管理番号28番:後悔室 ②
ライナは少し戸惑っていたが……やがて諦めたかのように椅子に座った。
「フフッ……後悔していますよね? アナタは」
渋い声は嬉しそうにライナに語りかける。ライナは答えない。
「まず、アナタは自分の出自を後悔している。そして、今の自分の立場、自分の仕事も……自分が居るこの場所に対しても後悔している」
「……黙りなさい」
ライナは小さくそう言った。俺は黙って壁がライナに語りかける言葉を聞いている。
「そして、毎回の点検行為でも後悔している。管理番号1番、アレン・アークライトに対する非道な行為……毎回の点検行為が終わる度、アナタは毎晩、後悔で眠れないほどだ」
「……黙りなさい!」
ライナは立ち上がって叫んだ。俺はライナがそんな感じで感情を顕にする事自体珍しかったので、思わず驚いてしまった。
「まぁまぁ。そう怒らないで下さい。人間誰でも後悔するものです。アナタも魔術師である前に人間……後悔するのは当然です」
「だったら……私にどうしろと……言うのですか……」
ライナはそう言って、椅子に再び座り込んでしまった。
そして、そのまま両手で顔を覆っている。
「簡単です。後悔して下さい。この部屋を出ても。永遠に」
壁の向こうの声が嬉しそうにそう言うと同時に、壁に扉が現れた。
「……ライナ、行こう」
俺はライナに肩を貸してやる。そして、そのまま扉を出ることにした。
「アレン・アークライト。アナタも後悔してますね。良いことです」
「……あ?」
俺は振り返る。壁の向こうで男の声が嬉しそうに笑っている。
「自分が部屋に入る前に、なぜ、ライナを一緒に入らせてしまったのだろう……自分一人で入ればライナがこんな思いをしなくてすんだろうに、と……」
俺は怒りの感情を抑えながら壁をにらみつける。相手をしても無駄だ……そう思って、そのまま扉の手の取っ手に手をかける。
「大丈夫ですよ。もし、アナタ一人で部屋に入ったならば……アナタが聞いて後悔するような話を、私が教えてあげますから。特に……ライナ・グッドウィッチに関する話を、ね」
「……なんだと?」
俺は今一度振り返る。その時だった。
「……アレン。もう……出ましょう」
既に限界だと言わんばかりにライナがそう言った。壁の向こうの男が言う言葉は気になったが……俺は部屋を出ることにした。
壁の向こうで男が1人で気味悪く笑う声だけが、俺の耳にこびりついていたのだった。
点検結果:管理者報告
管理番号28番の危険度判定:重度
理由:当初、管理番号1番のみが点検行為を担当するはずだったが、管理者も点検行為に参加。精神的苦痛を味わうことになった。しかし、管理者は点検行為の直前まで点検行為に参加するつもりはなかった。よって、管理者の精神に影響を及ぼしたのは管理番号28番の特殊性が原因と考える。今後は、管理番号28番の保管に特殊な魔術を施行する必要があると報告する。なお、管理番号28番の特殊性は、後悔を持つ者の精神に大きな負担を与える、というものと考える。




