管理番号13番:殺したいほど愛してる ②
部屋に戻っても……俺はなんとなく落ち着かなかった。
なんというか……やはりライナのことが気になった。
上手く説明できないが……どこかおかしいのである。なんというか、そわそわしているというか……
そんなライナのことを考えると俺は不安になってくる。
「……俺から会いに行くのは……できないしなぁ」
そもそもライナが今どこにいるのかもわかっていない……会いにいくことはできないのである。
そうなるとこの部屋で待機していることしかできないわけだが……やはりなんだか俺自身も不安というか……落ち着かなかった。
しばらくベッドに座ったり、横になったり、立ったりした。それを何回か繰り返した辺りで、ドアをノックする音が聞こえてきた。
俺は何も言わずにドアを開ける。
「……ライナ。どうしたんだ?」
見ると、扉の先には、汗をぐっしょりとかいたライナの姿があった。
「あ……アレン……部屋に……入らせて下さい……」
「あ、ああ……もちろん」
ただ事ではない様子のライナはそのまま倒れ込むように俺の部屋に入ってきた。
大きく肩を上下させ、とても苦しそうだった。
「ど、どうしたんだ……一体何が?」
「……したいんです」
と、ライナが小さな声でそう言った。俺はよく聞き取れず今一度ライナの方を見る。
「え……したい? 何を?」
「……殺し……たいんです」
「え……殺すって……誰を?」
するとライナは辛そうな表情のままで俺のことを見る。そして、鋭い目つきでそのまま先を続ける。
「……アナタです。アレン・アークライト」
「え……俺!?」
さすがに驚いてしまった。しかし、ライナは真剣な表情で俺のことを見ている。
「ええ……本気ですよ……というよりも……今私は我慢しています……この手に短剣をにぎったままで……」
そういってライナは俺に右手を見せてくる……しかし、右手には何も握られていなかった。
「え……何も持っていないようだけど……」
「……アナタには見えないでしょう。ですが、私は持っています……組合の報告の通りならば、アナタを殺害した直後、短剣は実体化するはずです」
ライナは辛そうな顔でそう言った。どうやら……本当に俺を殺したくて仕方ないようである。
それはもちろんライナの本心……ではないと思う。管理番号13番の特異性に起因するもののはずだ。
それにしても……ライナはとてもつらそうだ。もし、これが殺人衝動を抑えているせいでこんな状態になっているとするならば……
「……わかった。殺していいよ」
俺はゆっくりとそう言った。ライナは目を丸くしている。
「い……いいのですか?」
「うん。だって、俺は死んでも6時間後には生き返るし……俺よりもライナの方が辛そうだし……だから、殺していいよ」
俺はあくまで平常心でそういった。正直、何度死んでも死ぬのには慣れないが……あまりにもライナが辛そうである。
「本当に……いいのですか?」
「ああ、いいよ」
俺がそう言って笑うとライナは少し俯いた後で苦笑いした。
「……アレン。私は……管理番号13番を過小評価していました」
「え……どういうこと?」
「この危険存在は……短剣に触れた対象の好意を増大させ……対象が好きな相手を殺させるというものだったんです」
そういってライナは立ち上がった。
「え……ライナ、それって……」
「平常時の私は……アナタのことを好きではないと思っていました。だから、管理番号13番に接触しても問題ないと……でも、今の私は違います。私はアナタのことを……殺したいほど、愛しているんです!」
興奮した様子のままにそう言うと同時に、ライナは俺の胸に見えない刃を突き立ててきた。そして、そのまますぐにライナはそれを引抜く。
「ぐ……うえっ……」
鋭い激痛と共に、血が口から吹き出す。しかし、ライナはお構いなく、今度は俺の頭にナイフを突き立ててくる。
「アレン! 好きです! 愛しています!」
そんな嬉しい告白の言葉を何度も聞きながら……俺は出血多量で絶命したのだった。