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禁忌倉庫の管理記録  作者: 松戸京
管理番号1~10
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管理番号10番:意志になる石

管理番号10番・簡易名称:意志になる石

概要:管理番号10番の容姿は自然界に存在する岩石と変わりません。

ほぼ手のひらサイズの大きさであり、手にして移動することが出来ます。

管理番号10番を手にした対象者は、管理番号10番を握り、自身の意思を込めます。

すると、管理番号10番は岩石ではなく、人間の感情が込められた「意思」へと変化します。意思が込められた管理番号10番は、自然界の岩石としては認識することができなくなります。

意思に変化した管理番号10番は、他の人間が握ることで、その意思を伝達します。伝達のメカニズムはわかりませんが、意思を伝えると、管理番号10番は再び岩石として認識できるようになります。

「……石?」


 部屋の中にあったのは……小さな石だった。


『はい。それが今回の危険存在です。といっても……そこまで危険ではないのですが』


 ライナが少し面倒くさそうな声でそう言う。危険ではない……点検する必要はあるのだろうか。


「えっと……それで、どうすればいいの?」


 俺がそう言うとライナは少し黙った後で先を続ける。


『手に持って下さい』


 俺は少し躊躇ったが……石を手にした。


 普通の石だ。軽くもなく重くもない。


「持ったよ。で?」


『石に対してこう……何か祈って下さい』


「……は?」


 意味がわからず、俺は思わず訊ね返してしまう。ライナはまた暫くの間沈黙していた。


『そうですね。今のは言い方が悪かったですね……簡単に言ってしまえばその石に、何か……私に言いたい思うを込めて下さい』


「え……ライナに?」


『はい。なんでもいいですよ。私に対する憎悪や文句……その思いを石に込めてください』


 ライナはそう言ったが……俺は困ってしまった。


 ライナに対する思い……そして、ライナ自身、俺がライナに対して怒りや憎しみの感情を持っていると完全に認識されているようだった。


「……やらなきゃ、ダメ?」


『はい。命令です』


 俺は逆らえないようだった。仕方なく俺は石を見つめ、ライナへの思いを込める。


 ……といってもそれは難しいことだった。しかし、今俺がライナに対して思っていることを強く念じた。


「……ん? なんだこれ?」


 一通り念を込め終わると、俺は思わず驚いてしまった。


『どうしましたか? 管理番号1番』


「え……あ、いや。なんか……俺が持っているのは石じゃなくて……」


 俺は戸惑ってしまい、ライナに上手く説明できなかった。


『……あなた自身の意思……に見えますか?』


「え……あ、ああ。そうなんだけど……」


 よくわからないが……俺は握っているのは俺の感情が込められた「意思」だということは、俺には理解できた。


『……わかりました。意思ヘ変化したことを確認しました。管理番号1番、部屋を出て下さい』


「え……いいの?」


『はい。点検は終了です。お疲れ様でした』


 ライナがそういうので、俺は仕方なく俺自身の「意思」を部屋の床に置くと、そのまま扉を開けて出ていった。


 その後、俺は自身の部屋に戻る。ベッドに寝転がり、適当に天井を見上げていた。


「管理番号1番。入りますよ?」


 ノックと共にライナの声が聞こえてきた。俺は起き上がる。


 と、ライナが部屋に入ってきた。手には……石が握られている。


「あれ……それって……」


「はい。管理番号10番です。アナタにはもう普通の石に見えますか?」


「あ、ああ……えっと……どういうこと?」


「管理番号10番は、人に自分の意思を伝達する意思なのです。そして、アナタの意思を私は理解しました」


 そう言われた途端……俺は石に込めた意思を思い出し、とても恥ずかしくなってしまった。


「あ……いや、ライナ、その……」


「……残念ですが、アナタの申請……『私に自分のことを、名前で呼んでほしい』というのは……却下します」


 しかし、ライナは淡々とそう言った。言われてみれば……そうか。俺はなんだか恥ずかしいと思った自分自身が恥ずかしくなってしまった。


「あ、あはは……だよね」


「ええ。とにかく……管理番号10番の点検はこれで終了ですので……お疲れ様でした。アレン」


 そう言ってライナは俺の部屋を出ていった。


「……へ? 今ライナ、俺のこと……」


 なんだかいまいち現実にあったことなのか認識できず、俺は呆然としながらライナが去った後の部屋で立ち尽くしていたのだった。

点検結果:管理者報告

管理番号10番の危険度判定:軽度

理由:特に問題なし。危険存在として扱うべきなのかも疑問が残る。

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