管理番号13番:殺したいほど愛してる ③
「……ん?」
それから数時間ほど経ったのだろうか。俺は目を覚ました。
「おはようございます。管理番号1番」
「ん、おはよう……って、あれ……ライナ」
見ると、ベッドの側には仏頂面でライナが座っていた。
「どうしましたか? 驚いた顔をして」
「え……いや、だって、まさかいるとは思わなくて……」
俺がそう言うとライナはバツが悪そうな顔で俺の事を見る。
「……どこまで、覚えているのですか?」
「え……どこまで、って……何を?」
俺がそう言うと、キッと俺を睨みつけてライナは先を続ける。
「……点検行為のことです。管理番号13番の」
恥ずかしそうにそういうライナを見て、俺は思い出した。
俺はライナに……殺されたのだと。
「あ……ああ。思い出したよ。えっと……ライナに殺されたところまでは……」
「……そうです。ですが……他には?」
「え……他? あ……」
そう言われて俺は思い出した。ライナの態度がおかしかったこと。そして、ライナが俺に言ったこと……
ライナは……ものすごい鋭い視線で俺を見ている。俺は……慎重に言葉を選択した方がいいと判断した。
「……ああ、えっと……後はよく覚えていないなぁ。殺される時はすごい痛かったし……」
俺がそう言うとライナは大きくため息をついた。
それはどう聞いても心の底からの安堵のため息だった。
「……そうですか。安心しました」
「え……安心って……なんで?」
俺がそう言うとライナはまたしても鋭い瞳で俺の事を睨む。
「いえ……仮にもし、アナタが私がアナタのことを殺害の最中に口から発した言葉を覚えていた場合、アナタには少し苦痛を伴う処置を施さなければいけませんでしたから」
「え……な、なにそれ……」
すると、ライナは不気味に微笑む。
「フフッ……私とて魔術師です。記憶の消去をすることは魔術によって可能です。ですが……記憶を削除する際の魔術は少々術をかける対象に負担をかけることになるので、あまり使いたくないのです」
それを聞いて……俺はゴクリと生唾を飲み込んだ。大方……どう考えてもロクでもない方法が用いられるに決まっているのである。
「……あ、あはは……そ、そうなんだ……いやぁ、何も覚えていなくてよかったなぁ……」
俺がそう言うと、ずいとライナは俺の方に身を乗り出してきた。その黒い瞳はどす黒く……本気で怒っているかのような目だった。
「本当に……覚えていないんですよね?」
俺は思わず視線を逸しながら、落ち着いて返答する。
「あ、ああ……何も……本当に……」
暫くの間、その視線でずっと見つめられていたが……ライナは諦めたのか、最後には俺を開放してくれた。
「……そうですか。いいでしょう。というより……すいませんでした」
「え……今度は何?」
と、ライナはすまなそうに目を伏せる。
「ああ、いえ……点検行為とはいえ、アナタを殺害してしまいました……アナタに苦痛を与えてしまったことは管理者としては問題だと思いまして……」
申し訳無さそうなライナを見て、俺は思わず目を丸くしてしまった。いつもは無表情で取り付くシマもない感じのライナが……
「え……あ、ああ、それか……いいって、俺もライナにあんなことを言われるなんて思いもしなかったし……」
「……あんな、こと?」
俺は思わず自分が言ってしまったことを後悔する……完全に調子に乗っていた。
「あ……え、えっと……今ちょっと混乱しているのかなぁ……何か言ってたっけ?」
ライナは明らかに疑いの視線を向けているが……俺はしらを切り通すことにした。
しばらくライナは俺を見つめていたが、最後に小さくため息を付いてから立ち上がる。
「……とにかく、お疲れ様でした。管理番号1番。次の点検行為まで休んで下さい」
「あ、ああ……あ、あのさぁ……」
部屋から出ていこうとするライナに、俺は思わず声をかけてしまった。
「……はい? なんでしょうか?」
「あー……やっぱり、呼び方は『管理番号1番』なのかな?」
俺がそう言うとライナは少しムッとした表情で俺を見る。
「……ええ。私にとって、アナタは『管理番号1番』以外の何者でもありません」
不機嫌そうにそう言うと乱暴にドアを閉めて、ライナは外に出ていってしまったのだった。
点検行為:管理者報告
管理番号13番の危険度判定:重度
理由:管理番号13番に触れた場合、好意を全く持っていない相手に対しても好意が増大し、最終的に殺害に至ったため。
管理者は管理番号1番のことを危険存在としてしか認識しておらず、全く好意は持ち合わせていない。
繰り返しとなるが、これっぽっちも、全く持ち合わせていないと補足しておく。




