管理番号17番:悪辣な魔力源 ⑤
「……ライナ、本気でそう言っているのか?」
俺がそう言うとライナは当たり前だという顔で小さく頷く。
「ええ。だって、嫌だと思いませんか? 毎日毎日点検行為……アレン。アナタだっていい加減飽きてきたでしょう?」
俺は黙ってライナのことを見ていた。ライナの様子は……明らかにおかしい。そして、未だに手にしているのは……管理番号17番だ。
なぜ、ライナは管理番号17番を持ったままなんだ? どうして、管理番号17番だけ……
「……ライナ。それは本心なのか?」
俺がそう言うとライナは呆れ顔で俺のことを見る。
「言ったでしょう。アレン。飽きたんです。これは私の本心です。嘘なんて言う必要ないでしょう?」
「しかし……なんで急にそんなことを言い出したんだ。それこそ……管理番号17番の点検行為をした直後に」
俺がそう言うとライナは黙った。いや……わかってはいた。どう考えても管理番号17番の特性が今回の問題に絡んでいる。
だとすると、今のライナは……
「……関係ないでしょう。それより、アレン。これでアナタも自由の身なんです。嬉しくないんですか?」
「ああ……納得した上での自由なら嬉しいさ。だが……今の俺は納得できていない。この自由に理由を見いだせないからな。それに……俺が思うにライナは俺にそんなことを言わないと思うんだ」
俺がそう言うと……ライナの表情が変わった。それこそ、俺がそれ以上先の言葉を言うことをおそれているように。
「……待て。それ以上、先を言うな」
と、急にライナとは思えない言葉使いでライナは喋った。これは……明らかにおかしい。
「ライナ……ライナはそんな言葉使いをしない。ということは、お前は……」
「やめろ! お前! それ以上先を喋ると……!」
ライナが俺に手のひらを向ける。これは、もしかすると、魔法とやらで攻撃しようといているのか? そうなると、俺は……しかし、このままでは……
「お前はライナじゃない! お前は――」
「やめろと……言っているだろう!」
ライナの手のひらが輝く。魔法による攻撃が行われる……そう思った矢先だった。
「……あれ?」
しかし、魔法による攻撃はされなかった。俺は思わず瞑った目をゆっくりと開く。
「……え?」
見ると……ライナは地面に倒れ込んでいた。倒れ込むというよりは……地面に強い力で押し付けられているという感じだった。
この光景……というか、この状況は前に俺が味わったような……
「ふっ……女神の大事な信者に手を出そうとするからよ!」
と背後から、両腕を組んでさも得意げな顔でそう言う女神様がやってきた。
「女神様……ありがとうございます」
俺がそう言うと、女神様少し恥ずかしそうな顔をする。
「まぁ……当然のことをしたまでだけど……感謝しなさい!」
俺は思わず笑ってしまうが、実際女神様がいないとどうにもならなかったので、感謝はしておいた。
「くそっ……この俺が……!」
そういって、ライナは悔しそうな顔をする。ライナ……いや、こんな喋り方はどう考えてもライナではない。
「お前……誰だ?」
俺がそう訊ねた瞬間だった。ライナがそれまで持っていた本を取り落とす。
そして、それと同時にライナは意識を失ってしまった。
「ライナ、大丈夫化? 女神様。もういいですよ」
俺がそういうと同時に、女神様はライナを地面に押し付けるのをやめたようだった。
「これで……終わったのか?」
俺は理解できなかったので、女神様に聞いてみる。女神様も首を傾げているので、わかっていないようだった。
とりあえず、俺は管理番号17番を手に取る。俺が手にとっても……やはり変化はないようだった。
「……とりあえず、点検行為、終了、かな?」
俺はそう言ってライナを背中に背負ったままで、女神様と一緒に禁忌倉庫ヘ戻っていったのだった。
点検結果:管理者報告
管理番号17番の危険度判定:重度
理由:管理番号17番に関しては、魔術師及び魔術の素養があるものの接触を全面的に禁止する。接触する際には、接触を行なう魔術師及び魔術の素養があるものよりも熟練者を同伴させること。なお、今回の管理障害に関して事態の収集への貢献として、以下の申請が許可され、以下の危険存在の行動が許可された。
管理番号1番:管理番号8番との、管理者の監視下による任意の面会。
管理番号14番:食事の質の向上。
また、問題事例として以下の危険存在が脱走中。管理者が現在捜索中。ただ、禁忌倉庫の敷地外へ出ることは不可能と考える。
管理番号11番:保管部屋を脱走後、失踪中。