管理番号31番:開放厳禁 ②
「……はぁ」
俺は目を覚ました。さて……これで何度目だろうか。俺は懐から紙切れを取り出す。
紙切れには「31」とだけ書かれている。それを俺は机の上に置く。
既に机の上に紙切れは30枚あった。それで俺はどうやら俺自身が既に丁度30回、生と死を繰り返していることを理解する。
結局、俺は未だに管理番号31番の部屋にまで到達できていない。死因は……様々だ。圧死、斬死、発狂死……いろいろだったし、覚えていない。
とにかく俺はいい加減死ぬのに飽きていた。しかし、相変わらずライナは現れない。
だから、俺の中である一つの思いつきが生まれていた。
この現象……というか、管理番号31番の暴走にはライナが関わっているのではないか、ということだ。
いくらなんでもここまで化物が野放しにされているのはおかしい。ライナはそれがわかっていて、あえて野放しにしているとしか考えられない。
となると……俺がやることは唯一つ。
「……ライナを見つけることか」
しかし、ライナがどこにいるのか……それは皆目見当がつかない。
その場合どうするか……とりあえず、この化物野放し状態の原因となっているのは、管理番号31番だ。そうなると、管理番号31番をどうにかするしかない。
「……よし。行くか」
俺はとりあえず部屋の中で身体を動かした。既に管理番号31番の保管部屋の前まで行く手順は覚えた。31回も死ねば気をつけなければならない部分はわかる。
保管部屋まで行くのに気をつけるのは2箇所……後はそれを実行するだけだ。
俺は扉の取っ手に手をかける。そして、ゆっくりと開いた。
廊下は……静かだ。しかし、既に俺にはやることがわかっている。
まずは、床に落ちている紙切れを確認する。紙切れには「31」と書かれている。おそらく、これが31枚目の紙切れだ。
それと同時に俺は振り返る。廊下の先には何もいない。しかし、確実にいるのだ。
最初に俺を殺したやたら細長い、腕が鎌状の化物は、詳しいことはわからないが、俺がヤツの方に振り向いている間は俺の方に近づくことができないようだった。
しかし、やつが俺の直ぐ側まで来てしまうと、それこそ「おわり」だ。
だから、ここからは定期的に後ろを振り返りながら、保管部屋まで走る。俺は何度も執拗に振り返りながら、左に曲がるところまでやってきた。
ここを曲がると、振り返ることはできない。振り返ればその先に黒いドレスの女がいる。
奴を視界にいれた瞬間、俺は発狂する。そして、女にまるで許しを乞うように床に何度も頭を打ち付ける。
頭蓋骨が砕け、脳みそが飛び出ても俺は頭を打ち付けていた。それこそ、完全に死亡するまで。
よって、ここから先は振り返ることができない。だから、ここからは……あの鎌の化物が早いか、俺が早いかの勝負だ。
俺は気持ちを落ち着けさせてから、一気に右に曲がった。そして、全速力で走る。
「ねぇ、こっちを見てよ」
聞こえるはずのない声が聞こえてくる。声を聞いているだけで発狂してしまいそうだ。
勝手に涙が溢れてくる。しかし、振り返ってはいけない。
そして、俺は全速力で走り、管理番号31番の保管部屋の前で止ま……らない。
俺は1つ目の管理番号31番の部屋はスルーした。
それは、擬態だからだ。
扉に見えるが、それは、黒い水のような化物が擬態しているのだ。よって、扉に触れた瞬間、化物に飲み込まれ、一瞬にして骨まで溶かされる。
擬態の扉をスルーすると、そのさらに前方に……本物の管理番号31番の部屋が見えてきた。しかし、ここで問題が起きる。
「ウォォォォォ!」
本能的に恐怖を感じさせるような地獄の怒声が聞こえてくる。ここまでくれば女は視界に入らないので振り返っていい。
振り返ると……燃え盛る炎が俺に向かって迫ってくる。これは最初に見た炎を纏った人型の化物だ。
奴は自在に形を変えることができる上に、その炎はすべてを焼き尽くす。よって、この時点で鎌の腕の化物、黒いドレスの女、水のような化物もすべて焼き尽くされている。
俺は走った。ここからは……未知の領域だ。炎から逃げるのに既に10回以上は失敗して、黒焦げになっている。
これ以上は嫌だ……これ以上繰り返せば、本当に発狂する……俺はそう考えながら全力で走った。
そして、管理番号31番の扉の前に到達する。それと同時に扉を開く。炎は直ぐ側まで迫っている。
俺は扉の中に飛び込んだ。そして、それ同時に扉を閉め、それを思いっきり身体全体を使って、閉じた。
「……はぁ……はぁ……やった……できた……」
俺は扉に寄りかかりながら、そのまま座り込んでしまった。それから、今一度部屋を見回す。
部屋の中央には……扉があった。扉だけが不思議なことに直立しているのだ。
扉は開いていて、その向こうは……なぜか真っ暗だった。
その扉から少し離れた場所、部屋の隅で座り込んでいる人影がある。俺は思わず大きくため息を付いてしまった。
「……で、一体何がどうなってるんだよ、ライナ」
いつもよりも数倍不機嫌そうな表情で、ライナ・グッドウィッチは部屋の隅で座り込んでいたのだった。




