P13 これはわたしの弁当だ!
湖の周りを歩いて油スライムを探していると、見つけた。
3匹固まっている。黄色いスライムだ。
多分あれが油スライムだろう。スライムって形してるし、間違いない。
目と口とかは付いていない、普通のスライム。どうやって動いて生きているんだろうか。
捕獲しないといけないんだけど捕獲じゃ収納魔法は使えない。このスライムを持って街と森を往復なんて面倒な事はしたくないからなぁ。
とりあえず普通に倒してみる事にしよう。
油だし森だから炎はダメ。油に水も効きそうにないよね。
無難に土魔法かな。
土の矢を創りだし、油スライムに向けて放つ。油スライムを貫通し油スライムが溶けた。
「捕獲ってそういう事かぁ」
わたしの目の前にいたスライムは倒すと溶けて、地面と一体化してしまった。
これじゃ、持って帰れないね。
んーどうしよっかな。油って凍ったっけ。凍らないにしても、固まってくれさえすればいいんだけど。
さっきの3匹は倒してしまったので新しく探しに行く。
周りを歩いてたらすぐに見つかった。
良し今度はワーウルフを凍らせたように氷の近接魔法でやろう。
なんだかんだ言ってこれが一番簡単だ。スライムならワーウルフみたいにすばしっこくないし簡単に倒せる。
スライムに近づき袖越しに纏った冷気で凍らせる。
凍るっていうよりは固まったって感じになった。冷やして固まったんだから凍ったと言っても過言ではない。正確には違うかもだけどね。
スライムだし、弱いのは当たり前か。ゲームでも最弱モンスターだったし、この世界でも同じなんだろう。
あとはこれで収納出来たら最高なんだけど、どうかな?
凍らせた油スライムに触れ、収納をしてみる。
「おー、出来た! これなら簡単に持って帰れるね」
収納が出来る事が分かれば、見つけて凍らせて収納しての作業の始まりだ。
目指せ湖一周! 全ての油スライムを狩りつくすぞー!
湖の周りを走って油スライムを見つけたらパッと近づいてパッと凍らせてパッと収納する。
うーん、なんていうかもう少し効率化したいなぁ。
ゲームのボス周回とかもそうだけど、一つの事をやり続けるなら効率化したくなるんだよね。
先ずは余分な動きを考えてそれを省く。
収納するのに触れる必要はないんだよね。わたしにはテリトリー魔法があるから離れていても収納できる。
でも、凍らせるには直接触れないといけないから結局触ることになる。
うーん、どうにか出来ないかな。
テリトリーで妖力流して収納や操作が出来るなら、遠隔で凍らせることも出来るんじゃないだろうか。
考え付いたら即実行!実際にやってみよう!
テリトリーを発動させる。範囲は半径10mくらいでいいかな。
氷の近接魔法は手に冷気の魔法を纏わせて触れた物を凍らせる魔法だ。テリトリーは妖力を電波のように飛ばしてわたしを中心に円状に妖力で覆う魔法。
この電波のように飛ばしている妖力を近接魔法と同じように冷気へと変えるイメージだ。
「ああああ! やり過ぎた!」
結果は、出来たのは出来た。凍ったよ。テリトリー内全てがね……。
そりゃそうだよ。飛ばしてる妖力全部を冷気に変えちゃったらこうなるよ。わたしは馬鹿か。
あーあー、辺り一面凍ってるよ。湖の一部と森の一部、テリトリーの半径10m範囲が綺麗に凍っている。
まぁ、これはこれで幻想的で綺麗で良いかもしれない。そのうち溶けるだろうしほっといてもいいよね。
はぁでも、炎で試さなくて良かった。また森が燃える上がるところだったよ。炎はもしもの時の事故が怖いし封印しておこうかな。
氷だ。氷が一番だ。綺麗だし、便利だしね。それに被害が少ない。多分。
やり過ぎたけど成功は成功だ。遠隔で凍らせる事が出来た。
油スライムを収納して次の油スライムを探しに行く。
いたいた。湖の周りを走ってればすぐ見つかる。
今度はテリトリー全部ではなくて収納魔法や片付け魔法の時のように対象の物だけに妖力冷気を当てるようにする。
対象は目の前にいる油スライム! 油スライムだけ! だけ凍れ!
「よっし成功!」
そのまま収納もパパッとやっておく。
「なんて便利なんだテリトリー魔法。動かずとも魔物を倒して収納まで出来る! 最高!!」
テリトリーを維持しつつ走って見つけたら凍らせて収納する。
初めのうちは見つけたら歩いてたけど、慣れてきた頃には走りながらでも出来るようになった。
テリトリーに油スライムが入ったら凍らせて、通り過ぎるくらいには凍ってるから収納。完璧な効率化を成し遂げる事に成功した!
走るだけで油スライムを凍らせて回収も出来る!
しばらく黙々と走った。
「あ、湖一周しちゃったか。もうちょっと狩っても良かったけど、もう一周はめんどくさいなぁ」
湖の周りを走る前にちゃんとスタート地点に土魔法で目印の塔を建てておいた。
わたしは賢いからね。そういうところはきっちりしているのだ。賢いから。
「そういや何匹くらい狩ったかな。覚えてないや」
10匹辺りから魔法の事しか頭になかったから全く数えてない。
収納魔法は収納している物を覚えてないといけない。お金とかいくら仕舞っているかとか覚えておかないと足りないなんて事になりかねないからね。
まぁ大丈夫だろう。取り出せなくなるまで取り出せば、それで全部って事だ。油スライムをずっと収納している必要はないしね。
ぐぅう~。
集中してずっと狩ってたからお昼の存在を忘れてた。
一周してキリもいいし、リリナが作ってくれた弁当を食べて帰ろうかな。
収納からリリナ弁当を取り出して蓋を開ける。木で出来た弁当箱だ。
中身はサンドイッチだった。何かの肉と何かの野菜が挟んである。
何かって言ってるのは、この世界は魔物を食べるからだ。まともな肉ではないだろう。そうなると野菜も疑わしい。
油スライムが居るんだし野菜の魔物が居てもおかしくないよね。魔物尽くしだ。
「美味しい!」
魔物なのに美味しんだよねぇ。これだから食べないとか言えないし嫌いとも言えない。
美味しいは正義だ。美味しければ素材が何であれ許される。
このサンドイッチまだ暖かいし、パンもパサついてない。まるで作り立てのような感じだ。
収納魔法って収納している物の時間も止まったりするのかな。
妖力空間というよく分からないアイテムボックス的なところに収納されているから、現実世界とは時間の流れが違うとか。
それともこの弁当箱にそういう仕組みが仕込まれてる魔法の道具だったり?
うーん、どう見ても普通の木製の弁当箱だ。
まぁ何にせよ作り立てで食べれるなら最高だね。魔法最高!
あ、テリトリーに反応がある。何かが近くにいる。それも結構な数だ。
ずっとテリトリーを発動しっぱなしでスライム狩ってたけど、その時に気づいた事がある。テリトリー内に居る生き物が分かるんだよね。わたしが飛ばしてる妖力に触れるとそれが伝わってくる。
スライムがテリトリーに入った瞬間凍らせるっていう反射神経を鍛える遊びをしてた。
今はそんなことは置いといて、わたしのテリトリー内に来た何かに警戒しておこう。
何かいるって事は分かるんだけど、その正体までは分からない。魔物かもしれないし、人かもしれない。だから確認できるまでは攻撃も出来ない。
獣っぽい声、というか音が聞こえる。犬がはぁはぁするような音。
これはあれか、わたしのリリナ弁当を奪おうとしているのか!?
食べ物の恨みは恐ろしいぞ! まだ奪われてないけど。
食べかけのリリナ弁当を再び収納して獣に備える。
森からゾロゾロと出てくる出てくる。10匹くらいいるんじゃないっかてくらいのワーウルフだ。
この森って初心者用で強くてもオークって話だったけどなぁ。
遠くからリリナ弁当を狙ってやってきたのかな。恐るべきリリナ弁当。
「悪いけどワンちゃん達の弁当はないよ。むしろ、あなた達って美味しいからお持ち帰りさせてもらおうかな?」
ワーウルフの肉美味しんだよ。こんな涎垂らしてめっちゃ獣顔だけど、美味しいんだよ。是非持って帰りたい。
ま、倒すのは簡単。既にわたしのテリトリー内だからね。スライム同様凍らせてしまえばいい。
「ふふふ、皆凍るがいい!」
あ、今のセリフめっちゃ強者っぽい。
勇者っぽくはないから魔王かな。将来わたしは魔王にでもなろうか。
めんどくさそうだから絶対にならないけどね。
「ああ! ちょっとまって! ずるい!」
ワーウルフ多すぎ速すぎで的が絞れない。
矢系魔法みたいに物理的に当てる必要はないんだけど、凍らせたい対象に妖力を変換した冷気で覆わないといけない。
なんだけど、多すぎて1体に集中できないし動きも速くて他のワーウルフに紛れ込んで、どれを狙ってたやつか分からなくなる。
うおおお! 多すぎ!
遠距離で凍らせられなかったから、近づかれての戦闘になってしまった。
10体以上のワーウルフに囲まれてしまっている。
こうなったら近接魔法だ。前回のワーウルフ戦と同じように倒してやる。
向かってくるワーウルフを躱して、反撃。しようと思ったけど次々に向かってくるワーウルフがうっとうしくて躱すのに精いっぱい。
1対10とか卑怯すぎるよ!
じり貧だなぁ。躱す事しかできない。
隙を見て矢系魔法を放ってみるものの動きが素早いワーウルフには躱されてしまう。
刀が欲しいよ、刀が。こうなってくると血が見たくないとか言ってられないからね。刀でばっさばっさと斬り飛ばすしかない。
あ、いや。あるな。素敵な方法があるじゃないか。
周りは森と湖しかない。人はいない。
なら、範囲魔法で一網打尽だ。わざわざ1体ずつ狙わなくても良かったんだよ。
テリトリー内全てを凍らせよう。油スライムの時にやったときは失敗扱いしたけど、今回はそれを狙って発動させる。
飛ばしてる妖力をすべて冷気に。
「全員凍って!」
技名でも考えとけばこういう時かっこいいかな。アイスフィールド的な。
ダサいな、止めとこう。
「はぁ、終わった。初めからこうしとけば良かった」
ワーウルフ含め辺り一面凍った。
いやー、この魔法は綺麗だね。氷の世界って感じがするよ。
というか何も気にせず使ったけど、前回も今回もわたしは凍らなかった。凍らなかったどころか寒くもない。
巫女服のお陰かな。巫女服を着てない顔とか尻尾も寒くはないんだよね。尻尾は毛でもふもふだからかもしれないけど、顔はもふもふじゃない。
服というよりは装備品なんだろうか。ゲームみたいに装備すれば全体に影響されるとか?なんせ神様謹製だからね。良く分からん。
凍ったワーウルフを収納して昼食の続きをする。
いいね。氷に覆われた森と湖で食事をするの。幻想的だ。
ただ、戦闘の後にっていうのがちょっと残念だ。ワーウルフが来なければこの景色はなかったけど、来なかったらもっとゆっくりと味わえたよ。
食べ終わったしそろそろ帰ろう。
はぁまた1時間マラソンか。
マラソンしながら何か出来る事ないかな。普通に走るだけってつまらないんだよね。なんか面白い魔法ないかなー。
まぁ、自分で考えるしかないよね。何か思いつくものあるかな。
うーん、テリトリーが便利だからこれをもっと活用していきたいね。
さっきのワーウルフみたいに複数出て来ても対応できるように練習しようかな。
複数を同時にってのは3体までは可能だと思う。操作できるのが3つだから。ってことはこれを10体くらいまで出来るようになればいいわけだ。
土魔法で石を4つ創り出す。
とりあえずこの4つを操作しながら走ろう。
テリトリーは発動しっぱなしで良い。湖一周出来るくらいずっと発動してて尚且つ冷気魔法まで使ってたけど、MPが消費されてる感じがしない。ワーウルフとも魔法で戦えたしね。
そもそも、MPという概念がない世界なのだろうか。まぁ便利で良いけど。
マラソンをしながら、石を操作しつつ街へと帰る。
操作に慣れてきたら石の数を増やす。
そんなことをしているとあっという間に街に着いた。
集中してると時間が過ぎるのは早いね。行きは1時間が長いと感じていたけど、帰りは一瞬だった気もするくらいだ。
集中していても道を間違えたりする事はない。何せ長い草原を一本道だからね。これで迷ってたら逆に天才だよ。
街から出ると何も開拓してないって感じだ。途中に村でもあるかと思ったけど、特になかった。
まぁ、あってもこの格好じゃ怪しまれるだけだけどね。
感覚的にはあっという間についたけど、陽は大分傾いている。
冒険者ギルドは明日でいっか。リリナの所に行って屋敷に帰ろう。
東門の門番さんに挨拶をして街の中に入る。
初見じゃない人はいいね。わたしの格好に驚かないし怪しまないし。
新しい街に行ったらまた同じような反応されるのかと思うと嫌になる。
普通の服を着てもいいんだけど、ゲームの頃からの愛着があるし防具として優れてるっぽいし、それに何より汚れないっていうのが良いよね。例え汚れたとしても清潔魔法でどんなしつこい汚れも落とせるんだけど。
何と言われようと、この巫女服は手放せない。
リリナの所に弁当の容器を返しに来た。
「弁当美味しかったよ。ありがとうリリナ」
「よかった。初めて作ったので不安だった」
サンドイッチだから、パンに挟むだけだから失敗しようがないと思うけど。
アレンジとかオリジナリティとかを出さなければ問題ない。
「ワーウルフに襲われるくらいの美味しさだったから、またお願いするね」
「分かった。……って、え? ワーウルフに襲われた!?」
「うん、多分リリナ弁当の美味しい匂いに釣られてきたのかな」
「ご、ごめんなさい……あたしのせいで、危険な目に合わせちゃった……」
なんでリリナが謝ってるんだろう。悪いのはワーウルフなのに。
「リリナが謝る必要ないよ。そもそもワーウルフにやられるような実力で冒険者になんてならないからね」
まぁちょっと危なかったけど、数の暴力ってやつは本当に卑怯な戦略だ。
それを蹴散らす範囲魔法も大分卑怯だと思うけど、それはそれ、これはこれ。魔法は全てが許されるのだ。
「でも、ワーウルフってCランクの魔物って聞いた。昨日なったばかりのしかも、あたしと歳が変わらない女の子が勝てるわけない。勇者さんにでも助けてもらった?」
「いやいや、ちゃんと自分で倒したよ。もし勇者が来たとしても、あんな美味しい肉、勇者に何か横取りさせないよ」
わたしの肉を取ろうだなんて、勇者でも魔王でも神様でも倒してみせる。食の恨みは強いのだ。
まぁ横取りされてないし会ってもいないし、そもそも本当に勇者とか魔王が居るのかすら知らないけどね。
リリナの言葉からしたら勇者は居るっぽい?
「信じられない……」
信じてくれなくてもいいけどさ。
別にリリナにわたし強いよアピールしても何の得もないし。
「ねぇ、リリナ。勇者って言ってたけど、勇者っているの?」
「ううん、今の時代には居ない。1000年に一度、現れて魔王と戦うって言われてる」
へー、1000年に一度は勇者居るんだ。
「魔王もいるんだね」
「魔王はここからずっと遠くの魔族領にいるって言われてる」
魔族領なんてのもあるのか。
人を襲うとかそういう事してくるのかな。まぁ遠くにいるって事だから大丈夫か。
どんな人達が魔族なのか会ってみたい気はするけど、触らぬ神に祟りなしだ。
自分から面倒事に突っ込むなんて事はしない。わたしは賢いからね。
「でも、勇者も魔王も噂程度の伝説物語」
「ほほー、なるほどねー。そんな物語があるのか」
そりゃそうか。勇者なんて1000年に一度だもんね。勇者が現れてから今が何年経ってるのか知らないけど、昔の事なんて噂とか伝説程度にしか伝わらないものだよね。
「獣人族は勇者と魔王の物語は知ってると思ってた」
正確には獣人じゃなくて妖怪らしいけどね。
そもそも獣人族出身じゃない。日本出身だ。いや、ゲーム出身かな。どうなんだろう。
「そんなに有名な物語なの?」
「勇者のパーティの1人に獣王がいる。だから獣人族も知ってると思ってた」
「そうなんだ。知らなかったよ」
知ってる訳ないんだけども。
それより獣王まで居るのか。勇者に獣王って、凄いPTだな。
普通は獣王じゃなくて獣王に選ばれた獣人族の強い若者とか、勇者と仲良くなって獣人族の誰かが付いていくことになるとかそういう感じじゃないのか。王自ら行くって凄いな。
勇者ってまぁ人だろうから、勇者はどっかの王に言われて魔王を倒すことになるのかな。災難だね、勇者。わたしはやりたくないよ。
「魔王って何か悪い事でもしてるの? 勇者に戦う事になるんでしょ?」
魔王って聞くと、悪いことしてるってイメージがあるけど、イメージだけで決めつけるのは良くない。
そりゃ悪いことしてるっていう実績があれば勇者に倒されても仕方ないって思うけどね。
「ううん、魔王は魔王。勇者に倒される為に存在するのが魔王」
めっちゃ理不尽な理由だ!
もしわたしが魔王ならそんな理由で勇者と戦いたくなんてないよ! 酷い物語だな!
「なんか魔王に同情したくなる物語だね……」
「そう? 魔王だしそういうものだと思う」
それがこの世界の常識なのかな。
わたしが生きてるうちにもし魔王に会えたら、魔王の味方でもしようかな……。
勇者が良い人だったら話し合って和解してもらおう。
まぁ、魔王に何て早々会えないだろうし、そもそも噂程度の物語だしね。
この世界の事はこの世界の人達に任せておけばいい。
わたしは魔法を極めるのに忙しいし、面倒事に巻き込まれるのも避けたいし、のんびり暮らせばそれでいい!




