管理番号30番:写し鏡 ②
それからというもの、俺はものすごく大変だった。
ひたすらに今までと同じような点検行為の繰り返し……流石に精神が病んできてしまった。
それが一旦休めたのは……管理番号14番の点検行為の時だった。
「ちょっと……信者1号、大丈夫?」
心配そうな顔でそういう女神様。俺は小さく頷いた。
「……いえ。ちょっと辛いですね」
俺がそう言うと、女神様も哀しそうな顔をする。
「あの女……酷いことするわね」
俺は今まであったことを全て女神様に話していた。女神様は最初、自分の信者である(と思っている)俺がそんな扱いを受けていることに関して怒るかと思ったが……むしろ悲しんでいるようだった。
「……女神様、怒らないんですか?」
俺がそう言うと管理番号14番は少し困ったような顔をしていた。
「そうねぇ……少し、変だと思うの」
「は? 変?」
「ええ。だって、アイツはアンタに対してそんなに酷い事を今までやってこなかったのに……急にそんな酷いことをするなんて……まるで人が変わったみたい」
「人が……変わった……」
俺は今一度言葉を繰り返す。思い返せば……管理番号30番の点検行為以来だ。ライナの様子がおかしくなったのは。
だとすれば、管理番号30番が全ての原因……しかし、あの姿見にどういう原因が……
『管理番号1番。管理番号14番の点検行為は現在を以て終了します』
と、急に耳元でそんなライナの声が聞こえてきた。俺は管理番号14番の方を見る。
「……じゃあ、女神様。行ってくるね」
「あ……本当に、大丈夫?」
俺は小さく頷いて、そのまま管理番号14番の部屋を出る。部屋の外にはライナが憮然とした表情で待っていた。
「では、続いて管理番号15番の点検行為を――」
「管理番号30番の点検行為、先にやりたいんだけどな」
俺がそう言うとライナは一瞬怪訝そうな顔をして俺を見たが、すぐに無表情に戻って俺を見る。
「……その理由はなんですか?」
「お前が俺に再度点検行為をさせている理由……それは管理番号30番が影響していると思うからだ」
俺がそう言うと、ライナは不敵に微笑む……やはり、変だ。
「管理番号30番が影響している……具体的にはどういう感じで?」
「え……そ、それは……そのお前がそれこそ……なんかちょっと……違う人になったみたいで……」
俺がそう言うとライナは目を丸くしてから小さく溜息をつく。
「結構。それなりにかかりましたが、合格です。しかし、予想よりかかりましたね。この体の持ち主はアナタとそれなりの付き合いなのでしょう?」
「……は? え……ど、どういうこと?」
俺がそう言うと、ライナは、ライナとは思えないほどの満面の笑みをでニッコリと微笑む。
「私、ライナ・グッドウィッチではありませんよ。私は管理番号30番。ライナは私の中に閉じ込めています」
そう言って、平然とライナ……ではなく、管理番号30番はそう言ったのだった。




