P35 狐と犬と姫 part2
二度目の謁見を終えて、そのままラライア姫の部屋に来ている。
折角お城まで来たからね。次いつ来られるか分からないし、ラライア姫と遊ぶ事にしたんだよ。勿論犬も一緒に居るよ。間違えた、犬じゃなくてコタビだった。
この王都ではわたしがいる所には確実にコタビが付いて来ている。気が付いたら隣を歩いてるんだよ。どこから嗅ぎ付けてくるのやら。
「ドラゴンってどんな姿をしていたのですか? わたくしドラゴンを見た事がないので見てみたかったですわ」
「コタビも冒険者の治療で忙しくて見られなかったの。気になるの」
正確にはドラゴンではないんだけど、皆ドラゴンって言っているからこの世界ではドラゴンなのかもしれない。どう見てもドラゴンではなかったんだけどね。明らかにムカデだったんだけどね。
「見せてあげようか?」
「「え?」」
「え?」
えって、見せてあげようかのどこに疑問を持つところがあるのか。思わずこっちまでえって返してしまったよ。
「見せるって、ドラゴンをここに呼ぶんですの? 女神様はドラゴンと友達になったんですの?」
「いや、ドラゴンの友達は居ないよ」
ドラゴンと友達になあるのも面白そうだけど、少なくてもあのムカデとは友達になりたくはない。というかあれをドラゴンだと、わたしは認めない。虫だ。
「じゃあ、この女神様の置物みたいにドラゴンの置物を作るの?」
コタビが自分の収納から、わたしが作った狐の置物を取り出した。女神の置物ではなく、狐の置物だ。
そう言えばそんなのも作ってたね。
土魔法で再現も出来るだろうけど、ムカデの置物なんて作りたくないから今回は土魔法を使わない。
「ううん、違うよ」
「コタビ! 何ですかそれは!」
わたしが言い終わるより前にラライア姫が狐の置物に興味を示した。
「これは女神様に認められた人のみが貰える女神様の子分の証なの! コタビは子分第一号なの! ふふーんなの!」
わたしが知らない間に子分が出来ていたらしい。
その狐の置物にきびだんご的な要素は含まれていないと思うんだけどな。おかしいな。
「わたくしも欲しいですわ! 女神様、わたくしも欲しいですわ!」
よっぽど欲しいのだろうか。二回も同じことを言っている。
「ラライア様にはまだ無理なの。コタビくらい優秀じゃないと、この証は貰えないの」
「うん、勿論いいよ。はい、どうぞ」
コタビは確かに優秀な犬ではあるけど、別に優秀だからあげたわけではない。なので、土魔法でパパッと狐の置物を作りラライア姫に手渡す。
「良いのですか!? ありがとうございますですわ!」
受け取ったラライア姫は嬉しそうにしている。
うむ、良い笑顔だ。一国の姫様の笑顔、最高だね。あげた甲斐があるというものだ。
「ええー!? なの!」
「ええーも何も、欲しいなら誰にでもあげるよ。それにこの置物に子分の証の効果はないからね」
「ふふふ、これでわたくしも女神様の子分ですわ! 二号ですわ!」
「いや、だから子分にはならないよ……」
この子分制度はなんなんだ。この二人の中で流行っているのかな。
コタビは兎も角としても姫を子分って、わたしも偉くなったものだね。女神だと思われてるから実際、偉いのかもしれない。
才色兼備、女神ツズリ。うん、悪くない。
「ラライア様はコタビより子分としては下なの! コタビ先輩と呼ぶといいの!」
コタビはすーぐ威張るよね。神官達にもコタビ先生と呼べって威張ってたし。
姫に先輩と呼ばせるって普通に考えたら凄い事だと思うけど、それだけ仲が良いという証拠だ。
「分かりましたわ、コタビ先輩」
「素直でよろしいの、ラライア後輩!」
コタビが胸を張って威張っている。胸を張る事によってダボッとしている神官服で分かりにくい、子供にしてはふくよかな胸が強調されている。チッ。
ラライア姫は後輩呼びされたからなのか胸を見たからなのか、若干笑顔が引きつっている気がする。
「話変わりますけど、昔コタビ先輩と一緒に寝ていたのですけれど、朝起きたら……」
「ラライア様待ってなの! コタビが悪かったの! 子分に上も下もないの! 子分平等なの!」
ラライア姫の仕返しなのか凄くいい笑顔でコタビの何かを言おうとしていたけど、コタビが割って入ってきた。
一体何を言おうとしていたのだろうか。気になる。気になって夜しか眠れなくなってしまうくらいには気になる。
それと、子分平等も何も子分ではないよ、二人とも。
子分ではなく友達でありたい。前世では全くいなかった友達でありたいよ、わたしは。いや、子分も前世ではいなかったけども、そういう事ではないんだよ。ただ単に子分はいらないんだよ。
「朝起きたらどうなってたの?」
「ふふふ、朝起きたらコタビ先輩がおもら……」
「わー! わー! なの! そこから先は有料なの!」
またコタビが割り込んできた。そんなに恥ずかしい話なのかな。
というかなんだその課金制度。新しいな。お金を払えば話してもいい程度の話なら遮らなくてもいいじゃないか。
わたし結構お金持ちだよ、今。ゲームの引き継ぎ分とワーウルフ討伐とついさっき貰ったムカデ討伐分があるから結構なお金持ちですよ。
まぁ、コタビの恥ずかしい話に貴重なお金を使うなんて、そんなもったいない事はしないけどね。
「有料かー。気になるけど有料なら諦めようかな」
「あら、そうですの?百八個程コタビが言われたくない話があるのですけれど、残念ですわ」
まだ子供でそこまで人生深くないはずなのに、言われたくない事多いな。煩悩じゃないか。何をそんなにやらかす事があるんだ。
「一つも話さなくていいの! そもそもそんなに覚えておかなくていいの。さっさと忘れてしまえなの」
「親友の出来事ですもの、絶対に忘れませんわ!」
それはちょっと新友愛が重すぎる気がする。
ラライア姫と友達になるのなら、わたしも気を付けないといけないね。今の所、何もやらかしていないはずだから大丈夫だろう。
女神が弱みを握られるとかそんな悲しい事にはなりたくない。
「コタビ、いい親友を持ったね」
「嬉しいような嬉しくないような、複雑な気分なの……」
まぁ確かに、弱みを百八個も握られていれば素直に喜べないよね。百八個も弱みがあるコタビにも流石に問題はあると思うんだけども。
弱みだらけだな、コタビ。
「コタビの恥ずかしい過去なんてどうでもいいのですわ! それよりもドラゴンですわ!」
どうでもいいは可哀想だろう。コタビが培ってきた恥ずかしい過去だよ。もっと大事に握っておこうよ。
「どうでもいいなら忘れてほしいの」
コタビが肩を竦めて、本人的にはごもっともな意見を言っている。
でも、どうでもいい事って案外忘れない物なんだよね。大事な事は結構忘れちゃったりするのに。
コタビが狐の置物を取り出してから話がズレたけど、ドラゴンを見たいって言う話をしていたんだった。
ドラゴンを見たいなら元の世界の記憶にあるゲームのドラゴンとかを再現してもいいんだけど、今回は昨日倒したドラゴン、もといムカデを見たいって事だからムカデを再現しよう。
本当は再現するためにムカデをイメージしたくはないんだけどね。だって、ムカデだし。虫だし。
「昨日倒したのはこんな感じだったよ」
使うのは光魔法だ。一回目の謁見ときに女神パワーを見せる時に使った映像魔法でムカデを再現する。
勿論大きさは等身大ではなく、見やすいように部屋に合った大きさにしてある。オオムカデが呼び出してきたムカデの大群よりも小さい大きさだ。大きさ的には蛇くらいだろうか。
この大きさだと完全に虫だね……。これでも元の世界にいたら大きすぎるムカデなんだけどね。
「これがドラゴンなのですわね!」
「おー、ドラゴンなの! 初めて見たの!」
「なんだか思っていたドラゴンのかっこよさというものがなく、禍々しいですわ。ちょっぴり残念ですわ」
「ラライア様と全く同じ意見なの」
そりゃそうだろうね。だってムカデだし。
かっこいいドラゴンが見たいならゲームのドラゴンも見せてあげようかな。あのボスはかっこよくて何度も戦ったからはっきりと覚えているんだよね。だから、再現できると思う。
「そうだね。かっこよくはないよね。わたしも初めて見た時はがっかりしちゃったよ」
かっこよくないという理由もあるけど、わたしの場合はドラゴンだと思って見に行ったらムカデだったっていう虚しさもあったよね。
「女神様もがっかりするほどのドラゴンなの。不憫なの……」
「その不憫なドラゴンよりも気になる事があるのですが、この見た事もない魔法はなんですの? 触ってもすり抜けてしまって触れることが出来ませんわ」
そう言えばラライア姫に見せるのは初めてかもしれないね。まだベッドで寝たきりの姫だったからね。
「これは光魔法で作った映像だよ。幻影みたいなもんだから触れないよ」
「女神様がする事ですから驚きはしませんけれど、不思議な魔法があるものですわね」
神がする事にいちいち驚きはしないよね。だって神なんだし。突然異世界に転生とかさせられる力を持っているんだから、何が起きても驚きはしないよね。
まぁわたしはその本物の神と違って偽物なんだけど。そこは気にしないでおく。
「謁見の時に使ってた魔法なの。あの時はコタビを作ってたの。女神様に作られるコタビ、女神様の愛を感じたの! うふふなの!」
「別に愛があってコタビを作ったわけじゃないよ」
ただ何となく頭に浮かんだから、それだけだ。
ルルの街を出てからずっと一緒に行動していたからね。そりゃ頭に浮かぶってものだ。
「またまたぁ、そんなに照れなくてもいいの。もっと素直に愛してもらっても構わないの」
「そうかそうか。じゃあ愛をこめてコタビの恥ずかしい話にお金でも払おうかな?女神貯金をフルに使っちゃおうかな?」
女神貯金、この世界に来てから特に何も高い買い物もしていないし、貯まる一方だ。
「わー! わー! それだけはやめてほしいの! コタビが悪かったの!」
勿論使う気はないけど、コタビをいじめるのには使えそうだね。このコタビの弱み課金をラライア姫を助けた報酬として受け取ろう。
ふははは、これでコタビはわたしに逆らえないぞ!
元から女神様大好きコタビさんの事だ。逆らうとか絶対しないだろうから使い道は嫌がらせくらいだけども。
「このドラゴンは本当はどれくらいの大きさだったのですの?」
電車くらいの大きさだったよなんて言っても、電車を知らないこの世界の人には伝わらないよね。
実際の大きさを光魔法で再現してもいいんだけど、この部屋じゃ狭くて入りきらない。姫の部屋だから十分広いけど、入りきらない。
窓から見えるように王都の上空に浮かび上がらせるくらいの勢いじゃないとダメだよね。そんな事をしたら確実に騒ぎになるからやらないけどね。いきなり空にムカデが現れたら王都中がパニックだよ。
分かり切った事をやるほど、わたしは馬鹿ではないのだ。
「うーん、そうだねー。コタビで表すとこんな感じかな」
蛇くらいの大きさに縮めたムカデに合わせてコタビを小さく作り出す。ミニチュアコタビちゃんだ。
これなら現物が横に居るしムカデの大きさも伝わるんじゃないだろうか。
「コタビがこんなにも小さいですわ! という事はそれだけこのドラゴンが大きかったって事ですの!?」
「やっぱり女神様はコタビの事を愛しているの!」
コタビがまーた何か言ってる言っている。無視だ、無視。もう、ほっておこう。
「あと、これくらいのやつもうじゃうじゃと湧いて出て来たよ」
コタビの大きさを再度調整して、穴から呼び出された方の小さいムカデとの大きさを再現する。
「うじゃうじゃですの!?」
「うえぇなの。それはちょっと、いやかなり嫌なの……。女神様はドラゴンとうじゃうじゃ湧いたドラゴンをどうやって倒したの? 気になるの」
「わたくしも女神様がどう戦ったのか気になりますわ。是非神の戦い方を教えてくださいですわ」
神の戦い方って、そんな大げさな戦い方はしていないよ。ちょっと隕石とか雷とか使っただけだよ。
「うじゃうじゃっていたのは風魔法でまとめて炎魔法でパパッと倒したよ。大きいのは水魔法で閉じ込めて雷魔法でバチッとって感じかな」
光魔法で再現しつつ分かりやすく説明する。この映像魔法便利だな。説明するのに伝えやすくなる。
この世界にはテレビとかパソコンとかがないから、この魔法その代わりにいいね。
「流石女神様なの! 魔法の規模が凄まじいの!」
「実際にこの目で見てみたかったですわ。女神様とドラゴンの戦い、歴史的な戦いになっていたに違いありませんわ」
「そこまで名シーンな戦いでもなかったよ。普通だったよ」
現実的に考えると隕石が落ちてるわけだし、普通ではないかもしれない。
だけど、ゲーム的に考えると普通の戦いだった。そしてわたしはゲームと同じ戦い方をしているわけだから普通の戦いだ。間違いない。
「全然、普通じゃないの。普通はドラゴンを水に閉じ込めたりしないの。女神様の神力あってこその戦い方なの!」
「そうですわ。それになにより雷魔法何て聞いた事もない魔法をお使いになっていますわ。雷魔法ってなんですの?」
ああ、そういえば雷を雷だとは認識していないんだったね。確か神の怒りだとか何とかだと思っているんだっけ。
女神が使う雷魔法。まさに天罰だ。怒ってはいないけど。
「冬場、寒い時期とかに、ドアを開ける時にバチッて来たりしない? それを魔法で作ったのが雷魔法だよ」
「あー、神のいたずらの事ですわね。寒い時期になるとスインがよく言ってましたわ。『あわわわー! また神にいたずらされちゃいましたー! 私そんなに悪い事してないですよー!』って騒いでましたわ」
静電気は神のいたずらって事になっているのか。まぁ雷と比べるといたずら程度の威力ではあるね。
スインさんはメイドさんだから、色んな仕事があるってよく静電気に合うんだろうね。
そんな事よりも気になるのが、ラライア姫のスインさんの物まねのクオリティが無駄に高い事だ。専属メイドだからよく一緒に居るからか、喋り方の癖や特徴をしっかりと捉えている。
スインさんの物まね選手権があれば優勝間違いなしだね。そんな限定的な選手権はないだろうけど。
「コタビも経験があるの。神殿によく来る野良猫を触った時によくあったの。あれはやっぱり女神様のいたずらだったの。猫より狐を愛せって言う言伝だったの! 女神様、コタビは狐派なの! 狐を愛しているの!」
なーに言ってるんだ、コタビは。相変わらずコタビの思考回路が全く分からない。
猫派と犬派で別れる事はあるけど、猫派と狐派で別れることは早々ないと思う。というかコタビは名犬なんだから猫でも狐でもなく犬派だろう。
「因みにそれはただの自然現象であって、わたしのいたずらじゃないからね。言伝も何もわたしじゃないよ」
ここはしっかりと言っておかないと、今後静電気が起こる度にわたしのせいにされてしまう可能性がある。身に覚えのない事までわたしのせいにされたら堪ったものじゃない。
ただでさえ厄介事が向こうからくるのに、これ以上やってきてほしくないからね。いや、本当に。
評価、ブックマークありがとうございます。
つらつらと書きたい事を書き連ねていたら、展開が進むのが遅くなってしまっているけれど、これからもよろしくお願いします。




