管理番号28番:後悔室 ①
管理番号28番・簡易名称:後悔室
概要:管理番号28番は、不明な場所に存在する部屋です。部屋は小さなものであり、壁を挟んで何者かが向こうにいることが確認できます。管理番号28番は元々は古びた教会に存在する一室でしたが、組合が管理するために、空間転移魔術によって、保管部屋に一時的に場所を移しています。点検行為では管理番号28番に侵入した際にどのような変化が起きるのか確認して下さい。
「今日は一緒にこの部屋の中に入ります」
ライナが俺にそう言う。俺は珍しいことだったので、少し驚いた。
「え……大丈夫なのか?」
「ええ。報告書では、管理番号28番はそこまで驚異的な特殊性を持っているわけではないというので」
少し不安を感じたが……ライナに言われるままに、俺はそのまま扉を開けると……不思議な光景が目の前に広がる。
「……これ、どこかへの部屋?」
俺がそう言うと、ライナは小さく頷く。そこは……小さな部屋だった。
薄暗く、ただ、椅子があるだけ……そして、壁には、のぞき穴のような、小さな穴が開いている。
「なんだこれ……よくわからないな」
「とにかく、椅子に座って下さい。私は見ているので」
俺はライナに言われるままに椅子に腰掛けた。
「ようこそ」
その瞬間、壁の向こうから声が聞こえてきた。重々しく、響く男性の声だった。
俺はライナの方に振り返る。
「……ええ。私にも聞こえました」
ライナにも聞こえたらしい。オレは今一度壁の方に注意を向ける。
「……えっと、アンタは?」
「私はアナタの後悔を聞くものです。アナタ、後悔するものはありますか?」
「え……後悔?」
意味がわからなかった。後悔……何か言うことなんてあっただろうか。
「ええ、わかっています。言いたくないのですよね?」
「え……いや、っていうか、わからないんだけど……」
「そうですか? アナタは後悔しているのでしょう? こんな場所に来てしまったことを」
「こんな場所って?」
「それはもちろん、この禁忌倉庫のことです」
俺はライナの顔を見る。ライナは少し顔をしかめていた。
そう言われても……後悔も何もない。気付いたときにはここにいたのだ。
「……アンタはここのことを知っているのか?」
「フフッ。ええ。知らなければアナタの後悔を聞くことが出来ないでしょう?」
「……アンタは魔術師なのか?」
「違います。私はアナタの後悔を聞くものです。それ以外の何者でもありません」
俺が困惑していると、ライナが俺の肩を叩く。
「管理番号1番。私に代わって下さい」
言われるままに、俺は立ち上がり、ライナに椅子を譲った。
「おお! アナタはわかりやすいですね。後悔をしたくてたまらないという感じだ!」
壁の向こうの声が元気になった。なんだか、俺の時とは大分反応が異なっている。
「……禁忌倉庫のことは機密事項です。なぜ……アナタはそれを知っているのですか?」
「そんなことはどうでも良いことです。ライナ・グッドウィッチ……いえ。名も無き哀れな少女よ」
声がそんな訳のわからないことを言った。ライナの方を見ると……青ざめて震えている。
「……ライナ? 大丈夫か?」
「……出ましょう。管理番号1番。これ以上、ここにいたくない」
そう言って、ライナは立ち上がる。そのまま扉の方に向かおうとしたが……
「え……?」
思わず驚いてしまった。扉が……ないのである。
「え……これって……つまり……」
「ええ。後悔が終わらなければ、この部屋から出すことは出来ませんね」
壁の向こうの声が嬉しそうにそう言う。ライナと俺は恐怖したままでお互い顔を見合わせたのだった。




