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禁忌倉庫の管理記録  作者: 松戸京
管理番号21~30
71/80

管理番号30番:写し鏡 ①

管理番号30番・簡易名称:写し鏡

概要:管理番号30番は特異性のない姿見に見えます。管理番号30番の前に立った対象者は、鏡の中の未知の存在と入れ替わります。入れ替わった存在は、入れ替わる前の対象者の立場にふさわしい行動をとり、出来る限り似た行動を取ります。未知の存在が入れ替わっていることを看破した上で再度鏡の前に立たせることで、対象者を元に戻すことができます。点検行為では、管理者が点検行為後の後、元に戻れることを十分に確認した上で点検行為を実施するようにしてください。

 その日も、俺とライナは保管部屋の中に一緒に入っていった。心なしか、ライナは少し緊張しているような気がした。


「えっと……ライナ? 大丈夫?」


 俺がそう訊ねると、ライナは不安そうな目つきのままで俺を見る。


「……ええ。大丈夫です」


 どう見ても大丈夫ではなさそうだったが……ライナがそう言うのならば俺は何も言えなかった。


 それから俺とライナはいつものように保管部屋の扉の前に立つ。


「……今日は、ここか」


「……アレン」


 と、ふいに名前を呼ばれて俺は驚く。


「え……何?」


 俺が驚いていると、ライナは俺の方を真剣な目つきで見る。


「……アナタは、私のことを、知っていますよね?」


「え……あ、ああ。まぁ……それなりには」


「……です……よね。大丈夫……ですよね」


 ライナはまるで自分に言い聞かせるようにそう言ってから、そのまま扉を開けた。なんだか変だ……何か言いたそうなんだが……


 俺は黙ってそのままライナに付いて行く。保管部屋の中には、鏡……俺の背丈くらいに姿見があった。


「……アレが今回の危険存在か」


 俺がそう言って、鏡の方に近付こうとする……その時だった。


「ま、待って下さい!」


 ライナが慌てて俺を呼び止める。俺は思わず立ち止まった。


「え……何?」


 俺が振り返ると、ライナは俺より先に姿見に近づいていった。


 そして、そのまま姿見の前に立つ。


 ライナは姿見の前に立ったまま、しばらく黙ったままだった。俺は不思議に思ってライナの方に近づいていく。


「え……どうしたの?」


 俺が話しかけると、ライナは俺の方に振り向く。その視線は……とても冷たかった。


「いえ。なんでもありません。今日の点検行為はこれで終わりです」


「え……あ、ああ……そうなの」


 なんだか……変だった。ライナの様子も何か違和感があるが……


「ああ。それより、管理番号1番。明日からの点検行為ですが、今一度2番から28番までの点検行為を再度行っても良いですか?」


「え……え!? ま、また?」


「はい。今までの点検行為に間違いがなかったか、再度確認したいのです」


 ライナは……真剣な顔で言っているようだった。それはつまり……俺にもう一度酷い目に遭えと言っているようなものである。


「え、えっと……ライナ、怒ってる?」


「はい? なぜそう思うのです?」


 ……何かが変だ。ライナは感情があまりはっきりしない。しかし……なんというか、あまりにも冷徹すぎるというか……


「とにかく、明日から再度点検開始です。私はこの施設の管理者ですので」


 ライナは俺が取り付く島もないほどに冷淡にそう言うと、そのまま俺を残して去っていってしまったのだった。

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