管理番号1番:「し、ねる」男③
俺は俺自身が置かれている状況、そして、あのライナという不思議な女性が俺に何をさせようとしているのかを見極めるためにも、ライナの後を追った。
俺とライナは薄暗い廊下を歩いていた。
廊下も石畳……それがどこまでも続いている。一体ここはどこなのだろう?
少なくとも、俺が暮らしていた村の近く……ではなさそうだ。
だが、ライナとは会話することが出来る……言葉は一緒だということは、同じ国内ということだろうか?
「なぁ……ここって一体どこなんだ?」
俺がそう訊ねると、ライナは振り返った。
「禁忌倉庫です。そう説明したはずですが」
「あ、いや、そうなんだけど……俺が暮らしていた村からは近いのかなぁ、って……」
「残念ですが、組合の規定で、アナタにはここが禁忌倉庫である事以外の情報を教えることはできません」
そう言うと、再びライナは歩きだしてしまった。
ここがどこだかわからない……一体どこなんだろうか?
それから、俺とライナは黙ったままで歩いていった。
しばらくすると、廊下の向こうに小さな光が見えてきた。
「あれ……光……」
ライナは何も言わずに光に向かって歩いて行く。俺も同様にその後ろについて行った。
そして、そのまま光に近づいていくと、それが松明の灯りだということが理解できた。
松明の灯りが壁にかかっている……その先にも長い廊下が続いていた。
しかし、廊下を挟む片側の壁には、無数の扉が並んでいる。分厚い鉄製の扉だ。
「ここが、保管区域です」
ライナはそう言って扉を見回している……それこそ、全ての扉がきちんと閉まっているかどうかを確認するかのように。
「管理番号1番。アナタには順番にこの扉の中にある危険存在の点検を行ってもらいます」
「え……順番にって……いくつあるんだよ?」
俺は廊下の向こうまで……というか、先が見えない廊下と、無数の扉を見て思わずそう言ってしまった。
「わかりません。新たに保管される危険存在もありますから。ですが、これが私とアナタの仕事です。アナタが危険存在を点検し、私がその危険度を判断する……全てやり終える必要があります」
「なんだよそれ……俺が何か悪いことでもしたのかよ……」
思わず泣きそうになってしまったが……ライナは同情してくれなさそうだった。
「やめますか? その場合は、アナタもこの区域に移動となります。管理番号も変更となります」
「……わかったよ。やるよ。けど……」
「けど? なんですか?」
「……もうわかったから。今日は部屋に戻らせてくれ」
俺がそう言うと、ライナは少し考え込んだ様子を見せたが、小さく頷いた。
「申請を許可します。アナタには死亡という概念はありませんが、精神衛生上的にも健康である必要があります」
「……ありがとう」
正直、全然お礼なんて言いたくなかったが、俺はそう言った。
結局、俺とライナはもと来た道を戻って、俺は部屋に戻った。
「では、適当な時間に就寝して下さい。明日から業務開始となりますので」
「……なぁ? 一つだけ聞いていいか?」
俺がそう言うとライナは少し目を丸くしたが、すぐに元の無表情に戻った。
「許可します。なんでしょう?」
「君も……俺と同類なのか?」
俺がそう言うとライナの顔が少し曇った。そして、まるで機嫌を損ねてしまったかのように、俺に背を向ける。
「私は管理者です。アナタとは、違います」
それだけ言って、ライナは扉を閉めてしまった。俺は試しに扉を開けようとしてみるが……ダメだった。
「はぁ……俺、何か悪いことしたかなぁ」
今一度俺はそう言ってベッドに寝転ぶ。
もしかすると、俺はとっくに死んでいて……これが俺にとっての地獄なのかもしれない。だとすると、あのライナは地獄の看守的な……
「地獄の看守にしては……綺麗だよなぁ」
思わずそんなことを呟きながら、俺は再び就寝することにしたのだった。