管理番号11番:幼気な少女 ②
『それで、管理番号11番の様子はどうですか?』
「え……どうって……」
怯えた様子で管理番号11番……小さな少女は、俺のことを見ている。相変わらず部屋の隅で縮こまっているだけだ。
「……完全に怯えちゃっているけど」
『そうですか……アナタに何か異常は?』
「え? 俺? 俺は、特に……」
俺がそう言うと、目の前の少女が少し俺の方に近づいてきた。何か言いたそうである。
「ん? どうしたの? 何か言いたい?」
「あ……こ、ここは……どこ?」
と、考えてみれば至極当たり前のことを、少女は言った。
「え……あ、ああ。ここは……そうだな。俺にもよくわからないな……」
俺は思わず申し訳ない気持ちで一杯になってしまう。そうだ……俺自身もこんな場所に閉じ込められているが、俺はこの場所の事を何もわかっていないのだ。
「ひっく……ぐすっ……おウチに帰りたいよぉ」
いきなり女の子は泣き出してしまった。それはそうだろう。こんなわけの分からない場所に閉じ込められていては……
その時、俺の中にある感情が唐突に芽生えた。
この子を助けなければいけない……それは至極当たり前の感情だった。
「……なぁ、ライナ」
泣いている女の子を前に、俺はライナに話しかける。
『はい。どうしましたか?』
「えっと……この子は……解放してあげたら?」
俺は少し悩んだが……そう言ってしまった。
暫くの間ライナの言葉が無くなる。
『……なぜ、そう思うのですか?』
重々しい調子でライナは俺にそう言った。
「え……だって、可哀想じゃないか……こんな年端も行かない女の子……危険なんて何もないよ」
『理由になっていません。なぜ、アナタはこんな短時間でその子に対してそこまでの感情を持つようになったのです?』
ライナの言っている意味がわからなかった。俺が間違っているのか? 俺は正しい事を言っているような気がするが……
「お家に帰りたいよぉ!」
と、女の子が大きな声でそう泣き叫んだ。そうだ……俺はこの子を家に帰してあげないと……
「ライナ! いい加減にしろ! こんな小さな女の子を虐めて何が楽しいんだ!」
『……虐めてなどいません。管理番号11番は、禁忌倉庫に収容されて当然の存在です』
「ライナ……話がわからないな……もう良い! この子は俺が助ける!」
俺はそう言って、女の子の方に笑顔を向ける。先程まで泣いていた女の子も少し目を丸くして俺の方を見る。
「おいで。ここから一緒に出よう」
『駄目です。管理番号1番。そのような行為は禁じられています』
ライナの声なんて聞こえなかった。俺がこの子を助ける……それが俺の使命なのだ。
俺が手を伸ばすと、女の子は恐る恐る手を伸ばしてきた。
そして、小さな指が俺の手に触れる。
「フフッ……大丈夫。俺がこんな場所から連れ出してあげるから」
俺がそう言うと女の子は安心したようで、天使のような笑みを見せてくれた。
俺は女の子の手をつかみ、そのまま扉の方に向かっていく。
そして、扉の前に立った……丁度その時だった。
扉が開き、その先に立っていたのは……
「……ライナ」
怒りの形相を露わにして俺と女の子を睨む、ライナの姿があったのだった。




