管理番号21番:博打好きの死霊 ②
「……魂を……賭ける?」
俺は今一度確認してしまった。半透明の男性は小さく頷く。
「ええ……まぁ、あんまり深く考えないで下さい。簡単にいえば、この賭場では命を賭けてもらう、ってだけですから」
「は? 命を賭けるって……一体どんな賭けをするんだ?」
俺がそう言うと半透明の男性がパチンと指を鳴らす。それと同時に、俺、管理番号15番、そして、ライナの目の前に水の入ったコップが突然現れた。
「え……なんだこれ」
管理番号15番が驚いていると、半透明の男性は先を続ける。
「まぁ、簡単に言いますと、皆さんのコップのどれか一つに毒が入っています」
「は? な、なんじゃそりゃ……それじゃあ、この中の誰かが死ぬってことか?」
俺がそう言うと半透明の男性は首を横に振る。
「その通り。ですから、コップを一つ選んで下さい。もし、ここで私が毒入りの水を選べば賭けは終わり。皆さんの勝ちです」
そういって、半透明の男性はコップの一つを手に取る。
「さて……私はこれを選びます。みなさんも選んで下さい」
「……冗談じゃない。そもそも、俺は賭けをやるなんて言ってないぞ!」
管理番号15番が怒り気味にそう言うが、半透明の男性は首を横に振る。
「いいえ。椅子に座った時点でアナタは賭けに参加することを同意したも同然……さぁ、コップを選んで下さい」
俺も管理番号15番も顔を見合わせる。しかし、そんな俺達を尻目に、ライナは平然とコップを手にした。
「え……おいおい、ライナ……」
俺がそう言ってもライナは無表情である。
「管理番号1番、15番。おそらく、賭けを終えなければここから解放されません。気付いていますか? 椅子から動けないことを」
そう言われて俺たちはようやく、まるで貼り付けられたかのように椅子から立ち上がれない事を理解した。
「ですから、大人しく管理番号21番の言うことに従いなさい。ちなみに管理番号21番。イカサマはしていないんですよね?」
ライナがそう言うと管理番号21番はフッと小さく笑う。
「私はそもそも賭けに弱いタイプなんですよ。ですから、相手を騙すような高度なイカサマなんてできません」
爽やかな笑顔でそういう管理番号21番。なんだか逆にそう言われるとイカサマを疑ってしまうが……
「……クソッ。死なないようになったと思ったらこれか……管理番号1番。俺はこっちを選ぶぜ」
そういって、管理番号15番はコップを手にした。俺も……仕方なく残ったコップを手に取る。
「それでは皆さん! 一気に飲み込みましょう!」
管理番号21番の掛け声とともに、俺たちは水を口の中に流し込んだ。
しばらくは何事も変化はない……と思った。
「ガハッ……」
と、唐突に喀血したのは……ライナだった。
「え……お。おい! ライナ!」
俺がそう呼びかける間もなくライナは机にぶっ倒れる。そして、血走った目で俺を見ながら、か細い声で呟く。
「……後は頼みました……アレン……」
そういってライナは……動かなくなった。
「……う、嘘だろ……おい! ライナは……」
俺が管理番号21番の方を見ると、管理番号21番は首を横に振る。
「落ち着いて下さい。死んでいません。この賭けの場では死という概念は存在しません。彼女は今、一度毒によって死亡し……魂が抜けたのです」
「え……魂が……抜けた?」
「ええ。言ったでしょう。彼女は自分の選択の結果、毒の入ったコップを選んだ……これは賭けに負けたことになりますね? よって、今彼女の魂は私の手元にあります。無論、見ることは出来ませんが」
「……ってことは、もし、この賭けで勝てば……ライナの魂は……」
「ええ。お返しします。無論、勝てれば、ですがね」
そう言って半透明の男性は自信満々でそう言う。俺は今一度管理番号15番と顔を見合わせてしまう。
「……1番。ここは、勝つしか無いみたいだぜ」
管理番号15番の言うとおり、俺は……俺たちには勝つという選択肢しか残っていないようだった。




