P37 コタビ先生の相談事
パン屋に騎士達が到着し無事強盗は確保された。正確には強盗ではなく強盗未遂だけどね。街の中でナイフなんて握ってる時点で怪しいんだから言い逃れは出来ないだろう。
収納魔法があるんだから、これ見よがしに握ったままにせずに、ここぞってときに取り出せばいいのにね。そうすればバレずに済んだかもしれないのに。
まぁ、格好も頗る怪しかったからどっちみち怪しまれるだろうけどね。
騎士に強盗がいると知らせに行ったコタビもちゃんと戻って来ている。
「コタビも女神様が魔法を放って強盗を倒すところ見てみたかったの……」
ただ魔法を放っただけだから、見ても何の面白みもないと思うけども。隕石とか特殊な魔法を使ったわけじゃなく、ただの電撃針だ。
「今度何かしら面白い魔法でも見せてあげるよ」
「やったー! なの!」
コタビの為に何か面白い魔法を考えとかないといけなくなった。
魔法を考えるのは楽しいし、別に構わないんだけどね。寧ろ、望んで魔法の研究がしたいくらいだから、コタビの為じゃなくても自分の為に普通に考えたい。
元の世界で科学で出来ていたことや、ゲームでの魔法を色々試していれば面白い魔法何て沢山考え付く。
「その時はわたくしも一緒に見せてくださいですわ!」
「勿論だよ。ラライア姫を除け者になんてしないよ。面白い事は皆で楽しまないとね」
ルルやリリナも是非呼びたい。けど、リリナはいつも宿での仕事が忙しそうだし、そもそも王都までの道のりが長いんだよね。わたしだけならパパッと走ればいいんだけどね。
逆にコタビとラライア姫を向こうの街に連れて行くって言うのも手だけど、コタビは兎も角、ラライア姫を連れ出すのは難しい気がする。体力がないって言うのもあるし、一国のお姫様を連れ出すってなると騎士が沢山ついて来そうだ。
「そうですわ。皆で楽しまないといけませんわ。では、女神様の魔法披露会を姫の権限使って開催いたしますわ!」
「それだけは絶対にやめてね! そんな事したらわたし恥ずかしくて天界に帰るから!」
天界に帰る。恥ずかしさで死んでしまうという事だよ。
イベントは好きだけど、自分が主役のイベントが好きなわけではない。ゲームで景品があるイベントが好きなだけで、何の得もなさそうなイベントには興味なんてない。
「女神様はもっと堂々として、もっと女神って事をアピールした方が良いの」
「やだよ。わたしは女神としてじゃなくて冒険者としているんだから、目立たなくていいんだよ。もっとひっそりと暮らすことが出来ればそれでいいんだよ」
王都に来てから女神女神と呼ばれ続けて冒険者であるという事を忘れがちだ。わたしは女神ではなく冒険者が本業なんだよ、実はね。
冒険者業もスライムとワーウルフくらいしかやってないけどね。女神業としてなら謁見イベントに姫様の治療、ムカデかな。
あれ、女神業の方が多い気がするな……。稼ぎとしてもワーウルフよりムカデの方が多かったから女神業の方が儲かっている。ムカデの甲殻が防具としての素材が良かったらしく、討伐料よりも多くもらえてんだよね。
でも、ムカデに関して言えば別に女神としてじゃなくても、冒険者として戦っていただろうから、女神業としてはノーカンだね! よし、わたしは冒険者だ!
「もう手遅れなの。諦めるしかないの」
「コタビの言う通りですわ。もう王都で女神様を知らない人はいないですわ」
いやいやいや、まだ騎士と冒険者と謁見の時に居た貴族関係の人くらいしかわたしの事を知らないでしょ。そんな王都で知らない人はいないくらい有名ではないはずだ。……そのはずだよね?
「よし! 女神様って呼ぶのを禁止にする事から努力しようと思う!」
周りが女神女神って呼ぶから女神だと定着するんだ。呼び方を変えてちゃんと名前で呼ばれれば女神ではなく普通に人として見られるはずだ。
この言い方だと現在わたしは人じゃないみたいだな……。獣人って人……だよね。勇者と獣王が魔王と戦うみたいな話をリリナが言っていたし、人族ではあると思う。
せめてわたしの事を初見の人には女神ではなく獣人として認識されたいよね。折角、耳と尻尾が付いているんだから、女神じゃなくて狐っ娘獣人として見られたいものだ。
「え? 女神様は女神様なのそれ以外の何物でもないの」
「はいそこー! 女神呼び禁止!」
「えー! なの!」
「えー! じゃないよ! 次女神って呼んだらコタビの事を神官って呼ぶからね!」
わたしの事を女神という役職で呼ぶのなら、コタビは神官という役職で呼び返してあげないとね。ラライア姫の場合は姫だけになるから姫呼びだ。
なんか姫って呼ぶとわたしがラライア姫の家臣みたいな感じになるね。それはちょっと嫌だ。わたしは誰かの下に着くって言うのがあんまり好きじゃない。
「そ、それはなんだか嫌なの……。折角仲良くなれたのに他人みたいに聞こえるの……」
「でしょ? だから今度からはちゃんとツズリって名前で呼んでね」
久しく呼ばれていなかった気がする、自分の名前。元の世界の名前ではなく、この世界での名前だ。ゲームでも使っていた名前の方だ。
「分かったの! ツズリ様なの!」
「ツズリ様ですわね。畏まりましたわ!」
「様……。うーん、まぁ、まぁ良しとしよう」
わたしだってラライア姫の事を姫を付けて呼んじゃってるしね。お姫様だから何となく姫って付けとかないとなって思って姫を付けてるんだよね。
この二人のツズリ様呼びは、それと同じって感じだと思う。女神様だから様付けとかないとなって思っているんだろうきっと。
これで一応この二人から女神様って呼ばれる事は減る事だろう。今まで慣れた呼び方から変えるのは、すぐには慣れないだろうけどそのうちこっちの呼び方の方が慣れてくるものだ。
周りから女神だって思われない為に女神呼びをやめてもらったけど、本当の理由は、女神って呼ばれるよりツズリって呼ばれる方が友達って感じがするからだ。
結局、様が付けられてるから友達って感じが薄らいでる気がするけど、女神って呼ばれるよりは全然親近感が沸くというものだ。
「そう言えば女神さ……ツズリ様。相談があるの」
早速、言い間違えそうになったな。こればっかりは仕方ない事だけどね。
「相談? わたしが乗れるような相談なら喜んで乗ってあげるよ。」
コタビからの相談だ。出来る限り乗ってあげたい。
ずっと一人だったわたしは、相談されるのも相談するのも経験はないけど、まぁ何とかなるだろう。最悪、魔法でゴリ押せる事なら魔法で解決すればいいからね!
「完全治療の奇跡魔法を他の神官仲間に教える事になった事について悩んでるの」
ああ、コタビに押し付けた回復魔法のイメージについての件ね。コタビ先生と呼ぶがいいの! って張り切っていたけど、何かったのかな。
「やっぱ先生クビになった?」
「やっぱって何なの! ちゃんと先生は継続しているの!」
なんだ、クビになったわけじゃないのか。てっきり戦力外通告でもされて先生をやめさせられたのかと思ったよ。
まぁ、女神である信じられているわたしからの直々の先生任命を、他の人がホイホイと簡単にクビにはしないか。ホイホイとちょろく任命されてはいるんだけども。
「コタビって先生をしているんですの?」
「女神様から直々に任命されたコタビの天命なの! 神官仲間の正しい奇跡魔法の使い方の伝授を任されているの!」
そんな生涯をかけて全うするような程大げさな任命ではないでしょ。魔法を教えるだけだよ。
「コタビが……先生……。あのおねしょ……」
「わー! わー!」
「コタビが先生……想像付きませんわ」
「何でなの! コタビにぴったりな役目なの!」
途中コタビが割り込んできて聞き取れなかった。
ぴったりな役目かどうかは微妙なところだけど、コタビは物覚えが良いし、実際に回復魔法を使ってて一回目で完全治療を成功させていたから優秀ではあると思う。それだけの実力があるのなら教えるのも上手いと思う。
「で、そのぴったりな役目のコタビ先生は何に悩んでるの?」
直ぐ話題がズレていくので話の軌道修正をしよう。ズレていく原因はわたしがコタビをからかったからなんだけどね。だから、責任をもってわたしが話を元に戻すのだ。
「皆、コタビの言う事を信じないの。コタビがめが……ツズリ様に教わった通りに皆にも教えているのに信じようとしないの」
めがツズリ様ってなんだよ。巨大化でもしてるの? そのうちギガツズリも出てくるのかな。
冗談は置いておいて、教えるって、勉強って信じる信じないの問題だったっけ。教えてもらった事を覚える覚えないの問題なのではないだろうか。
なんで、信じるか信じないかの都市伝説みたいな言い方になっているんだ。
「えっと……どうやって教えているのかラライア姫に試しに教えてみてよ。実際に見てみたら何か分かるかもしれないし」
「わたくしがですの? うーん、コタビに教えてもらう事なんて何一つございませんわ!」
いや、そこは受け入れてよ。どうしてそこで拒否をするんだ。話が進まないじゃん!
コタビに教わるって言うのが嫌なのだろうか。姫としてのプライド的な何か?
「ふふーん、このコタビ先生がラライア様にご教示してあげるの! コタビに感謝するといいの!」
コタビが腰に手を当てて胸を張って威張っている。胸を張るしぐさをする事によって普段ダボッとしている神官服でも子供にしてはふくよかな胸が強調されている。
チッ。
わたしだって前世の十七歳の身体だったらあのくらいの胸あったのに。……。あったよね。あったはずだ。流石に子供には負けていないだろう。うん。
なるほど、ラライア姫はコタビが威張って胸を強調してくるのを知っていたから拒否してわけか。ラライア姫も病弱だったから胸はわたしと同じく貧相だもんね。わかる、分かるよその気持ち……!
あれ、ラライア姫は病弱だからって理由があるけど、わたしは頗る健康体なわけで……。いや、深く考えないようにしよう。
わたしの身体はゲームからそのまま引き継いでいるわけだから、キャラ設定したのは勿論わたしだ。戦闘を意識して控えめに設定したせいなんだ。きっと、これから成長するんだ。きっと。
「ほーら直ぐ調子に乗って威張りますわ! まだ特に何もしていないのに肩書だけで威張るなんて見っとも無いですわ! だから嫌なんですの!」
違った。ただ威張ってるコタビが気に入らないだけだった。
そりゃそうだよね。まだ、胸を気にするような歳ではないよね。わたしは中身が十七歳だから気になってしまっているだけだったか。
「本物のお姫様がその台詞を言うと、なんか説得力があるね」
ラライア姫は姫という肩書で威張ったりはしていない。王も王妃もそういう所は見ていない。
王に関しては偉そうにしてるけど、実際偉い人だから何の文句もないよね。寧ろ、王に対しても何の敬意も払わないわたしの方が失礼だ。
まぁ、わたしは王より上の女神だから敬意なんていらないよね。こういう時だけは女神であることをふんだんに言い訳に使わせてもらう。
というかあの王と王妃、わたしを王族に取り込もうとしてたし、敬意も何もする必要はないよね。寧ろ、敵と言ってもいいくらいだよ。
「当然の事ですわ! ですが、めがっズリ様はもっと威張っても良いと思いますわ!」
めがっズリってなんだ。ツズリのツの部分が小っちゃくなってるじゃないか。言い直すならちゃんと言い直して!?
「威張らないよ。威張るのはコタビの仕事だからね。取っちゃダメなんだよ」
「別に威張るのを仕事にはしていないの! コタビは神官が仕事なの。傷を癒す事が神官の仕事なの!」
コタビ神官は傷ではなく犬好きの心を癒す神官かと思っていたよ。
「取り敢えず、コタビは調子に乗らずにわたしを相談に乗らせてね。さ、ラライア姫に神官に教えるようにやってみて」
乗る人と物を間違って話が進んでしまっている。おかしい、相談に乗っているはずだったのにな。いつの間に下車したのだろうか。
「仕方ありませんわね。コタビ先生よろしくお願いしますわ」
「ふふーん! 任せるの!」
あ、やっぱ威張る所から始めるんだ。これはもう確定演出なんだね。
「まず、メガリ様に感謝の意を込めて祈るの」
メガリって誰だよ。女神とツズリが合わさっているじゃないか。どんな言い間違えだ。寧ろそこまできたらもうわざとだろ。
「ラライア姫もそこは付き合わなくていいんだよ。祈る必要性ないから!」
コタビと並んで一緒にお祈りポーズをしているラライア姫を止める。コタビルールの女神崇拝に陥ってはいけないからね。
「先生の言う事は絶対ですわ!」
「嫌そうだった割にはノリノリだね……」
コタビの教え方をみたいだけだから別に乗らなくてもいいところなんだけども。
「で、次に奇跡魔法を完璧に使いこなすのに必要な呪文を覚えるの!」
「え? 呪文?」
そんなの教えてないよ。それ以前に奇跡魔法という神秘的な言葉に対して呪文って邪悪過ぎないか……。傷を治すどころか呪いを受けそうなんだけど。魔法じゃなく呪術なんだけど。
「皮膚血管骨筋肉細胞――」
と、コタビが確かに呪文のようなものを唱えだした。
教えたよ、教えたけどもさ。呪文として教えたわけじゃないんだよそれは……。




