管理番号2番:何もない宝箱 ②
「調子はどうですか? 管理番号1番」
「あ、ああ……ライナか」
ライナが扉を開いて俺の部屋に入ってきた。
扉を開く、か。
開く……開きたい。
俺の頭の中には意味のない言葉が浮かんでくる。
「食事です。どうぞ」
「え……食事、出るの?」
俺は思わず驚いてしまった。しかし、ライナも意外そうな顔で俺を見る。
「はい。何か問題が?」
「あ……いや。俺って、死なないんでしょ? だったら、食事なんてしなくても……」
俺がそう言うとライナは少し顔をしかめて俺を見る。
「必要です。管理番号1番には精神的にも健康でいてもらう必要があります。ですから、食事は必要と私は考えます」
ライナはそう言って俺の前に食膳を置く。俺は少しためらいながらも、食事をはじめた。
食事は……美味しかった。こんな牢獄のような場所で出される食事とは思えないくらいに。
「……ありがとう。ライナ」
俺がそう言うとライナは少し目を丸くしていたが……すぐにいつもの無表情に戻った。
「そういえば、管理番号1番。異常はありませんか?」
「え? 異常?」
俺が訊ね返すと、ライナは小さく頷く。
「管理番号2番との接触後、アナタは身体上、もしくは精神的に問題はありませんか?」
そう言われて、俺は少し困った。
……ライナに言っても大丈夫だろうか? いや……ダメだ。
アレは……俺が開けるのだ。俺が開いたのだから。
確認しなければならない。あの宝箱の中には、きっと何かある。
「……いや、大丈夫だ。何もない」
「そうですか。何よりです」
ライナはそう言うと、ずっと俺の食事を見ていた。
まるで、飼っている家畜がきちんと餌を食べているかを確認するかのような……複雑な気分だった。
俺が食事を終えると、ライナは満足そうに食膳を手に持った。
「では、また、明日。職務のために十分な睡眠及び休養をして下さい」
「ははっ……俺が寝るって事は死ぬってことなんだろう? そえって、休養なのか?」
俺が苦笑いすると、ライナは少し困ったような顔をしてから、俺に背を向ける。
「では、私はこれで」
「あ……ライナ。問題が一つある」
俺がそう言うと、ライナは眉間に皺を寄せて俺を見る。
「……なんですか? もしかして……」
「ああ。管理番号2番のことだ」
俺がそう言うとライナは真剣な表情になった。俺はわかっていた。
このライナという女は……糞真面目だ。職務に忠実だから、俺が何か問題があるといえば、それに関して真面目に対応するだろう、と。
「……詳しく話して下さい。問題ですか?」
「ああ……お前には宝箱の中には何もないって言ったが……何かあった気がするんだ」
俺がそう言うとライナは少し考え込んだような顔で俺を見る。
「……そうですか。それで……アナタはそれを確認したいのですね?」
まるでそうなることをわかっていたかのように、ライナは俺にそう言った。
「あ、ああ……申請は許可されるのか?」
俺が少し興奮気味にそう言うとライナは少し俺の事を気の毒そうに見た後で、小さく頷いた。
「ええ。許可します。報告書の記述とここまでは同じですから」
報告書……あの宝箱に関する報告書だろうか。
いや、そんなことはどうでもいい。あの宝箱を開いて。中身を確認できれば、俺はそれで満足なのだから……