管理番号29番:堕女神 ①
管理番号29番・簡易名称:堕女神
概要:管理番号29番はかつて北部共和国の小さな町で「安らぎの女神」として崇められていた少女です。管理番号29番の点検行為の際には管理者は管理番号29番の1メートル以内に侵入しないで下さい。管理番号29番の1メートル以内に侵入した場合は、その特殊性に影響されます。点検行為ではその特殊性の実態を解明するために対象を管理番号29番と接触させてください。また、管理番号29番と接触した対象は、管理番号29番の特殊性の影響下に置かれるので、接触には十分注意して下さい。なお、管理番号29番が住んでいた町ではその大半の住人が彼女の影響下に置かれていました。
「では、入って下さい」
ライナはいつも通りに俺にそう言った。俺は何も言わずにそのまま扉を開け、部屋の中に入っていく。
「あら。どうも」
部屋の中には……人が居た。
女性だった。白い髪に、白い服……優しい笑顔の、とても神秘的な雰囲気の女性だ。
「あ……どうも」
「フフッ。ずっと暇だったんですよ。アナタもここに?」
初めて会うのに、なんだかずっと昔からの知り合いのようだった。俺は自然と女性の側に近寄っていった。
「え……ええ。まぁ」
「それにしても……ここはどこなんですか? アナタは知っていますか?」
「え……まぁ……俺もよくわからないんですけど……」
正直俺は彼女よりかは知っているんだろうけど……嘘は言っていなかった。
それに、彼女も俺がそう言うと「そうですか」と言って、それ以上先を聞こうとしなかった。
暫くの間、彼女と俺はずっと見つめ合っていた。その時間は……とても落着いた。彼女はただ微笑んでいるだけだったが、俺は安心した。
「大丈夫ですか?」
「……え?」
と、不意に彼女が俺にそんなことを聞いてきた。
彼女は少し不安そうな顔で俺を見る。
「だって……少し、疲れている感じですよ?」
そういって、彼女は俺の頭に手を伸ばし……頭を撫でてくれた。
「大丈夫ですよ。辛かったら、ずっとここにいて」
優しい笑顔でそう言う。そう言われると……俺は本当にずっとそこにいたかった。
ただそうしてもらっているだけで、どれくらい時間が経っただろうか。
『管理番号1番。点検行為は終了です。部屋から出て下さい』
ライナの声……俺は部屋から出ていくたくなかった。しかし、彼女は俺の気持ちを察したようだった。
「……残念ですけど、時間ですね。また来れますよ。ですから」
そういって、彼女は哀しそうな笑顔を作る。
俺は申し訳なさそうに頭を下げてから、部屋を出る。
部屋を出ると、ライナが立っていた。俺はライナにすぐに話しかける。
「ライナ! えっと……明日も、ここに来ていいか?」
「え……あ……し、仕方ありませんね。いいですよ」
……てっきりライナはダメだと言うと思っていた。しかし、ライナも困り顔で俺にそう言ってくれた。
まぁ……それもそうか。彼女に会うためだ。これくらいは許してくれるだろう。
それに、ライナも彼女に会えばきっと、もっと、俺の感情を理解してくれるだろう。
「あ……ありがとう!」
俺はそう思いながらライナに感謝したのだった。




