P22 最速でBランク!
あらゆる声を無視しつつ、今度は黒いワーウルフを取り出す。頭が貫かれているワーウルフやわたしが凍らせた大きめのワーウルフの隣にポイッと取り出した。
「うぉ!? なんだあれ!」
「あいつが今度は違うものを取り出したぞ!」
「今度は氷漬けじゃなくて丸焦げだぞ!」
「それにしてもでけぇな……」
「もしかして、あいつが倒したのか……?」
と、未だにこの広場にいる冒険者達が騒いでいる。うるさい人達だなぁ。
もうちょっと静かに出来んのかね。わたしが何かする度に騒がれたんじゃたまんないよ。
「これは……でかいわねぇん。黒焦げで分かりにくいけどぉん、確かに黒色の毛をしていたのねぇん?」
「うん、黒かったよ。それに風魔法を使ってきたよ」
やっぱ、炎魔法はダメだったかな。元々黒かったんだけど、丸焦げのせいで黒いみたいになってる。いや、現状は丸焦げのせいで黒いんだけどさ。
それにやっぱり、焦げた臭いが臭い!こういうところの現実味はいらないんだよね。ゲームみたいに倒したら経験値とアイテム落として光の粒子になって消えてほしい。
それもこれも、氷魔法を無効化するこのワーウルフが悪い。絶対そうだ。氷が効かない相手の効率よく倒す方法ってないかなー。
「魔法も使って来たのねぇん。それじゃあ間違いないわねぇん。この個体がキングワーウルフねぇん、それも亜種の」
亜種? 色違いだから? ちょっと強いみたいなそんな感じだろうか。
「亜種って?」
「通常とは異なる色をしていて、尚且つ魔法を使ってくるキング種よりも珍しい個体の事よぉん」
キングですら珍しいって聞いてたけど更に珍しい亜種に巡り合うとは。これがレアアイテムとかなら凄く運が良いって喜ぶんだけどなぁ。魔物のじゃあなぁ。
でも、この黒焦げのがキングだとすると横の大きめのワーウルフは何なんだろう。普通に凍ったしちょっと成長が大きいだけワーウルフだったのかな。それにしてはボス的雰囲気を醸し出していたけど。
「じゃあそっちの大きめのワーウルフは?」
「こっちは、ジェネラルワーウルフってとことかしらぁん?」
なるほど、ジェネラルか。ちょっと大きいってだけじゃなかったのか。もっと強くてもいいと思うけどなぁ。まぁ凍ってくれるのは楽だから有難いし良しとしよう。
「それにしてもキングの亜種なんて良く倒せたわねぇん? 聞いた話によると獣人ちゃんが一人で倒したんだってぇん?」
「わたしは1人の方が戦いやすいからね。一対一でなら負けないし」
ゲームでのボスは大抵一体だ。普通はその一体に対してPTで戦うんだけど、わたしはずっとソロだから一対一って言う戦いをずっとしてきた。1人で攻略してきた。この世界でもゲームと同じ性能の身体なら負けるはずもない。
「見かけによらず強いのねぇん」
見かけによらずは余計だ。いや、見た目子供だから仕方ない事か。
いいさいいさ、そのうちぼっきゅっぼんの大人になる予定だから。将来変わったわたしを見て驚くがいいさ。
「あの戦い方はやばかったぜ。この俺ですら剣筋が全く見えなかったくらいだ」
なんでパルパルはいつも自分を棚に上げているんだ。パルパルのレベルなんてNPC以下もいいとこだ。
「魔法も凄かったわよ。辺り一面凍らせる程の水魔法に広範囲の風魔法の壁に最後は炎魔法まで使って倒しちゃうんだもの。色々魔法が使えるとは言っていたけど、多彩過ぎよツズリちゃん」
そう言えば、土魔法以外全部使ったのか。正確には氷魔法と水魔法は別だから、水も使ってないんだけどね。それにしても悔しいな。あの程度の相手にほぼ全属性の魔法って……。縛り攻略してこそのボス戦だろうに!
「そんなに凄いならアタシも見たかったわぁん」
「俺もしっかりと見たかったな。怪我で倒れていて全く見ていなかったからな」
「……」
キリークさんとブロムさんがゴリマスさんに賛同している。ブロムさんは頷くだけだけど。
そんな魅せるような戦いじゃなかったよ。どちらかというと見っとも無い戦いだった。もっと魔法でスマートに勝ててたら良かったんだけどね。
「まぁ冒険者をしていればまた戦う機会はいくらでもあるし、その時に近くにいれば見れるかもね」
「それもそうだな」
一緒に行動するつもりはないけど、今回みたいに大掛かりなイベントがあれば同じ戦場で会う事もあるだろうからね。まぁ、街の危機みたいな今回みたいなイベントはあまり起きてほしくない。平和が一番だよ。
「取り敢えず、ワーウルフ討伐お疲れ様だったわぁん。今回は獣人ちゃんが居なければ無理だったかもしれないわねぇん」
そんな事はない……事もないのかな? わたしくらい強い人はあの冒険者の中にはいないとは思う。
大勢で掛かれば黒いワーウルフも倒せるのかもしれないけど、恐らく軽いけがじゃ済まない人だって出ただろう。そう思うと、わたしが戦って正解だったね。
神様はこの事を読んで、わたしをここに連れて来たのかな。
戦えるようにゲーム姿のまま、ゲームのステータス値のままこの世界に連れて来たのだろうか。
あの変な手紙には気まぐれって書いていたけど、そんな気まぐれで転生なんかするかなぁ。まぁ、ワーウルフイベントは終わったしもうわたしの役目は終わりだ。あとはスローライフを楽しもうじゃないか!
「ああ、無理だったな。ジェネラルワーウルフだけで冒険者2組がやられて、俺達もギリギリだったからな。更にそこからキングワーウルフを相手になんて出来る訳がない。ツズリ、本当に助かったありがとう」
「え、あ、うん。偶々タイミングが良かっただけだよ」
改まってお礼を言われると、なんか……うん、なんだろう、照れくさいね。
「もっと堂々として良いのよ。ツズリちゃんが奇跡魔法を使ってくれなかったらキリークもブロムも冒険者を続けられているか怪しかったんだから」
奇跡魔法……ただの回復魔法ね……。あれは怪我してるからちょうどいいやって思って実験代わりにやってみただけなんだよね……。なんか申し訳ない。
「ちょ、ちょっと待ってくれるかしらぁん? 今、奇跡魔法を使ったって言ったかしらぁん?」
ゴリマスさんがめっちゃ驚いている。驚き過ぎて筋肉がムキムキしてる。いや、なんで驚いたらそうなるんだよ。おかしいよこの筋肉。
というか回復魔法の事は話してなかったんだ。てっきりメアさん達から全部聞いて知ってるのかと思ったよ。
「あー、言ってなかったかもしれないわね。ツズリちゃんって奇跡魔法まで使えるのよ。しかも、傷跡も残さない程の凄い使い手なのよ! 凄いでしょ!」
なんかメアさんが自慢気に話している。
わたしがやった事なのにどうしてメアさんが自慢気なのか。
「獣人ちゃん、本当に使えるのぉん?」
「あー! 信じてなーい! 使えるって言ってるでしょ!」
いや、だからなんでメアさんが答えるのか。
「使えるよ。キリークさんとブロムさんを治したのはわたしだからね」
「ああ、間違いない。ワーウルフに噛まれた深い傷が見事に消えた。消えたから証拠はないがな」
「俺の目の前でキリークとブロムを治してたぜ」
「……」
他の面々も肯定してくれる。勿論、ブロムさんは頷くだけだけど。この人ホント喋らないな。
「獣人ちゃん……あなた一体……」
何者かって?
そんな気になる事かね。まぁ気になる事か。この世界では普通じゃない事をやってるみたいだし。どこかの騎士と神官には女神だと思われてるくらいだしね。
「奇跡魔法が使えるとか言ってるぞ?」
「マジかよ、流石に嘘だろ」
「でも、あのキリークが居るパーティが治してもらったらしいぜ」
「東のワーウルフを全部凍らせるくらいだから、本当に使えるんじゃね」
「あのくそでかい丸焦げのワーウルフとも一人で戦って勝ったらしいし、なんでもあり得る気がしてくるわ」
まーだ、外野の冒険者達はいたのか。暇なのか? クエスト行けよ。
あーいや、そう言えばそのクエストから皆帰って来たばかりだったか。わたしだけ屋敷から来たから忘れてたよ。
「奇跡魔法が使えるのか!? 頼む! ツレを治してやってくれ!」
冒険者の一人が真剣な顔をしてわたしに頼み事をしてきた。
っていうか誰?見ず知らずの人にいきなり頼まれて、はい分かりましたなんて、慈善事業者じゃみたいな事したくないんだけど。利用するだけして扱き使われる未来しかないじゃん。
「お前は確か、ジェネラルワーウルフを倒す時に居た一人か?」
「王都に行ったんじゃなかったのか? 何でまだここにいるんだよ」
と、キリークさんとパルパルが答えた。
わたしが来た時にはメアさん達しかいなかったけど、その前はもっと人が居たのかな。メアさん達だけで、あの広場に倒れてた数のワーウルフを倒したとは思えなかったから、まぁ居たんだろうね。
王都に治療に行く予定だったのかな? 西に行けば一人神官が居たけど、まぁ森の中を怪我人連れて移動は出来ないか。結構離れてたしね。
「直ぐに王都の神殿に行きたかったんだが、この大所帯のワーウルフ討伐で他の冒険者は居ないし、怪我人込みの俺達だけじゃ王都まで渡れなくてな……。盗賊にでも会ってしまえばお終いだ」
なるほどね。冒険者を護衛する冒険者が居なかったって訳だ。
「ツズリちゃん! 出番が来たわね! 治してあげましょう!」
だからなんでメアさんがそんな自慢気に堂々と答えるんだよ。
はぁ、わたしは慈善事業者ではないけど、怪我をしてる人は街の為に戦ってくれた冒険者だ。つまりルルの為に戦ってくれたとも言える。そんな人を助けないなんて言えないよね。
「いいよ」
「流石ツズリちゃんね!」
「ありがとう! 助かる!」
そういうのは治した後に言うものだよ。
「で、どこにいるの?」
「ここのギルドの二階だ」
「そう、分かった」
なんだギルド内に居るのか、それならテリトリーを展開して遠隔で治せるかな。
どうせ、治療するならここにいる冒険者全員を回復させよう。深い傷じゃなくても少なからず怪我をしている人は多いし、街の為に戦ってくれたお礼をしよう。
「移動しないのか?」
「このギルドにいるなら、ここからで大丈夫だよ」
「どういうことだ?」
まぁ黙ってみてなって。
テリトリーを展開させる。
街にいるときはテリトリーは切っている。人の反応が多すぎて情報量過多になってしんどいんだよね。常に発動させて慣れて置きたいけど流石にきつい。
テリトリーの範囲はギルドを覆うくらい。怪我をしてるかどうかまではテリトリーじゃ分からないけど、そんな事は気にしない。全員回復させれば大丈夫だ。
回復魔法発動! 対象はギルド内にいる人全て!
「な、なんだ!?」
「急に体が光り出したぞ!?」
「この感じ、神官様が掛けてくれた奇跡魔法と同じだ!」
外野の冒険者は何しても騒がしいな。
「あらぁん? アタシもなのぉん? 全身の筋肉が活性化されていくのが分かるわぁん!」
ゴリマスさんがムキムキとマッスルポーズを取り出した。
いや、回復魔法に筋肉活性化効果とかないよね? ……ないよね!? え? あるの? どうなの?
「マジかよ、俺ら全員に掛けたのか!?」
「そんなの神官でも無理だろ!?」
「今、実際に起きてるんだから信じるしかねぇ」
「あのガキ、何者なんだ……?」
女神だよって言っても信じてくれそうな勢いだな。いや、言わないけどね。女神じゃないし。
「ツズリさん! 凄いです! 私、受付の仕事で座ってる事が多くて、そのせいで肩と腰が痛くなってたんですが痛みがなくなりましたよ!」
カレンさんにも感謝されてしまった。なんだろう。冒険者よりギルド職員の人に感謝されている気がする。ゴリマスは感謝じゃなくて筋肉がーって言ってるだけだけど。
「身体が光ったかと思ったら傷が消えたんだが……一体何が起こったんだ?」
新しく広場の入り口から冒険者の人達が数名、何が起こったの変わらない様子で入って来た。
「おお! 元気になったのか! 良かった……! あそこにいる獣人の子が奇跡魔法を掛けてくれたんだ」
「あの小っちゃい子がか? そんなわけ……ないってわけじゃなさそうな顔をしてるな、皆。まだ現状を把握できないがありがとうな」
色んな人にお礼を言われながら、冒険者達は解散していった。
報酬を貰いに来ただけなのに何でこんな事になってるんだろう。おかしい。
「それで、報酬は?」
「それはぁん、カレンに聞いてねぇん。アタシの仕事じゃないからぁん」
だ、そうだ。
「ちょ、ちょっと納品数の数も冒険者の数も多いので……二日くらい待って貰っていいですかね……」
確かに、数が多いし各冒険者に振り分けなければならない。大変な仕事だ。当然時間はかかるだろう。まぁ、わたしには関係ない事だ! 頑張れカレンさん! 回復魔法ならまた掛けてあげるから!
「分かったよ。じゃあ、また二日後に来るよ」
そして二日後、予定通りに冒険者ギルドに来た。
ギルド内はいつも通りの雰囲気に戻っている。王都から来た冒険者達が王都に戻ったからね。
「お、あの獣人の子が来たぞ!」
「奇跡魔法ありがとな! お陰で昨日の疲れが待ったくないぜ!」
「俺らのパーティに入らねーか? お前がいてくれたら百人力だ!」
「何言ってんだよ! 俺が最初に目を付けてたんだぞ!」
相変わらず騒がしいな、ここは。
誰のパーティにも入る気なんかないよ。わたしはずっとソロの方が良いんだよ。ゲームの時からそうなんだから。
もし組むなら、わたしと同じくらい強い人だ。わたしが介護しなくてもいいくらい強い人。魔法で巻き込んでも大丈夫なくらい強い人。そんな人なかなかいないと思うけどね。
伝説上の勇者ならわたしよりも強いのかな。まぁ、勇者パーティなんてめんどくさそうだから絶対に嫌だけどね。
いつも通り無視しつつ、カレンさんが居る受付に真っすぐに行く。
「カレンさーん、来たよー」
「ツズリさん! 待ってましたよ!」
今日もカレンさんは元気だね。仕事大変なはずなのに、大変そうな素振りは一回も見た事ない。仕事人だ。
「これが今回の報酬金です!」
カウンターの上にどーんっとでかい袋が出て来た。いつもは奥から手で持ってくるんだけど、今回は収納魔法でどーんっと目の前に置かれた。
「なんか……多すぎじゃない?」
「当然ですよ! ワーウルフ53体とキングワーウルフの亜種に、さらに東のワーウルフを討伐したのは実質ツズリさんですよね? 東に行った冒険者の方達が口を揃えてこう言ってましたよ。倒したのはあの獣人の子供だから俺達は解体料だけ貰えればいいって。なのでその分の討伐料も含まれてます! そして更に、この前ここで行った奇跡魔法で治療してもらったからって冒険者の方がツズリさんにって感謝料を置いて行きましたからそれも含まれてます!」
ええ……。口が悪い冒険者が多い癖に皆良い人過ぎない……?
東で倒したワーウルフなんて回収し忘れてたわたしの責任なんだから別に気にしなくて良いのに。
それに回復魔法の感謝料ってなんだ。病院じゃないんだからいらないよ。そもそも、街を守ってくれたって言う感謝のつもりで掛けたんだから感謝料なんて要らなかったのに。
ま! 貰える物は貰うけどね! それがわたしだ。
貰えるのに貰わないとかそんな勿体ない事絶対にしない。ゲームでも貰えるアイテムは全部貰いに行った。どんなイベントでも参加賞だけでも貰える物は貰った。まぁ使うのがもったいなくてアイテムボックス内で誇り被ってる事になるんだけどね。
「有難く貰っておくよ」
袋ごと収納しておく。あとで半分にして宿泊料としてハセンさんに渡しておこう。冒険者で稼いだお金はそうするって決めてるからね。
「それからこれも受け取ってください!」
そう言って渡されたのは、新しい青色のギルドカードだった。ギルドカードにはBランクと書かれている。
おー! またランク上がったのか! しかもまた飛び級だよ! Cランク飛ばしちゃったよ! このまま冒険者の頂点を取っちゃうか!?
でも、これ以上ランク上げるってなるとワーウルフイベントよりも上のイベントが起きないと上がらないって事だよね。ないな、うん、ない。強い魔物イコール街の危機だ。そんな再々危機に直面してほしくない。
「ありがと! Bランク嬉しいよ」
「私が知る限りで最速でBランクですよ!」
ほう、最速か。
でもこれは、ワーウルフが繁殖してたって言うイベント運だからなぁ。このイベントがなかったら地道に魔物を狩らないと上がらないわけだからね。
運も実力のうちって事で素直に喜んどけばいいのかな。でもなぁ、このイベントの為にこの世界に来たのだとしたら運じゃなくて必然だよね。
「まぁ私はこの街のギルドでしか働いた事ありませんし、Bランクになった人を見たのツズリさんが初めてですけどね!」
なんじゃそりゃ。狭い世界での最速だな!
というか、わたししかいないんなら何しても最速じゃんか! 一人で最速を競っても何も得るものがない!
折角Bランクになったし面白いクエストとか無いか聞いて見ようかな。
「Bランクの依頼って何かある?」
「いやー、Bランクの依頼ってワイバーンとかのレベルになるんですよね。そんな珍しい魔物滅多にいないのでBランクの依頼はありませんね!」
な、ないの!? いや、ないのは平和で良い事だ。うん。良い事だけどないのか。そっかぁ。
じゃあ、当分屋敷で引き籠り生活かなぁ。
あー、でも折角お金も沢山入ったし、この街に家でも買う? ルルにずっとお世話になるのも迷惑だよね。いや、ルルなら迷惑って思うどころか、わたしが屋敷を出て行くって言ったら引き止めそうだけど…。
ま! 時間は沢山あるし! ゆっくり考えるとしますか!




