定期報告:管理番号1番との交流(2回目)
「えっと……本当にいいんだよな?」
俺は管理番号8番の部屋の前で思わずライナに訊ねてしまった。
「……ええ。無論、特別処置ですので、報告書は作成しません。部屋の中での会話も点検行為とは無関係です」
ライナは少し苛ついた様子でそう言う。どうやら……まじでライナにとっては管理番号8番は嫌いな存在らしい。
「そ、そうか……じゃあ、とりあえず、入ってみるけど……部屋の前にいるのか?」
「ええ。安心して下さい。部屋の中の会話を盗聴したりはしません」
ライナにそう確認してから、俺は鉄の扉の向こうに入っていった。
「おお! アレン! 久しぶりだな」
管理番号8番……簡易名称、賢者は、中央の椅子に座ったままで親しげに俺に話しかけてきた。
「あ、ああ……どうも」
「フフッ。ライナ・グッドウィッチが盗聴していないか不安かね? 大丈夫だ。彼女は嘘をついていない」
自信満々の顔でそう言う管理番号8番。俺は少しずつ管理番号8番の近くに近寄っていった。
「えっと……アンタに聞きたいことがあるんだけど……いいか?」
「ああ。もちろんじゃ。しかしなぁ……魔術師組合とはどのような組織なのか? ライナ・グッドウィッチは何者か? そして、私自身は何者なのか……質問が多いな。少し絞ってくれると助かるんだが」
「あ、ああ……えっと……ん? ちょっと待て。アンタの後ろにいるソイツは……」
俺は管理番号8番の背後で小さくなっている存在をみて、驚いてしまった。
小さな金髪碧眼の少女が怯えた様子で俺を見ているのである。
「ん? ああ、管理番号11番……簡易名称、幼気な少女、じゃな」
何の事はないという感じで、管理番号8番はそう言う。
「お、おいおい……ソイツは俺やライナのことを殺そうとしたんだぞ! なんでこんなところに……」
「うむ、知っておる。コイツの中には見た目と違う人間の魂が入っておるからな。無論、其のことを知っておれば、コイツの異常性に影響されることはない」
管理番号8番がそう言うと、管理番号11番は、瞬時にその雰囲気を変貌させ、鋭い目つきで俺と管理番号8番を見る。
「……ったく。爺さんよぉ。匿ってくれたのは、感謝するが、いい加減俺もうんざりだぜ? お前は俺にここから脱出する方法を教えてくれるって言ったよな?」
「え……本当か? 管理番号8番?」
俺がそう言うと管理番号8番は首を横に振る。
「そんなことは言っておらん。コイツの嘘じゃ。それに、ワシ自身、ここから出られる方法があれば知りたいもんじゃ」
そう言って、管理番号8番は今一度管理番号11番を見る。
「コイツは、前回、管理者が暴走した際に、この禁忌倉庫の外まで出ていった。しかし、どこまで行っても外の世界につながっていなかった……結局、管理者が正気に戻った時に、慌てて帰ってきてワシの部屋に潜り込んだだけの話じゃ」
管理番号8番がそう言うと不機嫌そうに管理番号11番は俺と管理番号8番を見て、そのままそっぽを向いた。
「……それ以来、ずっとこの部屋に?」
「うむ。脱走した手前、このことがバレれば処分される可能性があるからのぉ。といっても、一体誰がコイツを処分するのか……ワシには想像もつかないがな」
「誰って……ライナじゃないの?」
俺がそう言うと管理番号8番はキョトンとした顔で俺を見る。
「ああ……そうじゃな。お主は知らんのだよな……しかしなぁ、お主は立場上、知らない方が良いかもしれんのぉ……」
「え……なんだよ、それ。教えてくれ。それは、この禁忌倉庫や……ライナに関わることなのか?」
俺が少し口調を強めにそう言うと、管理番号8番は悲しそうな顔をする。
「お主の数ある質問に対して……ワシが言えるのは、魔術師組合という組織があまり良い組織ではなかったということと、ライナというあの少女が……可哀想な女の子ということくらいかのぉ」
「は? おいおい……もっとはっきり言ってくれ! 一体どういうことなんだ!?」
「……お主はなんとなく不思議に思わんか? この禁忌倉庫そのものに関して」
「え? 禁忌倉庫……そのものに関して? それって――」
俺がそう言おうとした瞬間、背後で鉄の扉が開く音がした。俺は背後を振り返る。
「そこまでです。管理番号8番」
その声とともに、ライナが部屋に入ってきた。
「ライナ……お前……」
「管理番号1番に対して虚偽の情報を与えたのは、完全な違反行為です。アナタはより厳重な監視対象としてこの部屋からの退去してもらいます」
ライナがそう言うと、管理番号8番はゆっくりと立ち上がる。
「……もし、ワシが抵抗したらどうするつもりじゃ?」
管理番号8番は余裕の笑みでそういう。しかし、ライナも表情を変えなかった。
「その時は、魔術師組合に援軍を頼みます。本来ならば、アナタは、処分されるべき存在ですから」
ライナがそう言うと管理番号8番はフッと小さく微笑んだ。
「……そうじゃな。可哀想な女の子に免じて、言うとおりにしよう」
そう言って、管理番号8番はあるきだす。ライナはその背後を見張るかのように付いていく。
「管理番号1番。また会おう。哀れな女の子を助けてやれるのは……君だけじゃぞ?」
扉を出る時、管理番号8番は俺に向かって笑いながらそう言った。
ライナは俺の方をキッと、鋭い目つきで睨む。
「……管理番号1番。管理番号11番を見張っていなさい。いいですね?」
そういって、ライナは部屋から出ていった。
「……あの姉ちゃん、あの性格じゃなきゃあ、いい女だと思うんだけど……お前はどう思う?」
椅子の背後に隠れていた管理番号11番がそんなことを言う。
俺は……最後に管理番号8番が言ったことを反芻しながら、その場に立ち尽くしていたのだった。
○魔術師組合への定期報告
管理番号8番の管理をより厳重なものへと移行、他の危険存在との接触を禁止した。
以後、管理番号8番の保管部屋には、管理番号11番を保管する。
管理番号1番に対しては、管理番号8番との以後の接触を厳禁とする。
添付資料:魔術師組合からの返事
管理番号8番の件を許可する。元々はあれは組合側が処分すべき存在だったのだから、どのような管理方法を用いても我々は問題としない。
管理番号8番が管理番号1番に述べた内容及び情報に関しては、全て虚偽の事実であるということを伝えるようにしてほしい。妙な疑いを持たれると、点検行為に支障が生じるだろうからな。
危険存在の管理は大変だろうが、聡明な君にならそれができると信じている。
今後も活躍に大いに期待する。
魔術師組合組合長:カールス・リヒーテール




