1ー4 光と闇の対峙の先は
4章 光のセレナーデ
次の日の早朝、ルナは湖のほとりに立っていた。
闇の国でも光の国でもない狭間の場所
小さな頃からひとりだけの秘密だった場所
あの声が聞け、大好きだった場所…
歌を口ずさみながら
───光へ手を伸ばす
───かげりなき白き心
───女神たちの
───御加護を賜りて
───歌う星々
───太陽
───気高く、全て統べて
───闇の消えゆく暁
───世界は
──と、そこでふっつりと途切れた
まだあと一節あったものが思い出せない
そう、確か…と思い出そうとしていると、ふと誰かの影を感じた。
「何を…している?」
アリアの声がした
「歌っていました。」
ルナは答えた。
「この曲は、光の国に伝わる曲です。
『光のセレナーデ』そう習いました。」
そう言って後ろを振り向くと誰もいなかった。
ざあ、と風が通り過ぎて行くだけ。
あ……と思い出したように、ルナはまた歌を紡ぐ。
───世界は、終焉を告げる
言えなかった。
光だけでは生きていけない
けれど、闇だけでも生きていけない
私たちはお互いがいなければ生きては行かれないのです
───と。
アリアもまた、闇の国に伝わる歌を思い出していた。
そして彼も、同じことを言えなかった。
夫婦になったのに
一目見て恋に落ちた相手と結ばれたのに、距離が遠くなっていくことをアリアは感じていた。
──どうしてだろうか。
『あなたになら、わたしは、わたしをさらけ出せる気がします。』
そんなことを昨日の夜言われた。優しく、綺麗な声で。
他人行儀に見える、二人の今のところの精一杯で。
『今は違うとしても、きっとわたしはあなたに恋をします。
それが幾月かかろうと、来世になろうと。』
闇の国は闇だけで出来ていない。
朝になれば太陽は昇るし、夜になれば月が出る
それでもなぜ闇の国と呼ばれているのか、それは光の国があるから。
天上にある光の国があるから
天下にある国は闇の国。
だからこそ人には心がある。
人を愛せる感情がある。
「心のない、光の国…か」
それは遥か昔、心を持つ闇からみた光への囁き。
だからこそ光はこのエアリアルを統べている──のかもしれないとアリアは思っていた。
だが、それは間違いだった。
ルナには心がある。
少なくとも、自分を思ってくれる心が。
自分自身を慈しみ、相手を愛せる心を持っている。
光の王国の人間全てが今心を持っている。
「なら…闇の存在意義は何なのだろう…」
だからこそ、その慈愛にアリアは恋に落ちたのかもしれない。
どきどきして、不安にさせられて、でも上手く話せなくてもどかしい。アリアは、彼女との距離が分からなくて、困惑していた。
木陰の隅で王子は口ずさむ
「光のセレナーデ」と対になる歌を。
あの頃のように、純粋無垢で何も知らず、恋なんてものも知らなかったように。
──なつかしい
そう、思いながら。
天にある光の国と
地にある闇の国
光のセレナーデ
全てにおいて対をなす2つの国は混じり始めます。