管理番号20番:天使の羽
管理番号20番・簡易名称:天使の羽
概要:管理番号20番は見た目は白い鳥の羽です。羽には魔力が施されており、羽を対象の背中に固定することができます。
背中に羽が固定された対象は、羽を自分の体の一部として使用することが出来ます。羽を使用し、対象者は飛翔することが出来ます。点検行為では、管理番号20番を使用して飛翔することが可能かどうかを点検してください。
「……え。これって……鳥の羽?」
部屋に入ると、部屋の中央には無造作に「それ」がおいてあった。
白い鳥の羽のような物体……どう見てもそれは右と左……一対の羽だった。
『はい。それを背中に装備することはできますか?』
「え? 背中に装備って……どうやって?」
いきなりそう言われても俺は困惑してしまったのだ。ライナに「背中に装備する」ことの意味を聞いてみる。
『簡単です。背中に羽をくっつけようとして下さい。そうすれば簡単に装備することが出来るはずです』
そんなことで装備なんてできるのだろうかと俺は半信半疑だったが……そのまま背中に羽をくっつけてみることにした。
少々大変だったが、まずは右羽を右の背中にくっつける。
「え」
俺は思わず声を漏らしてしまった。
『どうしましたか? 管理番号1番』
ライナの質問にも、俺は素早く答えることができなかった。
「……くっついた」
『はい? くっついたとは……羽が背中に、ですか?』
俺は小さく肯定した。その通りなのだ。背中に羽が完全にくっついたのだ。
おまけに……羽が動かせるのである。背中越しに見る羽は完全に俺の背中に付着しており、俺の意思で動かせるのである。
『……とりあえず、もう一方の羽もくっつけて下さい』
無論、そう言われると思ったので、俺はその通りにしてみた。
左の方の背中にも羽はくっついた。そして、その羽根も俺の意思通りに動くのである。
「……これ、もしかして、飛べたりするのかな?」
『……実験を許可します。飛んでみて下さい』
ライナの許可が出たので、俺はとりあえず、背中の羽を動かしてみることにした。
すると……信じられないことに、少しずつだが、体が浮き始めたのである。
「お、おお! ライナ! 浮いているよ!
『そうですか。そのまま飛翔できるかまで試してみて下さい』
言われるままに、俺は羽を動かす。
すると、すでに俺はもう数メートルは地面から離れてしまっていた。そして、ゆっくりと上昇することが出来ているのである。
「おお! これは……すごいな! やっぱり飛べるんだ!」
『管理番号1番。気をつけて下さい。アナタは本来飛べる生物ではありません。あまり調子に乗るべきではありません』
そういうライナの言葉も、すでに俺の耳に入っていなかった。
もはや、これは俺の思った通りの動く羽なのだ。それならば、少し力を入れてみて、ぐっと上昇してみよう……俺はそう思った。
「よし! 行くぞ!」
『管理番号1番。急な上昇は危険で――』
そう聞こえたライナの言葉が……その日の俺の点検行為において聞いた最後の言葉だった。
俺はそのまま恐ろしい速度で天井に激突し……圧死した。
そして、約6時間後にはベッドの上で起き上がる。ベッドのそばではライナが呆れ顔で俺のことを見ていた。
「……アナタは鳥ではないのです。そんなに早く上手く飛べるようになるわけないでしょう」
そう言われて俺は、ただただ、はしゃぎすぎた自分のことを思い出し、恥ずかしい思いをすることになるのだった。
管理番号20番:点検報告
危険度:中度
理由:人間は生まれてから飛べる生物ではない。管理番号20番は、そんな人間に「飛べる」という錯覚を生み出し、明らかに無謀な飛行を煽る危険存在である。無論、それを理解し、飛翔を可能にすることが出来るかもしれないが、上手に飛翔できる確率と、すさまじい速度でどこかにぶつかり死亡する確率は、後者のほうがどう考えても高いと考えるためである。




