管理番号14番:わがままな女神様
管理番号14番・簡易名称:わがままな女神様
概要・注意:管理番号14番への面会は定期的に行って下さい。(面会に関しては管理者・点検者のどちらでも問題ありません)
管理番号14番は南部王国の小さな町の一つで信奉されていた、独自宗教の女神……を自称している少女です。
実際にその体は人間とは異なり、大部分が魔力で構成されており、組合所属の上位魔術師の何倍もの魔力を使用することができます。
ただ、管理番号14番は性格・知能に非常に問題があり、定期的に面会し、管理番号14番を賛美する言葉を述べない場合、管理番号14番が魔力を暴走させる可能性があります。
よって、定期的な面会を厳守して下さい。(管理番号14番の魔力暴走は、禁忌倉庫の魔術防壁を破壊し得る力を持っています)
「え? 初めてじゃない?」
保管部屋に向かう途中、俺は思わず訊ね返してしまった。
「ええ。管理番号14番と会うのは、アナタが初めてではありません。私が既に何度か会っています」
「へぇ……え、でもさ。それって点検行為にならないの?」
俺がそう言うとライナは首を横に振る。
「あくまで管理番号14番を暴走させないための行為です。点検行為にはあたりません」
「暴走……そんなヤバイ危険存在なの?」
俺がそう訊ねるとライナは少し考え込んでから、俺の方を見る。
「……いえ。危険といえばそうなのですが、扱い方を間違えなければ、特に危険ではありません」
「へ……なんだそれ」
俺がいまいち理解できていないでいると、いつのまにか保管部屋の前にやってきてしまっていた。
「……入って大丈夫なの?」
「ええ。どうぞ。ああ、管理番号14番は、自分と話している最中に誰かと話すことを激しく嫌うので、部屋に入ってからの通信はありません」
なんだかよくわからなかったが……俺は仕方なく扉を開けて部屋の中に入っていった。
「あ! やっと来たわね!」
と、部屋の中に入った途端、声が聞こえてきた。見ると……俺の視線の先には、白い服を来た少女が立っていた。
少女が着ている白い服はとても綺麗で、神秘的だった。おまけにそれを着ている彼女も……少し不思議だった。
髪は青いというか……そんな色なのだ。おまけに目の色もライナ以上に真っ青だった。なんとなく普通じゃない感じの女の子だった。
「……何? 私がそんなに珍しいわけ?」
少女は不機嫌そうな声でそう言った。俺は首を横に振る。
「そう……で、アンタはこの私が誰かわかっているわけ?」
「え……管理番号14番?」
すると、少女は頬を膨らませて俺を見る。少女に見られるとなんだか……身体が重くなった気がした。
「……アンタまであの根暗女と同じこと言うのね……わかったわ! 教えてあげる! 私はね……女神なのよ!」
そういって両手を高く上げる少女……女神……俺は頭の中で言葉だけを反芻した。
「あ……そう……なんだ……」
「あー! その視線! 疑っているでしょ!?」
俺の反応が気に食わなかったのか少女は俺を指差して非難する。
「え……そ、そんなことないけど……」
「もう……! ここに来てから最悪なことばっかりだわ……! 私はね! 女神なの! だから……私にちゃんとひれ伏しなさい!」
と、少女がそういった瞬間だった。
「ぶへっ!?」
俺はまるで見えない力に押しつぶされるかのように地面に叩きつけられた。
「ふっ……ようやく私が女神ということを認めたようね。いいわ。今までの無礼は許してあげる」
「いや……これ……どうなって……」
なんとか立ち上がろうとするが……そもそも身動きがとれない。
見えない力は完全に俺の体全体に強くかかっているらしく、無理に抵抗すると骨が折れそうなほどだった。
「何!? アンタまで……アンタまで私を女神だと認めないつもりなのね! いいわ……もう……こんな世界壊れてしまえばいいのに!」
そういった瞬間だった。俺への力は弱まり、自由に動けるように鳴った。代わりに、保管部屋がミシミシと音を立てている。
「あ……あわわ……」
見ると、部屋の壁にヒビが入っている。気のせいか天井からも破片が落ちてきている。
俺は瞬間的にこのままでは不味いということを理解した。
「あ……し、信じます! 女神様!」
俺は慌ててそう言った。すると、瞬時に少女は俺の方を見る。それとともに部屋の崩壊は収まった。
「……ホントに?」
「あ、ああ! 信じますとも。ね?」
俺がそう言うと少女は満足したようにニッコリと微笑んだ。
「……いいでしょう! アナタを私のこの地での信者第一号として認めまてあげます!」
大層偉そうに女の子はそう言った。俺は思わず呆然としてしまう。
「……何? 不満?」
「え……あ、いやいや! 光栄です! 女神様!」
少女……ではなく、女神様は満足そうだった。
「よし! では一号君。今から私が女神としてアナタに命令を出します!」
「え……命令?」
「そうよ。そうねぇ……とりあえず、私に献上する食事はもう少し上等なものにしなさい! ここに来る前の方が良いものが献上されていたわよ?」
そう言われて俺はどうすればいいのかわからなかったが……とりあえず部屋を出ることにした。
「……ああ、わかりました。その……この施設の責任者に伝えておきます」
「よろしい。あ! 後! 一週間に一度は私の部屋に来て私を崇めなさい! いいわね!?」
そう言われても困ってしまうので、俺は苦笑いを浮かべながら適当にうなずき、そのまま部屋を出た。
「どうでしたか? 女神様は」
と、部屋の前にはライナが立っていた。俺はとりあえず女神様の命令を伝える。
「……もっと美味い飯を献上しろって」
するとライナは大きくため息を付いてから歩き出した。
「え……どうするの?」
俺がそうきくと、ライナは首を横に振る。
「対応する必要はありません。彼女は一週間前も私に同じことを言っていました。つまり……」
「え……つまり?」
「……忘れっぽいのです。あまり真面目に対応する必要はありません。無論、扱い方には注意すべきですが」
そういってライナは歩いていってしまう。
なんとなくだが……ライナは管理番号14番のことをあまり好きではないようだった。
点検結果:管理者報告
管理番号14番の危険度判定:中度
理由:管理番号1番の報告によれば、魔力の暴走により施設を破壊することは十分に可能であるとのこと。ただし、扱い方を間違えなければ、脅威となるような危険存在ではないため。
補足:管理番号14番が要求していた「食事の質向上」に関しての申請は現在認められていません。




