 この慌ただしい足音は間違いなくスインさんだ。分かりやすい。何でこの人はいつも慌てているんだ……。


「あわわわわー! 姫様ー! ど、どうかしましたか!? 何回も鈴が鳴るので急いで駆け付けてきました!」


 スインさんが扉をドーンッと勢いよく開け駆け込んでくる。額に汗を垂らして、肩で息をして急いできたのが見ただけで分かる。

 あー、鈴の説明をするときにも鳴らしてたから緊急の呼び出しとでも思ったのかな。今回ばかりはスインさんが慌ててしまっても仕方ないね。


「ごめんなさい、スイン。別に緊急事態とかではありませんわ」


「あわわぁ? そうなんですか? はぁー、良かったー。姫様がベッドの角に足の小指をぶつけたのかと思って慌てましたよー」


 それはそんな慌てるような事ではないだろうに。確かに、物凄く痛いだろうけど、緊急事態ではないよね。それに、わたしとコタビがいるのだから、すぐ治療が出来る。

 そんな事を思っていると、わたしが呆れた顔をしていたのかコタビが補足してくれた。


「ラライア様には前科があるの。夜中にベッドから寝がえりで落ちた時に同じように鈴を鳴らして呼び出した事があったの。コタビも神殿で寝ていたのに呼び出されて夜中にお城まで走ったの」


「なるほど、そんな実績があったんだね」


 前例があるのなら、角に足をぶつけて鈴を鳴らして呼び出す可能性はある。ベッドから落ちたくらいで呼び出すのだから、ありえる話だ。


「前科とか実績とか失礼ですわ! あの時はちょっと寝ぼけててびっくりしただけですわ!」


 ベッドから落ちて、寝ぼけててびっくりしたって……、それはそれで素晴らしい実績だね。可愛らしい実績だ。夜中に呼び出されるのはつらいだろうけど、そうなった原因が可愛すぎる理由だ。




ゴールデンなウィークなので早めの更新でした。次からはまたゆっくり投稿していきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ