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禁忌倉庫の管理記録  作者: 松戸京
管理番号1~10
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管理番号3番:影友達 ②

「……はぁ」


 俺は大きくため息を付いてしまった。既に俺は白骨死体のある部屋……管理番号3番の部屋に数時間程居座っている。


 俺の影は……相変わらず勝手に動いている。手を振ったり、ジャンプしたり……当の本人である俺はずっと座りっぱなしだっていうのに、随分と自由に動いている。


「……いいねぇ。お前は気楽で」


 俺がそう言っても影は勝手に動いている。なんというか……羨ましいというか、段々と俺は自分の影に愛着を持ってきてしまった。


 まるで小動物に対する愛着のような……奇妙な感情が俺に芽生え始めていた。


『管理番号1番。調子はどうですか?』


 ライナの声が耳元から聞こえてきた。


「……変わらないよ。影の奴は元気そうだよ」


『……そうですか。他に変化は?』


「う~ん……ふわぁ……そうだな。特にないけど……眠いな。眠くなってきた」


 俺が大きな欠伸をしながらそう言うと、ライナは黙った。そういえば、俺は眠ると死ぬんだったか……未だに信じられない話だが。


『……それは少し不味い状況ですね』


「え……なんで?」


『管理番号1番。アナタの特異性から考えると……アナタが眠った場合、管理番号3番をその部屋から開放してしまう可能性があります。無論、かなり低い可能性ですが……』


「はぁ? なんで?」


 しかし、ライナは答えなかった。その代わりに大きくため息が聞こえてきた。


『……わかりました。少し待っていて下さい』


 ライナの声が聞こえなくなった。影は相変わらず動いているが……確かに眠い。


 そういえば、ここに来る前は俺は規則正しい生活を送っていたからな……徹也や夜更かしなんてことはしたことがない。


 自然と……眠くなるのだ。それこそ、それが俺の性質のように。


 段々と瞼が重くなってくる。しかし……ライナは何を心配している? 俺が眠るとどうなるっていうんだ? 


 別にここで眠るならば、それがどうして……どうして管理番号3番……俺の影を解放することにつながるっていうのか?


「管理番号1番」


 と、分厚い鉄の扉が開いてライナが現れた。


「あ、ああ……ライナ。来たのか」


「今からアナタにあるものを投げつけます。受け取って下さい」


 俺がそう言うとライナは何かを俺に投げてきた


 俺は眠いながらもなんとか、それを受け止めた。小さい何か……それは小さな猫のオブジェクトだった。


「へへ……プレゼントか?」


「違います。それを手に持ったまま……眠って下さい」


 ライナが真剣な表情でそう言った。意味がわからなかったが……どうやら、ようやく眠っていいらしい。


「……手に握っていれば良いんだな?」


「ええ。そうです」


 ライナに確認してから俺は小さな猫のオブジェクトを握りしめる。


 俺はライナを見る。まだ……部屋からは出ていかないようである。


「……なんで部屋から出てかないんだ?」


 俺がそう訊ねてもライナは扉の所に立ったままで何も言わない……回答拒否、ということか。


 でも……眠って良いのならば眠ってしまうか。俺は今一度自分の影を見る。


 影は……手を振っている。まるで俺に別れを言うように。


「……いいなぁ。お前は自由で」


 俺はそう言いながら目を閉じる。そして、ゆっくりと意識が遠のいていく。


「お疲れ様です。管理番号1番。これで管理番号3番への点検行為は終了です」


 俺を労うライナの声を遠くに聞きながら……俺はゆっくりと眠りについた。

点検結果:管理者報告


管理番号1番:管理番号3番との接触による障害、問題等は確認できず。


管理番号3番の危険度判定:軽度


理由:接触した管理番号1番にも何の問題も確認できず。管理番号1番曰く「もっとアイツの動いているところを見ていたかった」というコメントのみ。


補足:管理番号3番と接触中の管理番号1番に、小さな猫のオブジェクトを投げて寄越した。その後、管理番号1番は睡眠に入る。


睡眠に入ると同時に、管理番号1番は管理者の目の前で完全に消失。それと同時に猫のオブジェクトのみが管理番号3番の部屋の中に残る。管理者はその後、管理番号1番の保管部屋へ。


ベッドの上に管理番号1番が存在しているのを確認。翌日、管理番号1番の影を観察するが、自我を持っている気配はなし。


管理番号1番も「もう動いていない」と証言。管理者の判断としては、管理番号3番の特異性から考えるに、管理番号3番は現在、管理部屋にて「猫のオブジェクトの影」として存在していると考えられる。

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