P33 戦後のあれこれ
プカプカと水弾の水槽の中でムカデが浮いている。
どうしよう。こんな大きいの収納魔法で収納できるのかな。それ以前にこのムカデを収納したくはないな。
このまま持って帰ろうかな。いや、あの小さいムカデ軍も放置してるし、ここに置いといて騎士に回収してもらうか。うん、そうしよう。それがいい。最善策だ。
水弾を解除して消しておく。
ムカデが重力に従ってドスーンと落ちて来て、地面が揺れ土煙が舞う。
「ゴホッゴホッ」
土煙に思わず咽てしまった。まさか倒した後にムカデの攻撃をくらうなんて思ってもみなかったよ。やるじゃないかムカデ!まぁ自業自得なんだけどもさ。
そりゃそうだよね。あの大きさのムカデが落下してきたらそうなるよ。もっと考えて降ろすべきだった。
それにしても、どうしてわたしを狙って来たんだろう。ムカデだから話せるわけもないから聞けなかったし。ちょっと気になるね。
今後また狙われでもしたら、わたしのスローライフが脅かされる事間違いなしだ。何か対策しておきたい。
でも、狙われる理由が全然思い当たらない。
この世界でやった事なんて、まだワーウルフを倒したくらいだ。それでムカデに狙われる理由も分からないし、謎は深まるばかりだね。
分からない事は分からない。どうしよもうないね。
さて、取り敢えずの問題はこの戦闘の跡の処理だ。ムカデが潜って出来た穴と、わたしが魔法で作ったクレーターでボッコボコに地形が壊れてしまっている。
「はぁ、ゲームなら地形の事なんて気にしなくていいのに、こういう所が現実のダメな所だね」
現実に魔法があるのがそもそもありえない世界から来たから思う事なのかもしれないけどね。それが普通の世界で初めから生きていたのなら、そういう価値観は持たなかったと思う。
直すのは簡単だから良いんだけどね。土魔法でパパッと整地するだけだから。
「よし!完璧!完璧な整地だ!」
来た時は緑溢れていたけど今じゃ土一色になっている。家でも建てれそうなくらいの真っ平な更地だ。
わたしの妖力を込めてある土だからきっと頑丈な地盤になっているだろう。
どうですかー?女神が作った神聖なる土地ですよー!お安くしますよー!今ならなんと女神であるわたしが付いてくるおまけつき!
うむ、コタビくらいしか買わなさそうだな。冗談じゃなくコタビなら本当に買いそうで恐ろしい。
「なんか身体がだるい…戦闘で疲れたのかな。そんな激しく動き回ってはいないはずだけど」
運動で疲れたような感じじゃないような気もする。元の世界では引きこもりのゲーム生活をしていたから、運動で疲れるって感覚を忘れているんだけども。
それでも分かる。身体の内から疲れが湧き出てくるようなこの感覚は運動疲れじゃない。
あー、もしかしてこれあれか。MPの使い過ぎかな。
オオムカデを遮るほどの土壁、数百人の騎士を回復に風魔法の拡声器、氷魔法に隕石魔法数発と炎の竜巻。それからオオムカデを閉じ込めた水弾と雷魔法。
ふむ、結構消耗していたのかな。
まず、回復人数が多すぎたよね。騎士丸ごと全部回復したからね。やり過ぎだったかもしれない。
戦闘に関してのMPの消耗は仕方ない。それが魔法職の戦い方だ。複合魔法とオオムカデを覆うほどの水弾とかがMP消費量が多かったのかもしれないね。
あとはテリトリー魔法だ。この魔法をずっと発動している。つまりずっとMPを消費し続けているという事になる。
テリトリーが一番MP消費してるのかもしれない。初めの頃より範囲を大分広げて使用しているから結構持っていかれてる気がする。必要最低限の範囲にするべきだね。
今は必要ないしテリトリーは切っておこう。
テリトリーは凄く便利なんだけど、便利なだけあって欠点が多いね。魔力感知の精度が上がれば感知人数が多くて情報量で酔うし、範囲が広がればMP消費が激しいし。
もっと効率化して使わないといけないね。今後の課題だ。
「取り敢えず、帰るかー」
王都に向けてのんびり足を進めて帰っていると、騎士の姿が見えた。どうやらこっちに向かって来ているみたいだ。
「女神様はご無事だぞー!」
「追ってくるなって言われて心配しました!」
「女神様ー!奇跡魔法ありがとうございました!」
「うおおおおおおおお!女神様ああああああ!」
傷は治るけど体力までは回復しないはずなのに相変わらず元気がいい事だね。
わたしの所に団長三人が近寄って来た。
「おお!女神様!ご無事でしたか!心配しましたぞ!」
「ちょっと魔法を使い過ぎたけど無事だよ」
「遠くで見守っていましたが、炎の岩を振らせたり、雨の日に稀に見る神の怒りが見えていました。こちらまで振動が伝わってきていましたよ。戦いの音がしなくなったので様子を窺いに来ました」
「見た事ない魔法でしたぞ!あれこそ神のお力ですぞ!」
神の怒りって…ああ、雷の事かな。神の怒り…まぁ天から落ちてくるんだから間違いではないかもしれない。天罰みたいなものだと思っているのだろう。
それにしても、遠くから見ても分かるくらい派手に戦っていたのか。まぁ隕石とか降らせてたわけだからね。
そりゃ派手に戦ってたか。
ゲームだとゲームだから普通だなって思う事でも、この世界で使うとなんでも派手になりそうだな。
「アースドラゴンはどうなりましたか?」
アースドラゴンと言われると一瞬分からなかったけど、ムカデの事だね。
「ばっちり倒したよ。ちょっと派手にやり過ぎたみたいだけどね」
「癒しの女神と仰っておりましたので治療専門の女神様とばかり思っていましたが、いやはや女神様のお力は我々の想像を遥かに超えておりましたぞ!」
雷魔法以外はゲームでの魔法のままだからね。この世界の人達には想像もできないと思うよ。
そもそも、治療専門って考え方がおかしい。魔法職は確かにヒーラー役もするけど専門ではない。回復だけをする職ではない。回復魔法もあるけど普通に攻撃魔法もするよ。
というか、回復くらいアイテムで出来るから回復魔法は特に必要としなかったよ。寧ろMPがもったいないくらいだった。まぁわたしがソロだったって理由もあるけどね。
この世界は複数の属性を扱える人は少ないいみたいだから、そういう考え方になっているんだろうけどね。
「女神様であれど子供だと思っていたが、子供でも女神、神の力を侮っていたようだ」
わたしを担いで頑なに降ろさなかったタトルさんだ。わたしが強いって分かってくれて嬉しいよ。神の力ではないけどね!
「死体はこの奥にあるから処理はお願いね。さらに奥に小さいのも結構な数転がってると思うからそっちもお願いね」
「了解しましたぞ!我らにお任せくださいですぞ!」
処理は騎士の人達に任せてわたしは王都に帰る。いや、戻る、だね。わたしが帰るって思う場所は今のところルルのとこだ。
と言ってもルルの屋敷のわたしの部屋にわたしの私物は何もないんだけどね。全部収納魔法で収納出来るし、服は未だに巫女服一着だし。
神殿に入る前の騎士専用の門の所に着くと門前に冒険者が並んでいた。
コタビ達の回復は終わってるみたいだね。
「アースドラゴンはどうなったんだ!?倒せなかったのか!?」
それを聞くために待っていたのかな。わたしが倒せなかったら次は騎士と冒険者が戦わないと王都が危険だもんね。
でも、あのムカデはわたしが狙いだったみたいだから、わたしが負けてたら王都は狙われなかったと思う。
あれ…ちょっと待てよ…。という事は王都にムカデが向かっていたのってわたしのせい!?わたしが王都に居なければムカデは来なかった…?
いやいやいや。いやいやいやいや。そんな事はないはずだ。わたしが厄介事も呼び寄せているなんてそんな事は絶対にないはずだ。うん、間違いない。
「ちゃんと倒してきたよ。今、騎士の人達が死体の処理をしてくれてるよ」
「「「おおおおおお!」」」
冒険者達が歓声を上げ喜びあっている。
「ワーウルフの時もそうだったが、滅茶苦茶強いなっ!森を半分凍らせ、奇跡魔法を使いこなす天使で、さらにドラゴン殺しか」
どれも本当のようで本当じゃない。森は凍らせたけど半分凍らせたわけじゃないし、奇跡魔法はただの回復魔法だし天使じゃないし、ドラゴン殺しというよりは虫殺しだ。
虫殺しって大層な言い方じゃなくて、あれはただの害虫駆除だよ。だってムカデなんだもん。
「やはり、冒険者ランクBなだけあるな!いや、本物の女神なだけあるな!」
「へっ?なんでそれを…」
冒険者ランクBなだけあるな。これは分かる。わたしがBランクに上がった事は同じ冒険者なら知っていてもおかしくない。Bランクってそんなにいないみたいだからね。数少ないBランクなら知られている可能性はあるというものだ。
本物の女神なだけあるな。これが分からない。冒険者に女神だと名乗った覚えはないんだけど…。
「ツインテールの犬みたいな神官が奇跡魔法を掛ける度に「オレンジ髪の獣人の姿をしている女の子は本物の女神様なの!この完全治療の奇跡魔法は女神様直々に教えてもらったの!」って言ってたぜ。オレンジ髪の獣人って言えばお前しかいないから直ぐ分かったぜ」
ツインテールの犬みたいな神官。うん、コタビだね。
男性の冒険者が途中から裏声で真似をしていたけど、確定的にコタビだね。全然似てはいなかったけども。
「そ、そうなんだ…」
「神なんて信じてなかったけどよ、実際本物を目の前で見ると信じるしかないよな!見慣れない奇妙な服を着ていると思ったが、そうか神様だったんだな。納得だぜ」
信じなくていいんだよ。納得しなくていいんだよ。
まぁもう女神として王にもあってるし、女神って事で通すしかないよね。
他の冒険者も女神女神と騒いでいる。あー、わたしは女神として生きていくしかないのか。めんどくさい役職についてしまったものだ。
元はと言えば自業自得なんだけどね!あの時わたしが強く否定していればこんな事にはなっていなかったんだけどね!
「じゃあ、俺達は騎士の手伝いに行ってくるぜ」
「「「今夜はドラゴン肉で宴だー!!」」」
と、盛り上がりながら冒険者達もムカデの方へと向かっていた。
まじか…あれを食べるのか。食べた事はないけど元の世界でも食用虫はあったけどさ…。
ドラゴンの肉なら食べてみたい気持ちはある。ワーウルフが美味しいんだからドラゴンだって美味しいはずだ。
でもあれはドラゴンじゃなくてムカデなんだよ。無理だよ。絶対食べられないよ。というか食べたくない。
食べないという確固たる決意をしたあと、騎士専用門から神殿に入ると何故か神官達がコタビを囲ってコタビが崇められていた。
どういう状況だこれ…。
「「「「「「コッタビ!コッタビ!」」」」」」
「ふふーんなの!もっとコタビを崇めるの!」
コタビがコタビコールを受けながら得意げな顔をして威張っている。
本当にどういう状況だこれ…。
取り敢えずこういうのは関わらない方が良いかもしれない。よし、バレないようにこっそり移動しよう。
「女神様の匂いがするの!」
鼻をくんくんと動かしバッとこちらに顔を向けて来た。
「あ!やっぱり女神様なの!戻って来てたの!」
速攻でバレた。
なんだ女神の匂いって。わたしそんなに匂うのかな。毎日清潔魔法をしっかりと掛けてるんだけどなぁ。
というかコタビがおかしいだけだよね。コタビの鼻がおかしいんだよ。くそーコタビ犬め!
「コタビ!お手!」
「はいなの!」
別に教えたわけじゃないけど、わたしの手にコタビの手が乗る。犬がするお手をする。
流石コタビ犬だ。教えなくてもパッと出来る優秀な犬だ。名犬だ。
「おーよしよし」
お手が出来たので頭を撫でて褒めてあげる。すると、嬉しそうに満面の笑みを浮かべているコタビ。うん、犬だ。
「ドラゴンは倒せたの?」
「勿論だよ。魔法でパパッと倒してきたよ」
「流石女神様なの!」
コタビとのそんなやり取りを終えると他の神官達が寄って来た。
「女神様ー!私共にも奇跡魔法の使い方を教えてください!」
「完全に治る奇跡魔法を使えるようになりたい!」
「女神様!お願いします!」
「おぉ尊い御姿…あぁ尊い…」
「是非ご教授を!」
コタビが崇められていた理由が何となく分かった。わたしが教えた事によって奇跡魔法の効果が上がったのを自慢していたわけか。
それで、他の皆もわたしに教えてほしいと。なるほどね。
新しい魔法や魔法の効果上昇とか魔法に関して興味を持つ気持ちは良く分かる。わたしがそうだからね。魔法の事ならどんな事でも知りたいし試してみたいと思うから。
収納魔法と清潔魔法をルル先生に教えてもらった時とか、知らない魔法を学べて使えて楽しかった。
教えてあげたいけど、流石に今は勘弁してほしい。
「さっき大きい虫を駆除してきて疲れてるからまた今度ね」
えぇー、と皆がっかりしている。そんながっかりされてもな。
あ、良い事思い付いたぞ。この作戦でいけば完璧だ。
「コタビを奇跡魔法を伝授する先生に任命します!女神からの直々の任命です!」
コタビに押し付け大作戦だ!
直々の部分を強調して言う事により女神からの特別感が増すことだろう。
「はいなの!女神様の直々の任命しっかり承ったの!コタビ先生とお呼びなの!」
「「「コタビ先生よろしくお願いします!」」」
ふっ、チョロ犬コタビだな。
コタビに押し付け大作戦は難なくクリアした。




