管理番号17番:悪辣な魔力源 ①
管理番号17番・簡易名称:悪辣な魔力源
概要:管理番号17番は高度な魔力が込められている魔術書です。(管理番号17番に接する組合員は細心の注意を要して下さい)
管理番号17番は魔術師にのみ作用する危険存在です。管理番号17番に触れた魔術師は、如何なる高度な魔術師であってもその影響に抗うことができません。管理番号17番の影響下に置かれた魔術師には、本来とは違う人格が出現します。
この人格はあくまで影響を受けている魔術師の元の人格を真似しようとしますが、元の人格に比べて非常に攻撃性や残虐性、さらに、間違った行為を行う傾向が強くなります。これを管理番号17番に起因する「悪人格」と呼称します
この「悪人格」は、管理番号17番の影響下にある魔術師ではない人間が「お前は誰だ?」と指摘することで消滅します。(ただし、影響を受けている魔術師が管理番号17番のこの特異性を第三者に事前に伝えることは、管理番号17番の未知の特性により不可能です)
よって、点検行為の際は、点検行為に参加する魔術師の人格をよく知っている人物と共に点検行為にあたってください。
「えっと……今の本当?」
俺はライナが言ったことが信じられず、思わず訊ねてしまった。ライナは嘘を言っているようには見えない。
「ええ、本当です。今回の点検を行なうのはアナタではありません。私です。危険存在の影響を受けるのも私です。アナタはそれを監督する役目があります」
「でも……俺で大丈夫なのか?」
俺がそう訊ねると、ライナは少し黙った後で俺の事を見る。
「……むしろ、アナタしか出来ないと思います。アナタはこの施設のことを理解している……だからこそ、アナタに頼むのです」
そう言われてしまうと、俺も断れなかった。仕方なく俺とライナは無言のままに保管部屋の前までやってきた。
「……準備はいいですか?」
ライナが真剣な顔でそう言う。俺は小さく頷いた。
そして、そのまま俺とライナは部屋の中に入っていった。
部屋の中は殺風景だ。そして、問題の危険存在は……
「あれか」
俺は思わずそう言ってしまった。遠くからでも見てわかる。あれは……
「……本?」
「ええ。おそらく……魔術書ですね」
「魔術書……魔女や魔術師が使う?」
俺がそう言うとライナは小さく頷いた。
「そうです。つまり、あの危険存在は魔術師や魔法使い以外には影響を与えないのでしょう。魔術書を読めるのは魔女や魔術師だけですから」
「そう……なんだ」
「ええ。つまり、アナタには問題は起きないということです。ですから……わかりますね?」
ライナは俺にそう言う。俺も……ようやく今回の点検行為の意味がわかってきた。
そして、ライナはゆっくりと本の方に近づいていき、ゆっくりと、本を持ち上げた。
「……ライナ? 大丈夫か?」
俺が訊ねると、ライナは返事をしない。
既に影響が出始めているのか……俺は不安になってきた。
「ライナ?」
「ええ。問題ありません」
今度は返事が返ってきたので、俺は一安心した。
「……どうやら、報告書の通りではないようです。この危険存在はそこまで危険ではないようですね」
と、ライナは意外な事を言った。
ライナにしては珍しい……そんな楽観的なことを。
「え……そうなの?」
「はい。ですから、今日の点検行為は終了です。お疲れ様でした。ああ、そうだ。アナタも少し最近疲れているのではないのですか?」
と、急にライナは俺にそんなことを言ってきた。俺は意味がわからず少し戸惑う。
「え……疲れているって?」
「いつもいつも点検行為でお疲れでしょう。今日の食事は特別なものにします。さぁ、早くここを出て部屋に戻りましょう」
ライナは笑顔でそう言った。あのいつも無表情で厳しいライナが……
「……え。ライナ、本当に大丈夫?」
「はい? なぜ?」
「え……いや……」
具体的には……言えなかった。何かがおかしいだけ……それで、おかしいなんて言えない。
「フフッ。やはり、アナタは疲れているようです。さぁ、部屋に戻りましょう」
そういって、ライナは俺を保管部屋から出そうとする。俺は今一度本の方を見る。
……俺にとっては普通の本に見えるが……あれは、危険存在なんだよな。
やはり何かがおかしい……何かが。
そう思いながらも結局俺は外に出されてしまい、半ば無理矢理にライナに自分の部屋を戻されてしまったのだった。




