管理番号25番:絶望の吹き溜まり ①
管理番号25番・簡易名称:絶望の吹き溜まり
概要:管理番号25番は闇が支配する一定の空間です。
管理番号25番の領域に侵入した瞬間、対象者は激しい鬱症状に見舞われます。そして、その5分後には幻覚を見るようになります。幻覚は総じて対象者の感情を激しく落ち込ませるものとされています。管理番号25番の領域に30分以上いると、未知の原理で管理番号25番の領域から脱出することが不可能となります。ただし、対象者が自らの意思で脱出することは唯一可能な方法とされています。
「管理番号1番。よく聞いて下さい」
と、その日の点検行為の時間、ライナは何時になく真剣な顔で俺のことを見る。
「ああ。なんだ?」
「今回の危険存在はそれなりに危険です。おそらく、アナタは精神的に大きなダメージを受けるでしょう」
……点検行為前からこんなことを言うということは……相当キツい点検になるということだ。段々と俺も理解できるようになってきた。
「……なるほど。で、俺はどうすればいいんだ?」
「一つだけ覚えておいて下さい。今からアナタが点検する危険存在が起こす事象は全てまやかしです。私がアナタに呼びかける声だけが現実であると」
「それだけって……それを覚えていろって?」
俺がそう訊ねると、ライナが小さくうなずく。意味がよくわからないが……まぁ、覚えておいた方がいいのだろう。
「……わかったよ。さっさと始めようぜ」
「本当に、気をつけてくださいね」
ライナがいつもの無表情でそう言う。大体気をつけていない点検行為などないのだから、今更な言葉のような気もしなくもない。
「では。お気をつけて」
ライナはそう言って扉を開ける。扉の先は……真っ暗だった。
「え……この先?」
俺がそう訊ねると、ライナはそううなずく。俺は嫌な予感を感じながらも……とりあえず進むことにした。
「うっ」
扉が閉まって、部屋に入った瞬間声が出てしまった。その場所は、信じられない程……気分が悪くなる。
『大丈夫ですか? 管理番号1番』
「え……あ、ああ……」
なんというか……最悪な気分だった。まるで二日酔いと、寝不足が同時に襲ってきたような……それでいてとても悲しい気分だった。
「ライナ。俺は……どうすればいいんだ?」
『はい。とりあえずその場で待機で……他に変化は?』
「え……あ、ああ。とにかく、最悪な気分だ……ん?」
俺はふと、暗闇の向こうに何かを発見した。俺はそれに近づいていく。
『どうしました? 何か発見しましたか?』
ライナの問いかけは無視しながら、俺は発見したなにかに近づいていく。
それは……何かが上から垂れ下がっている様子だった。何かが吊り下がっているような……
「あ」
俺はそれがなにか理解した。それと同時に……その場で膝から崩れ落ちた。
『どうしました? 管理番号1番?』
「そ、そんな……ライナ……どうして……」
思わずそんな言葉が出てしまった。なぜなら……俺が発見したのは首吊り死体だった。
そして、その首を吊っている人物というのが……
「……ライナ」
信じられないことだが……ライナだったのだ。
俺はその時理解した。ライナは死んでしまったのだと。それと同時に、信じられないほどの絶望が、俺の胸に深く入り込んできたのだった。
『管理番号1番? 大丈夫ですか?』
俺は耳を塞ぐ……幻聴だ。ライナの幻聴……
「ライナ……やめてくれ……」
そのまま俺はうずくまり、その場で座り込んでしまったのだった。




