管理番号12番:「誰か」からの手紙 ①
管理番号12番・簡易名称:「誰か」からの手紙
概要:管理番号12番は、西部連邦のとある海岸に、定期的に打ち上げられる小瓶の中に入った手紙です。
管理番号12番を発見すると、発見した対象者は小瓶の中に入った手紙を見るようになります。小瓶はかなりの年代物で、中に入っている手紙の紙質もかなり古いものであることがわかっています。
手紙には、手紙の差し出し主が誰かとの文通を求めて手紙を出したこと、そして、手紙の返事を求めていることが書かれています。
発見者は手紙の返事として小瓶の中に返事を書きます。すると、次の日には、同じ小瓶に入って手紙が海岸に打ち付けられます。
これは返事を返さなくなるまで続きます。小瓶はいつも同様のものであり、手紙の筆跡も同一人物のものであることが確認できています。
点検行為では、手紙の返事をし続けるとどうなるかまでを点検行為として実施するようにして下さい。
「……海だ」
保管部屋の中に入ると共に、俺は潮の匂いに包まれた。
実際に太陽も存在するし、完全にここは禁忌倉庫の外であることが理解できた。
目の前にあるのは海……あまりのことに俺は言葉を失ってしまった。
『魔術による空間転移です。そこは実際の海岸の一部ですが……一定の場所からは出ることが出来ないので、逃走は考えない下さい』
耳からライナが忠告してくる聲が聞こえる。俺はやれやれと思いながら辺りを見回す。
「……で、どれが危険存在なの?」
『管理番号1番。目の前に小瓶が落ちていませんか?』
「え……あ、ああ。これか」
確かに小瓶が波打ち際に打ち寄せられている。俺はそれを取り上げ、太陽の光に照らす。
「……なんか、紙みたいなのが入っているな」
『それを取り出して読んで下さい』
俺は言われるままに瓶の蓋を開けることにした。少々硬かったが、なんとか瓶の蓋を開けることに成功する。
そして、中の古ぼけた紙を手にして、文字を見る。
「えっと……『私は島にいます。誰か助けてください』……って、おいおい! これ……救難の手紙じゃないか!」
俺は慌ててしまう。しかし、耳元ではライナのため息が聞こえる。
『ええ。ですが、それだけではどこの島にいるのかもわかりませんね』
「あ……でも! とにかく助けにいかないと……」
『……では、その手紙に返事を書いて下さい』
「……はぁ?」
俺は思わず唖然としてしまった。返事を書く? そんな悠長な事を言っている場合ではない。
「ライナ……そんなことして何になるんだよ! 早く助けにいかないと!」
『管理番号1番。命令です。返事を書きなさい』
ライナの口調が強くなる。俺は渋々、事前にライナに持たされた紙とペンで仕方なく返事を書いた。
「『俺はアレン・アークライト。島というのは、どこですか? 助けに行きます。漂流してからどれくらい経っていますか? 水や食料はありますか?』……これでいいか」
『書きましたか? では、瓶に詰めて海に流して下さい』
……こんなことして何になるのだろうか。俺は疑問で胸がいっぱいだったが、ライナに言われたとおりにした。
『では、一度目の点検は終了です』
「え……これ、何度かあるの?」
『はい。管理バング12番はそういう特異性があるもののようですから。ちなみにその手紙は危険存在ではないので、持ち帰っても構いませんよ。お疲れ様でした』
そう言ってライナの声は聞こえなくなる。俺は波の音を背中にして、部屋を出ると、今一度先程手に入れた、古ぼけた紙をまじまじと見つめる。
「……あんまり時間が経っていないといいんだけどな」
俺はそう言いながら、手紙を懐にしまって、部屋に戻った。




