管理番号3番:影友達 ②
「……はぁ」
俺は大きくため息を付いてしまった。既に俺は白骨死体のある部屋……管理番号3番の部屋に数時間程居座っている。
俺の影は……相変わらず勝手に動いている。手を振ったり、ジャンプしたり……当の本人である俺はずっと座りっぱなしだっていうのに、随分と自由に動いている。
「……いいねぇ。お前は気楽で」
俺がそう言っても影は勝手に動いている。なんというか……羨ましいというか、段々と俺は自分の影に愛着を持ってきてしまった。
まるで小動物に対する愛着のような……奇妙な感情が俺に芽生え始めていた。
『管理番号1番。調子はどうですか?』
ライナの声が耳元から聞こえてきた。
「……変わらないよ。影の奴は元気そうだよ」
『……そうですか。他に変化は?』
「う~ん……ふわぁ……そうだな。特にないけど……眠いな。眠くなってきた」
俺が大きな欠伸をしながらそう言うと、ライナは黙った。そういえば、俺は眠ると死ぬんだったか……未だに信じられない話だが。
『……それは少し不味い状況ですね』
「え……なんで?」
『管理番号1番。アナタの特異性から考えると……アナタが眠った場合、管理番号3番をその部屋から開放してしまう可能性があります。無論、かなり低い可能性ですが……』
「はぁ? なんで?」
しかし、ライナは答えなかった。その代わりに大きくため息が聞こえてきた。
『……わかりました。少し待っていて下さい』
ライナの声が聞こえなくなった。影は相変わらず動いているが……確かに眠い。
そういえば、ここに来る前は俺は規則正しい生活を送っていたからな……徹也や夜更かしなんてことはしたことがない。
自然と……眠くなるのだ。それこそ、それが俺の性質のように。
段々と瞼が重くなってくる。しかし……ライナは何を心配している? 俺が眠るとどうなるっていうんだ?
別にここで眠るならば、それがどうして……どうして管理番号3番……俺の影を解放することにつながるっていうのか?
「管理番号1番」
と、分厚い鉄の扉が開いてライナが現れた。
「あ、ああ……ライナ。来たのか」
「今からアナタにあるものを投げつけます。受け取って下さい」
俺がそう言うとライナは何かを俺に投げてきた
俺は眠いながらもなんとか、それを受け止めた。小さい何か……それは小さな猫のオブジェクトだった。
「へへ……プレゼントか?」
「違います。それを手に持ったまま……眠って下さい」
ライナが真剣な表情でそう言った。意味がわからなかったが……どうやら、ようやく眠っていいらしい。
「……手に握っていれば良いんだな?」
「ええ。そうです」
ライナに確認してから俺は小さな猫のオブジェクトを握りしめる。
俺はライナを見る。まだ……部屋からは出ていかないようである。
「……なんで部屋から出てかないんだ?」
俺がそう訊ねてもライナは扉の所に立ったままで何も言わない……回答拒否、ということか。
でも……眠って良いのならば眠ってしまうか。俺は今一度自分の影を見る。
影は……手を振っている。まるで俺に別れを言うように。
「……いいなぁ。お前は自由で」
俺はそう言いながら目を閉じる。そして、ゆっくりと意識が遠のいていく。
「お疲れ様です。管理番号1番。これで管理番号3番への点検行為は終了です」
俺を労うライナの声を遠くに聞きながら……俺はゆっくりと眠りについた。
点検結果:管理者報告
管理番号1番:管理番号3番との接触による障害、問題等は確認できず。
管理番号3番の危険度判定:軽度
理由:接触した管理番号1番にも何の問題も確認できず。管理番号1番曰く「もっとアイツの動いているところを見ていたかった」というコメントのみ。
補足:管理番号3番と接触中の管理番号1番に、小さな猫のオブジェクトを投げて寄越した。その後、管理番号1番は睡眠に入る。
睡眠に入ると同時に、管理番号1番は管理者の目の前で完全に消失。それと同時に猫のオブジェクトのみが管理番号3番の部屋の中に残る。管理者はその後、管理番号1番の保管部屋へ。
ベッドの上に管理番号1番が存在しているのを確認。翌日、管理番号1番の影を観察するが、自我を持っている気配はなし。
管理番号1番も「もう動いていない」と証言。管理者の判断としては、管理番号3番の特異性から考えるに、管理番号3番は現在、管理部屋にて「猫のオブジェクトの影」として存在していると考えられる。