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お狐様スローライフ  作者: くるみざわ
狐っ娘、王都ライフ
38/144

P38 王都名物ヒラヒラ舞うアレ

 そりゃ皆覚えないよ。だって教えてる事がわけが分からない呪文なんだもん。血管とか骨とか言ってる狂気を感じ取れる呪文なんだもん。

 寧ろ、呪文で覚えているコタビがどうして回復魔法を使いこなせているんだ。やっぱ、なんだかんだ言って優秀なんだね。


「この呪文は人体の構造をイメージする為の呪文なの。この呪文を頭で唱えながら奇跡魔法を使うと完全治療の奇跡魔法が使えるようになるの!」


 確かに魔法はイメージする事が大切だけど……。呪文でイメージ力を高めるって発想はなかったよ。いや、正確には呪文じゃないんだけどさ。

 実際にコタビが使えてるわけだから、それじゃ使えなくて当然だよ、とかも言えない。


「呪文を覚えるだけでいいんですの? そんな簡単な事で奇跡魔法の効果が上がるんですの?」


 身体の構造を理解して自然治癒力の活性化をイメージする感じだから、呪文を覚えるだけでは無理だと思う。でも、簡単な事ではあるんだけどね。イメージ力を強める、ただそれだけなのだから。

 コタビにはそういう事も含めて教えたから、イメージをしやすくする為に自分で効率化したのが呪文なのだろうか。

 そうなると呪文って言うか魔法を使うための詠唱って感じだね。内容的には血管とかなんとか言ってるし、やっぱ呪文か。


「それだけでは上がらないの。大事なのはこの呪文を覚えてイメージする事なの。呪文の内容は身体の構造を意味しているから、呪文一つ一つの単語をイメージする事が大事なの」


「身体の構造ですの?」


「そうなの。人の身体は皮膚があり血が流れる血管があり、骨がり筋肉があるの。それらすべては自然回復力というもので魔法無しでも傷は治るの。その回復力を強めて活性化させる魔法が奇跡魔法なの!」


「おおー、ちゃんと分かってる! 流石だよ、コタビ!」


 教えて事がちゃんと分かっていて感激だ。嬉しさのあまり、ついついコタビの頭を撫でてしまった。そう、犬が芸が出来たら褒めるみたいに。

 本人はそんな事はつゆ知らず、「えへへー、なのー!」って嬉しそうに撫でられている。


「うーん、いまいちイメージしづらいですわ。その人体の構造って言うのは良く分かりませんもの。人体の作りがそうだと言われても本当にそうなのかどうかが分かりませんわ」


 あー、まぁそりゃそうだよね。治療技術は魔法があるから発達はしていないし、手術とかは勿論していないだろう。そういう構造を学ぶ事も必要としていないだろうから、こうなんだよって言っても分からないよね。

 あれ? だとしたらどうしてコタビはそこのところをクリアしたんだろうか。わたしも別に教科書とか使って教えてわけじゃないし、教え方はコタビと変わらなかった気がする。呪文以外はね。


「コタビはどうして、わたしが教えて事を理解できたの? まさか、人体を解剖して確かめた事がある……とか!?」


「わたくしに内緒でそんな事をしているのですの!?」


「そんな怖い事絶対にしないの!」


 そりゃそうだよね。こんな子供でこんな犬みたいにかわいい子の趣味が狂気的な事ないよね。


「だったらどうしてコタビには理解できたんですの? 王族のわたくしですら習っていないですわ」


 王族なだけあって教育をしっかりしているのだろう。コタビに教えてもらう事なんて何一つないって言っていたしね。知識で劣っているとは思っていなかったんだろうね。


「理解する必要はないの!」


「「え?」」


 なーに言ってるんだ、コタビは。理解しないとイメージ力が足らなくて魔法は発動しないでしょ。


「理解なんてしなくても、ツズリ様が言った事は全て本当の事だから信じるだけなの! あるとかないとか関係ないの。ツズリ様がそう言えばそうなの。1+1を3って言えば例え2だとしても3になるの!」


 本当に何言ってるんだ、こいつ。

 言い間違いせずにやっとツズリって言ってくれた事は評価しよう。それ以外が何言ってるのか分からない。さっぱり分からない。

 なんだ、その女神狂信者の考え方は。いや、コタビは前々から女神狂信者ではあったけども。そんな考え方で魔法の効果が上がるとは思わなかったよ。恐るべし信仰心。


「その理論はちょっと……コタビにしか無理そうだね」


「わたくしもそう思いますわ。勿論、ツズリ様の事を信用はしていますが、狂ったように信じるのは違う気がしますわ」


 わたしとしても狂わずに信じてほしいものだ。親しい友と書いて親友、信じる友と書いて信友。狂信友は行き過ぎである。


「ラライア様は兎も角、神官というのは神様から授かった奇跡魔法を扱う役職なの。何であろうと、どんな事であろうと、神様を信じる事は当たり前の事なの! それなのに他の神官達は信じないの!」


 勉強で信じる信じないってこういう事だったんだね。コタビ論で行くと人間の身体の構造がどうであれ、わたしにそう教わったから、そうであると完全に信じている為、回復魔法の効果が上がったわけだ。

 だから、他の神官にも無条件で信じろって教えているんだろう。これだと、教えるって言うか洗脳しようとしてるみたいだ。

 うん、呪文を教えているし、洗脳って表現の方がしっくりくるね。


「コタビは神官の鑑みたいな考え方を持っているけど、皆が皆そういう考え方をしているわけではないと思うよ」


 コタビレベルの信仰心で組み上げられている組織なんて、洗脳されている宗教団体じゃないか。怖すぎるよ。そんなんじゃ崇められている神様も浮かばれないよ。


「えー、なの。コタビみたいにツズリ様の真似をして過ごすくらい皆信じるべきなの」


「自分の考えを他の人に押し付けるのは良くありませんわ」


「うん、そうだね。考え方は人それぞれだからね。って、え? わたし何か真似されてるの?」


 ラライア姫が良い事を言っているけど、それよりも気になる事が出来てしまった。

 何だろう、何を真似されているんだろうか。コタビに獣の耳や尻尾は生えてもいないし付けてもいない。強いて言えばツインテが垂れている耳に見えない事もない気はするけど、それは流石に強引すぎる。


「今日はパンツを穿いていないの! ツズリ様もこの前、穿いていないって言っていたの!」


「え?」


 何言ってるんだ、コタビは。わたしにそんな趣味はないよ。ちゃんと毎日同じパンツを穿いてるよ。

 毎日同じって言ったら汚く思われるかもしれないけど、このパンツの素材は巫女服と同じで汚れないから毎日清潔だよ。それに清潔魔法をちゃんと掛けているからね。


「ツズリ様ってパンツをお穿きになられないんですの?」


「穿いてるよ! 毎日ちゃんと穿いてるよ! 捲って確かめようとしなくていいよ!」


 ラライア姫が巫女服を捲って本当に穿いているのか確かめようとしてきた。

 仮にも女神だよ。その女神に対してパンツを見ようとしないでほしい。いや、女神に対してじゃなくても普通にやめてほしい。


「わたくし自分の目で見た事しか信じないんですの!」


「だったら、わたしじゃなくてコタビを確かめて! 穿いてるより穿いてない方が本当かどうか怪しいでしょ!」


「確かにそうですわね。ふふふ、コタビ! お覚悟を、ですわ!」


「ふふーん! かかってくるがいいの!」


 なんで堂々と受けて立とうとしているんだ。嫌がりなよ。

 広い部屋ではあるけど、部屋は部屋。逃げても直ぐに行き止まりだから追い詰められてベッドで二人でもみ合っている。姫様が神官のパンツの有無を確かめようともみ合っている。

 何なんだこの図は……。わたしは何を見せられているんだ……。


 しばらくすると、はぁはぁ言いながら犬二匹が戻ってきた。間違えた。犬ではなく人だった。


「で、どうだったの?」


「ほ、本当に穿いて……いませんでしたわ。はぁはぁ……」


「だから……言ってるの。ツズリ様の真似をして穿いていないって。はぁはぁ……」


 パンツをめぐってそんなに疲れるまでもみ合わなくてもいいものを……。というか、本当に穿いていないのか……。


「いやいや、わたしは穿いてるってば」


「でも、ゼルドガルから王都に到着した日に言っていたの。実はパンツ穿いていないよって」


 そんな事言ったっけ。うーん。

 あー、言った気もする。でも、あれは何を言ってもコタビが「流石女神様なの!」って言うんじゃないか説を検証する為に言っただけだ。

 あれを真に受けていたのか……。恐るべし信仰心。


「あれはちょっとした冗談で言っただけだよ。パンツを穿かないとか、そんな性的嗜好を持ってる女神なんてコタビも嫌でしょ?」


「嫌に思う事なんて何一つないの! どんな事でも受け入れるの!」


 受け入れちゃうのかー。そうかー。

 今後、コタビの前では変な冗談は言わないでおこう。それがコタビの為だ。

 パンツを穿いていない美少女が街をうろうろしてるとかコタビの身の危険を感じるよ。


「よし、コタビは今後ちゃんとパンツを穿くように! 女神であるわたしとの約束だよ!」


「はいなの!」


 約束も何も、穿くのが当然の事なんだけれども。この世界が特別パンツを穿かない世界でない限りはね。勿論、ここはそんな世界ではない。パンツという概念はちゃんとある。






 コタビにパンツを穿かせることに成功した翌日、わたしはまた、ラライア様に尻尾に抱き着かれ、コタビに耳を食べられている。コタビの寝相は相変わらず悪い。主にわたしに対して。

 結局ラライア姫の部屋にお泊りだ。長々と二人と話していたら帰る機会を逃してしまった。


 あれ、そういえば相談に乗れてないな……。パンツ穿かせただけだな……。

 まぁいっか! 呪文で洗脳しようとして失敗したっていう相談だったし、普通に教えればいいだけの話だったからね。悩みというか、コタビの思考がズレていただけだよね。うん。


 前回この状況から抜け出せなかったわたしだけど、今回がちゃんと学習して対策を考えている。

 一回失敗したら対策をする。これボス攻略で必須だからしっかりと覚えておくように!


 方法は簡単、刀を装備すればいい。装備をすればわたしは刀を振れるだけの力が手に入るのだ。妖刀『ツズラオ』さんも、こう言っている。


「力が欲しいか? ならば我を手にするのだ……。さすれば望みの力が手に入るだろう……」


 って言っている。そんな気がするだけで、本当に喋ったりはしないけど。


 耳と尻尾は塞がっているけど手は空いている。獣人としての獣の部分を全て押さえられているけど、人としての部分は機能している。

 自由の身の手に刀を取り出す。収納魔法は直接手に取り出すことが出来るからこういうとき便利だ。


 ふはは……! わたしは力を手に入れたっ……! この力で……わたしにへばりついている子供を二人、引き剥がすだけだ。世界征服なんてしない。というか出来ない。


 無事、引き剥がす事に成功した。剥がされても起きる事なく二人は眠っている。うむ、良い寝顔だ。

 コタビは「ああ、コタビのふわふわパンがどっかいくのー」って寝言を言っていたけど、わたしの耳はふわふわもふもふではあれど、パンではない。

 今はコタビの涎のせいでベトベトだけどね! すぐに清潔魔法でもふもふに戻さなくては!


「さーてとっ、二人共寝てるし、外の空気でも吸ってようかな」


 窓を開けて、朝の空気を吸う。工場とか車とかがないから排気ガスがなく、空気も良くて、朝日が街を照らしていて爽やかな朝だ。


「すーはー、すーはー」


 街を眺めながら深呼吸をする。

 ああ、平和だ。最高の朝だね。スローライフしている感じがする最高の朝だ。


「ん? 何だろう、あれ」


 目の前をヒラヒラと何かが舞っている。ピンク色で目立つからすぐに目に入った。

 気になるので取ってみる事にする。妖力を糸のように飛ばしてヒラヒラの物体につなげて物体を操作できるようにする。お久しぶりの片付け魔法だ。

 いつもなら、テリトリーを発動するんだけど、ムカデとの戦いでテリトリーは妖力を大量に垂れ流してるだけって気づいたからね。必要最低限で使う事に決めたのだ。

 だから寝る時もいつもならテリトリーを発動したまま寝るんだけど、今回は使わなかった。代わりに窓や扉に糸を張って置いて侵入者が来たら分かるようにしてから寝た。

 魔法職はMPが命。万が一の時の為に節約して毎日を過ごさないとね。


 妖力糸に繋げたヒラヒラの物体を一旦遠隔収納する。そして手元に取り出す。こっちに引っ張って来るより、このやり方の方が早い。

 ヒラヒラの物体を広げてみると――。


「これって、パンツ……だよね」


 どこからどう見てもパンツだ。白とピンクの縞模様のパンツだ。


「どうしてパンツがこんな朝早くから舞っているだ……」


 いや、朝だろうと昼であろうと時間関係なくパンツが舞っていたら疑問に思うのは当たり前だ。

 天使とかが飛んでる時にパンツだけ落としていったのだろうか。ヒラヒラと。パンツだけ。


 そんな事を考えていると、ドタドタドタと慌てているような足音が聞こえてきた。わたしの耳じゃなくても聞こえるくらい慌てた足音だ。

 こんな慌てた足音を立てる人なんて、もうあの人しかいない。


 ドアがバーンっと勢いよく開き、スインさんが入って来た。

 まぁそうだろうね。知ってた。


「あわわわわー! た、大変です! また姫様のパンツが風で飛んで行ってしまいましたー!」


 ああ……。このパンツってそういう事だったのか。王都名物、姫様のパンツヒラヒラだったんだね。パンツを落とした天使は身近にいたんだね。

 天使というか、天使のようにかわいい姫様で、正確にはパンツを落としてはいないんだけども。


「まだ、皆寝てるよ。あと、これでしょ? さっき飛んでたから捕まえておいたよ」


 蝶々が飛んでいたから捕まえたみたいな言い方をしたけど、捕まえたのは虫ではなくパンツ。ヒラヒラと飛んでいたけどパンツなのだ。


「あー! それですそれ! ありがとうございます! 女神様!」


「どういたしまして、今度から気を付けてね……」


 二回泊まって二回ともパンツ飛ばしているんだから気を付けても無理な気がするけどね。慌てん坊スイン恐るべし。




サブタイ考えるのが苦手。

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