定期報告:管理番号1番との交流(1回目) ②
「……え? ここは?」
俺は思わずそう言ってしまった。
ライナに支持されて俺は管理区域の廊下を歩かされた。
その廊下対してもいくつも鉄製の扉があって……俺は途中で数えるのをやめた。
何分歩いたからわからなくなった辺りで、俺は目の前に階段を発見した。
ライナは俺に対してその階段を上がれと指示する。これまた何段あるのかわからない階段だったが……俺はとにかく一歩ずつ上がっていった。
そして、目の前には鉄製の扉……俺はそれをゆっくりと開いた。
そこで、俺は見たのだ。
「……森?」
目の前にあったのは……生い茂る木々だった。
「はい。森です」
ライナは特に珍しい感じではなく、俺にそう言った。
「え……禁忌倉庫の周りって……森なの?」
「そのようです。どうしましたか? 行かなくて良いのですか?」
なんだか妙に引っかかる言い方だったが……俺はとりあえず森の方に向かって歩いてみることにした。
ライナもそれについてくる。それを意識すると首に嵌っている首輪のことが思い出されてしまう。
俺はあまりリラックス出来ない気持ちのままに、森へと足を踏み入れていった。
森の中は……静かだった。良く言えば平穏なのだが……なんというか、生き物の気配さえしなかった。
「どうですか? 外は」
ライナに言われて、俺はせっかく外出しているのだということを思い出す。
「あ……ああ。まぁ……部屋の中よりかはいいかな」
「そうですか。私にとっては、あまり変わりませんが」
ライナはつまらなそうにそう言う。
「え……ライナはその……ずっとあの禁忌倉庫の中にいてもいいわけ?」
俺がそう言うとライナは少し不思議そうな顔で俺のことを見る。
「奇妙なことを聞きますね。私の役目は禁忌倉庫の管理者ですから。禁忌倉庫にいることこそが私の望みです」
「え……でもさぁ、何処か別の場所に行きたいとか……そうは思わないの?」
俺がそう聞いてもライナはあまり俺の言葉を理解できないようだった。まぁ、ライナにはライナの考えがあるんだろうけど。
「……管理番号1番。アナタはそう言いますが、アナタは禁忌倉庫に来る前は200年以上同じ場所に留まっていました。何処か別の場所に行きたいとかは思わなかったのですか?」
と、ライナが逆に俺にそう聞いてきた。言われてみれば……人のことを言えた立場ではないか。
「え……あはは。まぁね。でも俺が住んでいた場所も……ここに少し似ているよ。静かで森があって……でも、その森では鳥の声とか、風の囁きとか……そういう音があったかなぁ。ここはちょっと……静かすぎるかな」
俺がそう言うとライナは興味深そうに俺の事を見ていた。俺は……なんか変な事を言っただろうか。
「……戻りたいのですか。元の場所に」
「え? あ、ああ……そりゃあ、まぁ……」
俺がそう言うとライナは別に怒るわけでもないようだった。ただ、少し悲しそうな顔をして俺のことを見る。
「いいですね。戻る場所があって」
「え……ライナ。それって……」
そう言うとライナはいつものような無表情に戻る。
「管理番号1番。まだ外にいたいですか?」
「え……あー……いや。いいよ。部屋に戻るよ」
俺がそう言うとライナは俺の側に近寄ってきた。一瞬何をするのかと身構えてしまったが、ライナは俺の首元に手を近づける。
と、ライナが首元に手を近づけると、首輪が独りでに外れた。
「え……ライナ……」
「さぁ、管理番号1番。これで首輪に効力はなくなりました。アナタが本当に戻りたい場所に戻りなさい」
そう言ってライナは俺に背を向けて言ってしまう。その背中はとても寂しそうで……方っておけないというか……そんな気持ちにさせる背中だった。
俺は黙って、ライナの後を付いて行くことにした。俺がついてくるのに気付くとライナは俺の方を一度だけ見て……また前方を向いた。
結局、俺は元の辛気臭い部屋の中に戻ってきてしまった。
「では、管理番号1番。また明日からよろしくお願いします。それにしても、この部屋を選択したのは良い判断でした」
俺の部屋までついてきたライナは俺にそう言う。
「え……どうして?」
「あの森には高度な魔術が施されています。おそらく、抜け出そうとしても抜け出せず、永遠にあの森の中を彷徨うことになるでしょうね」
そう言ってライナは俺の部屋から出ていってしまった。
俺は思わず大きくため息をついてしまった。
「ほんと……可愛くないなぁ……」
苦笑いしながら俺は思わずそう呟いてしまったのだった。
管理者記録:管理番号1番
精神状態:おおむね良好
詳細:逃走する気配なし。危険存在に接触していない状態では、精神状態も安定し、禁忌倉庫での生活にも慣れた様子。




