管理番号11番:幼気な少女 ③
「……管理番号1番。何をしようとしているのですか?」
ライナは怒りを抑えながらも俺にそう訊ねる。
俺は少し迷ったが、隣の少女を見る。少女は不安そうに俺のことを見ている。
……ここで、俺が引き下がったら、この子はどうなる? 俺がこの子を守らなければいけないのだ。
「……どいてくれ。俺は……この子を助けないと」
「管理番号11番をこの保管部屋から出す権限は、アナタにはありません。今すぐその行為を中止しなさい」
「でも……」
俺は今一度女の子を見る。女の子は涙を浮かべて俺のことを見ている。
「……ライナ。見てくれ。この子……今にも泣き出しそうだ。君は……そんな子どもをほうっておくのかい?」
俺が尋ねてもライナは女の子を見ようともしない。その代わりに小さくため息はついた。
「……では、点検を実施して……みましょうか」
そして、小さな声でそう言った。
「え……ライナ、何言って……」
「……汝の刑は極めて重く、死でも償うことはできない」
と、いきなりライナは意味の分からない事を言いだした。俺は呆然とライナを見る。
「……管理番号11番。どうですか?」
そう言ってからライナは女の子を見る。俺は意味がわからなかったが……同様に女の子を見る。
「……けっ。なんだよ。姉ちゃんは、知ってやがったのか」
と……俺は思わず唖然としてしまった。おおよそ、小さな女の子が言いそうにないような汚い言葉使い……
「え……今、なんて……」
「……ほら。終わりだよ。兄ちゃんもいつまで手掴んでんだよ。気持ち悪いな」
そういって女の子は俺の手を乱暴に振りほどいてきた。俺は呆然としたまま女の子を見る。
女の子は不機嫌そうな顔でそのまま部屋の中央に行き、ドカリと腰を下ろした。
「ほら。いつまで突っ立ってんだよ。終わりだよ。出ていきな」
一体何が起きているのか……俺はわからないままにライナを見る。
「管理番号1番。部屋を出ましょう」
ライナに言われるままに俺は部屋を出る。
「え……ライナ。一体何が……」
俺がそう訊ねるとライナは少し考え込んでから先を続ける。
「そうですね……組合に確認をとってはみますが……おそらく、管理番号11番は見た目と中身が一致しないのでしょう」
「見た目と中身が……一致しない……」
俺がそう繰り返すとライナは今一度頷いてから、鋭い瞳で俺を見る。
「ええ。それも問題ですが……管理番号1番。私は確かにあの時、これ以上の違反行為はやめなさい、と言いました。ですが、アナタはそれを無視しましたね」
「あ……ご、ごめん」
「ここでの違反行為はアナタの生命の危機だけでなく、組合にも大きな損害を引き起こす可能性があります。今後は自重して下さい」
「あ、あはは……ごめん。どうにも、死んでも生き返るってわかっていると、あんまり慎重になれなくて……」
俺がそう言うとライナは今一度鋭い瞳で俺を見る。
「管理者として、アナタが不必要に死亡するのは避けたい事項です。そのように楽観的な言い方はやめてください」
そのライナの物言いはとても真剣で……さすがに俺も申し訳なくなってしまった。
「あ……ごめんなさい」
「……部屋に戻って下さい。また明日、点検行為をお願いします」
そう言ってライナは行ってしまった。
なんだか……未だに状況が飲み込めていないのもあるけど……
「……なんだかライナに悪いことしちゃったかな」
何となくそう思いながら、俺は部屋に戻ることにしたのだった。
点検結果:管理者報告
管理番号11番の危険度判定:中度~重度
理由:管理番号11番の特異性が不明瞭である。報告書に書かれていない特性を持っている可能性あり。報告書の改訂を望む。
追加資料:魔術師組合からの改訂報告書・返答
概要:管理番号11番は少女の見た目をしています。
ですが、組合の追加調査の結果、彼女は南部王国のとある村にて、村民が傾倒していた邪教の儀式の際に一度殺害されていることがわかりました。儀式の際には村で占い等の役目を担い、巫女の役目を担っていた彼女の他に、村の畑を荒らして村民に暴力を奮っていた50代の男も殺害されています。殺害されたはずの管理番号11番がなぜ生存しているのかは不明ですが、組合員が儀式に参加した村民の1人に特殊な尋問方法を行った所「邪悪なる者の魂を聖なる器に入れることができたので、浄化できているはずだ」と言っていました。管理者は引き続き、管理番号11番の行動に注意して下さい。