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禁忌倉庫の管理記録  作者: 松戸京
管理番号21~30
58/80

管理番号23番:傲慢と慈悲

管理番号23番・簡易名称:慈悲と傲慢

概要:管理番号23番は双子の姉妹です。倉庫に収容される以前は、既に廃墟となった教会で暮らしていました。姉は23a、妹は23bと呼称します。

管理番号23番が暮らしていた教会では以前は「奇跡の力を持った聖女」の噂が立ち、多くの人間が足を運んでいましたが、数年前からその力が消滅したために、教会には人がたちよらなくなったと言います。(報告ではいかなる傷も治癒することが出来た、とされています)

 点検行為では管理番号23番にそのような能力があるのかを点検してください。その際、管理番号1番を故意に殺傷する事は問題としません。

「では、点検行為を始めます」


 ライナはそう言って俺のことを見る。いつも通り……俺もそう思っていた。


「で……今日はどんな奴なんだ?」


「それは部屋に入ってから確認します。その前に申し訳ありませんが、アナタには少し痛い思いをしてもらいます」


「え? なにそれ? どういう意味……うぐっ……」


 俺が言い終わる間もなく……俺の腹には何か鈍い衝撃があった。俺はゆっくりと自分の腹を見る。


 俺の腹部には、明らかにナイフが……しかも、ライナがそれを突き刺していた。


「はぁ……一体どういうつもりで……」


「では、点検行為を始めます」


 そういって、ライナは俺の腹からナイフを抜き、扉を開く。


 なるほど……今回もどうも、ろくでもない点検行為のようである。


 俺はライナを睨みつけながら、部屋の中に入る。すると……部屋の中には修道服姿の二人の少女が立っていた。


 一人は長い金髪、もう一人は短い金髪で……顔が完全に同じ点から二人は双子のようだった。


 ライナが扉を閉める。それと同時に、少女の一人が駆け寄ってくる。


「だ、大丈夫ですか?」


 女の子は心配そうな顔でそういう。俺は傷口を抑えながら、座り込んだ。


「いや……結構キツい」


 ライナは的確に俺の腹を突き刺したようだ。血が止まらない。


「大丈夫です。今……私が傷を癒やします」


 そういって女の子は、血が溢れる俺の幹部に向けて手のひらを向ける。


 しかし……特に何も起こらない。


「お願い……もう一度だけでも……」


 女の子は焦るように、顔をしかめてそれでも手をかざしている。


「姉さん、もうそんなことできないってこと、忘れたの?」


 と、先程から俺と少女のことを傍観しているもうひとりの少女がそう言った。


 俺の近くに居る少女はそんな言葉を無視しながら、必死に祈るように俺の患部に手をかざす。


 なんだか……見ていて申し訳なくなってきた。


 どうせ、俺は死んでも蘇生する。それならば、こんな苦労をこの子にさせなくても……


「だ、大丈夫だ……もう、やらなくていい」


 俺がそう言うと女の子は絶望した顔で俺を見る。


 その後、目の端に涙を一杯貯めながら、俺の前でひれ伏した。


「ごめんなさい……私……何も出来なくて……ごめんなさい……」


 何度も何度も、それこそ、地面に頭を打ち付けるように女の子は謝っている。


 それを見ているこっちが申し訳なくなってくる。


「いや、いいんだ……だから、もう……」


 少女は地面に頭を付けたまま、動かない。


 すると、もうひとりの少女がニヤニヤ笑みを浮かべながら俺の方に近づいてきたかと思うと、俺の患部に手を当てる。


 その瞬間、まるで今まで傷があったことが嘘に思えるくらいに、一瞬で血が止まり、そのまま傷自体も消滅してしまった。


「え……なんで……」


 俺が驚いていると、少女はニンマリと邪悪な笑みを浮かべる。


「ねぇ、アンタ。アタシのこと、酷いと思う?」


「え? 酷いって……」


 俺が困っていると、短髪の少女は先を続ける。


「アンタの前で地面にひれ伏しているのを……アタシの姉さんなんだけどさ。ここに来る前は能力を生かして、ここに来る前にアタシ達がいた教会に来る奴、誰彼構わず治療してたのさ。金も貰わずに。でも、ある日、まるで金脈が底を付いたみたいに姉さんの能力は無くなった。それと共に今まで姉さんのもとにやってきた奴らは姉さんのことを詐欺師だとか、ペテン師だとか……言いたい放題」


 そう言いながら未だに地面にひれ伏したままの長髪の少女を、軽蔑するように見た後で、今一度、短髪の少女は俺を見る。


「でも、それは姉さんに対する天罰だと思うんだよ。調子に乗って神様気取りで誰彼構わず治療して、それができなくなったら治療してた奴らに馬鹿にされたのも、姉さんが傲慢だったのが原因だと思うんだよね」


 そういって、短髪の少女は未だにニヤニヤと地面にひれ伏す自身の姉を眺めている。


「だから、アタシは無駄にこの能力を使わない。使うのは……この愚かな姉さんが本気で困っているときだけ。今アンタを治そうとしていた時の姐さんは久しぶりに本気で困ってたからね。自分にはもう治す能力はないのに治さなきゃいけないどうしよう、って……フフッ。おかしいよね? だから、アタシは慈悲の心を持って、姉さんと……アンタを助けてやったのさ」


 妹の方は未だに姉を見て侮蔑的な笑みを浮かべている。俺は……それが普通に気に入らなかった。


 俺は未だに地面にひれ伏している姉を見る。姉は……すまなそうに少しだけ顔をあげて俺のことを見ていた。


「で、どう? アタシのこと、酷いと思うでしょ? アンタが死にそうになっても姉さんが困っているのを見たかったら、敢えて助けなかったんだけど」


 嬉しそうにそういう妹。しかし、俺はなぜだか……あまりそう思わなかった。


「いや……君は……お姉さんによく似て、とても慈悲深いよ」


「……は?」


 俺の回答が気に入らなかったのか、妹は不機嫌そうな顔で俺を見る。姉の方も驚いた顔で俺を見ていた。


 すっかり傷が癒えた俺は立ち上がり、扉の方に向かう。


『お疲れ様でした。そして……すいませんでした』


 ライナの声が耳元で聞こえる。


「いいよ。もう治ったから」


 俺はそんな慈悲の心を持って、ライナの行いも許してあげることにしたのだった。

点検結果:管理者報告

管理番号23番の危険度判定:軽度。

理由:管理番号1番によると、23aには既に異常性はなく、異常性があるのは23bのみとのこと。ただ、23bの異常性を今後も発揮させるために、23aの収容は今後も継続して行なうものとする。

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