管理番号18番:言伝用の紙束 ①
管理番号18番・簡易名称:言伝用の紙束
概要:管理番号18番は見た目には変哲のない複数枚の紙束です。
管理番号18番には何も書いてありませんが、管理番号18番に伝えたい内容、そして、伝えたい相手を指定して、文章を書き込んで下さい。
管理番号18番に文章を書き込んだ場合、その内容は約12時間で、指定した未知の手段によって相手に伝達されます。管理番号18番が伝える相手先は、時間的、場所的制約を受けず、紙に書いた内容は書いた本人以外には視認することができません。
点検行為の際には、その正確性や、実際に文章が伝わるかを点検するようにして下さい。
「……紙?」
俺は思わず目の前に置かれた物体を見てしまった。
紙……本当に何の変哲もないただの紙だ。
『ええ。紙です。隣にペンもありませんか?』
耳元から聞こえるライナの声で、俺は紙の隣に置かれているペンに気づく。
「あるけど……これ、どうするの?」
『そうですね。まず……誰かに伝えたい事は有りますか?』
「伝えたいこと? う~ん……いきなり言われてもなぁ」
俺がそう言うとライナは確かにそうだという感じで黙ってしまった。そして、しばらく黙ったとあとで再び話し始める。
『管理番号14番に伝えたいことでいいです』
「え……女神様?」
『はい。なんでもいいので書いてください』
なんでもいい……ある意味で一番面倒だった。女神様……とりあえず、適当に褒めておけばいいか。
「『今日も綺麗で偉大ですね』……こんな感じでいいか。で、どうするんだ?」
「書きましたか。では、点検行為は終了です。お疲れ様でした。次は12時間以降、管理番号14番の部屋にて行います」
「え? 女神様の部屋で?」
『はい。とりあえず、その部屋は出てください』
言われるままに俺はペンと紙を残して、その部屋を出ていった。
部屋を出ると、扉の前にライナが立っていた。
「ああ、ライナ。次は12時間以降?」
「そうです……ですが、一つ聞きたいことがあるのですが」
「え? 何?」
俺がそう言うとライナはいつもよりもまして厳しい視線で俺を見る。
「……本当に誰かに伝えたいこと、ないのですか?」
「え? あー……いや、まぁ……いきなりそう言われてもねぇ……」
「……そうですか。で、管理番号14番に対して伝えたいことはなんだったのですか?」
「ああ、まぁ、適当な褒め言葉だよ。綺麗だ、とか、偉大だ、とか」
「……そう、ですか……」
そう言うとライナは管理番号18番の部屋の扉を開けた。
「え……どうしたの?」
「……一応、私も確認しておきます。管理番号1番は部屋に戻っていてください」
明らかに不機嫌そうな態度で、ライナは部屋の中に入っていってしまった。
「……なんだったんだ?」
俺は意味もわからず、何か引っかかるものを感じながら、そのまま自分の部屋へと戻っていったのだった。




