P2 魔法の使い方
森を抜けるべくわたしは森の中を歩く。
歩く、歩く、歩く。
「いつになったら森を抜けられるんだろう」
結構歩いてると思うけど、森から抜けられそうにない。
それから、歩いていて気付いたけど引きこもり生活が長いわたしなのに、これだけ歩いても全く疲れたとは思はないんだよね。
あれかな、ゲームキャラの身体だからかな。
ゲームではあっちこっち移動してたし、運動(戦闘)もしてたし。
魔法職は基本動かずに後方攻撃が基本だったけど、わたしの場合はソロだから動き回ってたんだよね。魔法を発動する隙も無い敵とかには、近接武器で挑んだりして跳んだり跳ねたり、躱したりで動きまくったものだ。
身体的には、キャラデータに依存しているのかな。
「お腹空いたし喉乾いたなー」
あ、そうだ。
魔法が使える世界なら、水も出せるよね?
魔法ってどうやって使うんだろう。杖とか必要なのかな?
ゲームなら杖は、攻撃力を上げるってだけで素手でも撃てたし、技名を言えば発動した。
でも今は水が飲みたいだけ。攻撃力は要らない。
技を口に向けて出すか……?
いや、ないな。ないない
小説とかだと血液の流れを魔力の流れに例えて放つとか、イメージ力とかだよね。
目をつむり身体の魔力を感じてみる。
うん。わからない。
血液の流れを感じながら生きてる人なんていないよね。魔力の流れなんてわかるわけがなかった。
うーん。魔法が使えるかだけでも試してみるか。
ステータスにあるはずのゲームで覚えた魔法は消えてたけど、技名は覚えてる。
とりあえず、水の初級魔法辺りの水弾を試そう。
「アクアボール」
前に突き出した手の何もない空間から、水の弾が出て前方の木に当たって弾けた。
付き出した手って言っても、袖が長くて手は出てないけどね。
そんな細かいことは置いといてだ!
おお! おおおお!
出来た! 出来たよ! 魔法!
ステータスには書かれてなかったけどちゃんと魔法が使えたよ!
杖も必要なさそうだね。
あとはどうやってこれを飲むのか……。
魔力の流れはわからないけどイメージ力で魔法が変化すると仮定するなら……。
さっきの水弾はゲーム内での攻撃のイメージをしながら放った。
攻撃だから放ったけど、放たずに掌の上に停滞するようにイメージ。
大きさも小さく。
冷たい方がいいからキンキンに冷えてる事をイメージする。
よし。
「アクアボール」
おお! 出来た!
「ってこれじゃ、水魔法じゃなくて氷魔法だよ……」
袖越しの掌の上に出てきたのは水の塊ではなく、氷の塊だった。
あれか、キンキンに冷やしたらダメだったかな?
何事も程々が一番って事か。
でも、収穫はあった。
形、大きさはイメージ通りに出来ている。
アクアボールって言ったのに氷魔法のフリーズンボールになってる事から、技名を言う必要は無さそう。
ゲームでの攻撃魔法を使うなら、ゲーム通りに口にした方がイメージはしやすそうだけど。
まぁ要は、イメージだ。
魔法の使い方は何となくわかった。
今度は適度に冷えた水をイメージする。
水の弾では飲めないから蛇口から水が出る感じをイメージ。
「飲み水よ出ろ」
何もない目の前の空間から水が出て、地面に向け流れ出た。
「ちょ、ちょっと待って! コップ! コップ! ……ない!」
どうやって飲むか考えてなかった。
仕方ないので袖をまくり上げ手で掬うようにして、そこに溜まった水を飲む。
「あ、冷たくて美味しい」
飲んだ後だけど、魔法で出た水って成分は何だろう……。
魔法で出た水だから不純物が一切入ってないって事ないよね?
超純水とかじゃないよね?
あれって飲んじゃダメなやつだった気がするけど……。
ま、美味しかったし深く考えないようにしよう。
この水、いつまで出続けるんだろ。
地面には水溜まりが出来ている。そこに未だ流れ出てくる水。
魔法だしわたしの魔力? あーいや、わたしのは妖力? だっけ、それが切れるまで出続けるんだろうか。
そう考えると勿体無いな。
MPの無駄使いは魔法職にとっては致命的だ。
数値として見れない今だと、どれくらい使って残っているのかわからない。不便だ。
とりあえず水は止めておく。
止めるのは、止めるイメージをするとちゃんと止まった。
魔法だからって言葉で解決する事だけど、どこから水が出ていたんだろ。
何もない空間から流れ出る水……。
まあ、魔法だからだよね。うん。
喉は潤ったけど、お腹は空いている。
早く森を抜けたい。
森を抜けて街を探して、お腹いっぱい食べたい。
あ、お金ないんだった……。まずは働かないと……。
異世界だし冒険者かな?
冒険者かー。魔物っているんだろうか。
魔物倒したらゲームみたいにお金落ちないかなー。
ん?
なんか変な鳴き声が聞こえる。
足音も聞こえる。
人?
人は変な鳴き声とか発しながら歩かないよね。
あっちの方向だ。
狐の耳だからなのか聴力が優れている気がする。
ゲームだと狐の獣人っていう設定なだけで耳が良くなるとかはなかったな。
音の方向へ歩いて行く。
ゴブリンだ。ゴブリンがいる。
しかも三体。
「うえぇ、きもっこわっ……」
これが異世界か。
魔物こわっ! 顔、こわっ!
ゴブリン、小鬼と言われるだけあるなぁ。
ゲームのゴブリンはまだ可愛さがあったよ。
ゲームならゴブリンぐらい、パパッと倒して勝てる自信はあるんだけど、流石にゲームのようにはいかないよね。
かと言って逃げるのもなぁ。ゴブリンに逃げるとか、最前線張ってたわたしのゲーマー魂が邪魔をする。そんな気がする。
どうしよう、勝てるかな?
こっちに気づいてないし先手必勝って事で……。
「フレイムボール」
空中に作り上げた3つの炎の弾をゴブリン目掛けて放つ。
直撃したゴブリンが炎に包まれ叫びながら地面を転がり暴れる。
「うわぁ……」
ゲームだとHP分のダメージを与えれば光になって消えたし、倒すときのボイスも一瞬だったけど、これは……なんていうかリアル過ぎて嫌だ……。
リアル過ぎというか、改めて思うけどここは現実なんだよね。
魔法に浮かれたけど、異世界、きつい。
それに何よりきついのは……。
「臭い……!」
ゴブリンの焼け焦げる臭い。堪らなく臭い。
ゲームと現実との違いを身に染みて実感する。
現状染み込んできてるのは悪臭だが。
そういえばこの巫女服は防臭もされるんだっけ、良かった変な臭いが付いた巫女服にならなくて……。
ありがとう神様。
「って、やばい! また、ゲームと現実の違いという弊害が! 火が木に移って燃えてる!」
うわー失敗した!
そりゃそうだよね!
森の中で火なんて使ったら駄目だよね!
普通に考えたら当たり前の事なんだけどさ。
魔法とか魔物とかで、ついついゲームの感覚で炎魔法を……。
と、とにかく消さないと!
「アクアボール! アクアボール!」
燃え移った火に向けて、水の弾を打ち込んで消火する。
あ、危なかった。
もっと燃え広がってたら異世界に来て早々に放火魔として捕まるところだった。
いや、もう既にちょこっとだけ燃えた後なんだけど。
過ぎたことは気にしたら駄目だ。うん。
人間は失敗から学んで行くからね。
あ、わたしって妖怪なんだっけ。
……。
細かいことは気にしない。そうしよう。
今回の失敗から学ぶことは、ゴブリンと森は火気厳禁。
覚えておこう。
そういえば、この世界ちゃんと人いるよね?
妖怪しかいないとかじゃないよね?
人類が滅亡した世界で魔物の世界とかじゃないよね?
大丈夫だよね? そう信じたい。
ん? また足音が。
ゴブリンの仲間が来たとかじゃないよね?
逃げる?
いや、ないな。
迎え撃つ?
向こうから来るのが分かってるなら木の裏に隠れてまた奇襲を仕掛けるか。
よし、そうしよう。
木の裏に身を潜めてから少し経つと、足音の音源が来た。
人だ。男の人が2人。
ちょっとした動きやすそうな防具に、剣を腰につけている。
1人は長剣持ちの20歳前半くらいかな。もう1人は普通の長さの剣持ちで20はいって無さそう。
騎士には見えないし、冒険者かな?
ゴブリンじゃなくて良かった。弱いけど怖いんだよね。顔が。
はぁ、でもこれで森からは出れそうだ。
あ、でも待てよ。見た目で言えば獣人だけど迫害とかそういう風潮無いよね?
もうちょっと隠れて後ろからこっそり付いて行こう。
「煙が上がってたのはここか」
「そうみたいだな。ゴブリンと戦った形跡がある」
あー煙を見て来たのか。割と結構燃えたからね。
狼煙的な? SOS信号とでも思ってくれたのかも。
でも、いきなり襲われることはないだろうけど、万が一のため隠れておこう。安全第一だ。
「あそこ何かいるな」
「ああ、いるな。そこの木の後ろに隠れてるやつ、出てこい」
な、なんでバレたの!?
しかもなんで剣抜いてるの!?
ええ、出て行きたくないんですけど……。
このまま逃げるか?
いや、でも折角森から抜けられる手掛かりが……。
もし戦う事になったら勝てるか?
剣士2人。
ゲームでPvPはやったことはある。
武器統一の大会があって、剣なら剣の扱い方が長けているトッププレイヤーを決める大会だ。
わたしは剣も扱っていたから参加してたんだよね。魔法職だけど。
参加した理由は、自分の技量上げ。やっぱり、上手い人と実戦するのが良い経験になるんだよ。決して近接職の友達がいなかったからではないよ。
結果的にはいつも2位止まりだったなぁ。剣士トップのあの人には勝てたことないんだよね。
出来る事なら、また戦いたい。強い人と戦うのはなんだかんだ言って楽しい。
おっと、ゲームの思い出を思い出してる場合ではなかったね。
相手2人の実力はわからないけど、ボロ負けはしない。と思う。
何故かバレてるし顔だけ出して様子見かな。
顔だけ出して?
あれ、わたしさっきから様子見で顔だしてるじゃん。
冒険者だとか剣を抜いただとか、思いっきり見てるよ。
ということは向こうからも見えてるよ。
わたしは馬鹿か?
仕方ない。出て行こう。
「獣……人……の子供?」
「こんなところに? しかも、奇妙な格好」
良かった。妖怪じゃなく獣人として見てくれた。ちょっと心配してたんだよね。
あのステータス、恐らく神様?が作ったっぽいし。神的力で妖怪オーラ出てるとかなくて安心したよ。
でも、子供って失礼だな! わたしはこれでも17才だよ! 引き篭もりでちょっと発育が悪いかったけど17才だよ! あ、いや違う。今の見た目はゲームキャラだった。キャラ作ったのが5年前だから5才か? 見た目的には何才に見えるんだろう。
まぁ今回は子供という見た目に救われたな。子供と思って剣を収めてくれたし。争わなくてよさそうだ。
うん、でも奇妙な格好か。この世界には巫女服はないっぽいね。あっても有名では無さそうだ。
「これは君がやったのか?」
「そうだよ。炎魔法でパパッと」
「獣人が魔法? 珍しいね」
「そうなの?」
「そうなのって獣人である君の方が詳しいと思うけど?」
そんなこと言われても困る。こっちの世界事情なんて知らないよ。
あんまり下手な事を言うのはやめよう。怪しまれる。
流石に別の世界から来たって言っても信じるは思わないけど、言わないに越した事はない。
面倒事に巻き込まれたくないからね。
「ゴブリンに襲われて自分の命の危険だった事はわかるが、森では炎魔法はあまり使うな。森が燃えてなくなると居場所を失くした魔物共が街を襲う危険性がある」
「ご、ごめんなさい」
あのまま燃えてたら大惨事になるところだったとは……!
襲われた処かわたしから奇襲しちゃったし、それで燃えたとか絶対に言えないよ。
しかもそれで街が襲われることになってたら寝覚めが悪いってもんじゃない。
「まあいい、燃え広がってないみたいだからな。それで、なんでこんな所にいるんだ? 親や部族の仲間とかはどうした?」
「えっと……」
どう答えようか。
親? いませんとも。この世界には。
部族? 何のことだかさっぱりわかりません。
うーん。どうしよう。
迷子?間違いではないよね。
「まい――」
わたしが口を開くのと同時くらいにバンッバンッと爆発音が響いてきた。
「えっなに?」
「何かあったみたいだな。すぐに戻るぞ! パルマ! その子を背負っていけ。ここに子供を置いて行く訳にはいかん」
「わかった。ほら、俺の背中に乗って!」
え、見ず知らずの男性におんぶされるの?
それはちょっと、嫌だな。
でもなんか慌ててるし、言う通りにした方がいいのかな。
いやーでも、おんぶとか嫌だな。
「自分で走るよ。急ぐんでしょ? 背負って走るよりお兄さんも早く走れるよ」
「いくら獣人でも子供なんだから、森の中を俺らの速度で付いてこれるとは思えないし、早く乗って!」
「大丈夫。子供の頃から森を走ってたから」
子供の頃からって言うのは嘘だけど、森を走ってたのは本当だ。ゲームでだけど。
それに走って試したいこともある。
「子供の頃からって今も子供じゃないか! 早く乗って!」
なんだこいつ!
引けよ!
「おい、揉めてる場合じゃないぞ。さっさとしろ!」
「だってこのちびっ子が!」
「わたしは走る」
「本当に走れるんだな? こっちも急ぎだ。本気で走るぞ」
「大丈夫」
「だ、そうだ。行くぞ」
「わかった」
何故そんながっかりしているのか。
とりあえず、付いて行くとしよう。