管理番号2番:何もない宝箱 ③
『聞こえていますか? 管理番号1番』
ライナの声が聞こえてくる。
正直……どうでもいい。耳障りな声だ。
『いいですか? 許可できる点検行為は一度だけです。もし、命令を違反した場合は措置をとらせていただきます』
「あ、ああ……わかっている」
俺はそう言いながらも、既に宝箱の方に進んでいく。
ある……絶対に中身はある。俺がもう一度確認すればきっとあるに決まっている……
俺は宝箱の前に立って、ゆっくりと跪いた。
『では……点検行為を実施して下さい』
言われるままに俺は宝箱の蓋の部分を持つ、そして、ゆっくりと宝箱を開く。
……ない。
ない。ないじゃないか。
「……ない」
『……何もありませんか?』
おかしい……なんでない?
あるはずじゃないか。いや、あったのだ。
俺は今一度宝箱を素早く閉め、今一度開けた。
『管理番号1番。やめなさい。命令違反です』
ない。ない。ない……あり得ない。あったんだ。ここには間違いなく。
俺は今一度閉める。開く。ない。
開く。
ない。
閉める。
ない……
『管理番号1番! やめなさい! 命令違反です! 措置を実行しますよ!』
女の震えた声……関係ない。
あるはずなんだ。あるはず……
「ああ……そうか」
『え……ど、どうしましたか? 管理番号1番』
そうだ。ある、じゃない……あった、のだ。
俺は宝箱を開く。そして……身体を宝箱の中にしまうことにした。
ないのでない。あるのだ。たからは。俺が宝箱の中にあればいいのだから。
『な……何をしているのですか! 管理番号1番! やめなさい! いや……そんな……!』
バキッ。ゴキッ。
骨が折れる音。
狭いな……俺の身体が……箱の中に全部入って……
グチャッ
ふたが、しまった。
ああ、あるじゃないか。たからばこのなかには、おれが、ある。
○点検結果:管理者報告
管理番号1番:宝箱の内部に身体を無理矢理折り曲げて入り、出血及び全身骨折により死亡。
管理番号2番の危険度判定:中度
理由:管理番号は隔離し、人間との接触を避けることで、危険存在としての脅威は薄れると考えるため。
○補足
管理者の精神的動揺により、管理番号2番の保管部屋には行けず。
6時間後、管理番号1番の保管部屋に管理者が向かうと、管理番号1番はベッドの上で就寝中であった。
まったくの健康体。起こして何があったか問いただすが「部屋の中に宝箱があった」という記憶しか存在せず、自殺に至った記憶は完全に抹消されており、宝箱への執着も消失していた。
また、管理者が管理番号2番の保管部屋を外部から観察したが、管理番号1番の死体、もしくは血痕などは確認できなかった。