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禁忌倉庫の管理記録  作者: 松戸京
管理番号1~10
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管理番号2番:何もない宝箱 ①

管理番号2番・簡易名称:何もない宝箱


○概要


 管理番号2番の外見は普通の木製の宝箱です。


 中身には何も入っておらず、既に何度かの検証でそれは確認できています。


 しかし、管理番号2番を開くと、開いた対象者は宝箱の中に「何かがある」気になってくると証言しています。


 実際、組合が宝箱を回収するまでに、何人かの冒険者が、管理番号2番が置かれていた洞窟の中に何度も入り、中身がないことを確認する行動があったことが報告されています。

 

 よって、管理係は速やかに管理番号2の中に中身がないことを確認し、中身がないことを確認出来次第、報告書を提出して下さい。


 なお、管理番号2番を開いた後の点検係(管理番号1番)の経過観察も報告して下さい。

『管理番号1番。どうですか?』


 俺は扉の向こうにいた。分厚い鉄の扉の向こうだ。


 結局、俺は点検係として働かされることになってしまった。目の前には……


「……宝箱?」


 宝箱だ。何の変哲もない宝箱がある。


『それが管理番号2番です。点検行為をお願いします』


「……なぁ、ライナ。一つ聞いていいか?」


『申請を許可します。なんでしょうか?』


「その……どうして俺の耳元で君の声が聞こえるんだ?」


 俺が1番不思議だったのは……ライナの声が俺の耳元で聞こえていることだった。


 ライナとは先程扉の前で別れたばかりだ。それなのに、ライナの声は俺の耳にくっきりと聞こえてくる。


『ああ。それは気にしないでください。アナタが知る権利のない技術です』


「……それって、組合が関係あるのか? そういえば魔法使いって言ってたよな? 魔法、的な?」


『回答は拒否します。ですが、声だけではなく、アナタの行動も監視できています。問題なく、点検行為に移って下さい』


 ……よくわからないが、俺の行動はライナに筒抜けらしい。つまり、俺がもし、この場から脱走しようとしても、ライナにはそれがわかってしまうのだろう。


『管理番号1番。どうぞ』


 ライナの声がまた聞こえてきた。


「どうぞって……何をすれば良いんだ?」


『簡単です。その宝箱を開けて下さい』


「開けるって……危険なんじゃないのか?」


 俺がそう言うとライナの声は一旦聞こえなくなった。俺は俄に不安になる。


「おい、ライナ。危険なのか?」


『……問題ありません。報告書によれば、箱を開けただけでは、管理番号1番に身体的危機が迫ることはありません』


 本当……なのだろうか? どうにも信頼できない。そもそも俺は死なないってことになっているらしいが……


 俺は覚えている。ライナに胸をナイフで突き刺された感触を。それを思い出すのは本能的に頭が拒否しているようだが……


「……わかったよ。開ければ良いんだろ」


 俺はそう言って宝箱の前に立つ。そして、ゆっくりと宝箱の蓋に手をかけた。


 宝箱の蓋は案外に軽く、すぐに開いてしまった。


「……何も入ってないぞ」


 拍子抜けだった。何も入ってない。空っぽだ。


『何もない、ですか?』


 まるで最初からわかっていたかのような、確認するかのような調子で、ライナが俺に聞いてくる。


「ああ。何もない」


 俺がそう言うとライナは暫く黙っていた。


『……わかりました。お疲れ様です。部屋から退出してください。扉はアナタに対してのみ開くようになっています』


 ライナにそう言われ、俺は部屋から出ようとする……しかし……


 ふと、俺は今一度宝箱の蓋を開けた。何もない。空っぽだ。


『どうしましたか? 管理番号1番』


「え? あ、ああ。なんでもないんだ」


 何をやっているんだ……何もない宝箱なんだ。何度見たって同じだ。


 俺はそう思って鉄製の扉の方に向かう。そして、扉の前に立った。


 しかし……なぜか俺は宝箱の方に戻ってしまった。そして、今一度箱を開ける。


 何もない。変化なしだ。


『管理番号1番。何をしているんですか?』


 ライナの声で我に返る。そうだ、何をやっているんだ……俺は。


 今一度意思を強く持って、俺は振り返らずに部屋の外に出たのだった。

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