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禁忌倉庫の管理記録  作者: 松戸京
管理番号1~10
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管理番号9番:ここでないどこかへ

管理番号9番・簡易名称:遠い場所へ

概要:管理番号9番は、魔術的素養によって発生した異常結界です。これまでは東部帝国の辺境の小屋に、結界として存在していました。

管理番号9番は、保管部屋そのものが管理番号9番となっています。管理番号9番の保管部屋に入ると同時に、対象はどこまでも続くような草原に存在するようになります。

草原の先に進むに連れて、どこまでも先に行きたいという欲求が強くなります。既に組合では、今までに12人の人間が、管理番号9番の彼方にまで行ってしまい、行方不明になったことを確認しています。

点検行為の際は、管理番号1番に管理番号9番の彼方には何があるのかを報告するようにして下さい。

「……なんだここは?」


 俺は部屋に入った瞬間から違和感を感じていた。


 部屋に入った瞬間、俺はなぜか草原の上に立っていた。


 見たことのない景色……先程までの場所とあまりにも違いすぎる。


『管理番号1番。聞こえますか?』


 ライナの声が聞こえてくる。


「あ、ああ。ここは……禁忌倉庫の中なの?」


『はい。ですが、そこは魔術によって生み出された結界です』


「結界……幻みたいな?」


『……そのように理解してもらって構いません。何か異常は?』


 そう言われて俺は自身の身体、精神に異常がないか確認してみる。


「……特に何もないけど」


『けど……なんですか?』


「……草原の向こうに行きたい」


 俺はありのままの気持ちを言ってみた。ライナの言葉が聞こえなくなる。


「ライナ? 行っていいの?」


『……わかりました。おそらく、私との会話も続けられると思います。実際に行ってみて下さい』


 ライナの了承を受けて、俺は草原の向こうに行くことにした。


 しかし……向こうに行くと言っても不思議な気分だった。


 そもそも、草原の向こうには何も見えない。行った所で何かが有るという保証はない。


 それなのに、俺は歩みを止められなかった。


 まるで何かに引き寄せられるかのように……俺はどんどん足を進めていく。


『管理番号1番。かなりの時間歩きましたが……疲れていませんか?』


「え?」


 耳元から聞こえてきたライナの声で俺は我に返る。


「かなりの時間って……どれくらい?」


『え……既に2時間程経っていますが……』


 少し不安そうな調子でライナはそう言う。


 2時間……体感時間では5分程度だ。まったく、そんなに歩いた感じではない。


 足は疲れていないし、まだまだ、どこまでも歩いて行く事ができる気持ちだ。


「あ、ああ。大丈夫。まだまだ歩けるよ」


『そう……ですか。ですが……草原の向こうには何が見えますか?』


「え? いや……何も見えないけど……何かあるんじゃない?」


 俺がそう言うとライナは黙ってしまった。なんだろう……ライナは俺がこれ以上歩くのを酷く心配しているような……


『……わかりました。もう少し歩いてみて下さい』


「あ、ああ。わかった」


 そして、俺はもう少し歩く。まだまだ歩けそうだ。


 この場所では時間が経過するということはないのか、空もずっと天気の良い快晴だ。気分が良い。


 草原の向こうには何もないかもしれない……だけど、行ってみたいのだ。


 まるで旅人のような気分になりながら、俺はひたすら歩いた。


「……はぁ。さすがに疲れたな」


 といっても……それから体感時間では30分程歩くと、さすがに疲れてしまった。


「……ライナから連絡、ないな」


 実際、まだまだ歩けることは歩けるのだが……どうにもライナの態度が気になった。


 俺は後ろを振り返る。


「……ん?」


 見ると、背後に小さな影が見える。影は俺に向かって走ってきている。


「あれって……ライナ?」


 見ると、それは黒い影で……大きく肩を上下させながらこちらに走ってくるライナだった。


「か……管理番号1番……良かった……」


「ライナ……どうして、ここに?」


 俺がそう言うと信じられないという顔で俺を見る。


「アナタは……既に12時間以上、私に連絡を寄越さなかったのですよ?」


「え……12時間……で、でも! 俺はまだ30分くらいしかこの場所にいないと思うんだけど……」


 俺がそう言うとライナは青い顔をする。そして、考え込むように腕を組むと、俺の腕を掴んで歩き出した。


「え……どうしたの?」


「この場所は……非常に危険です。早く戻りましょう」


「な、なんで? 何が危険なの?」


「……確証はありませんが、ここは時間の流れが狂っています。ここでは5分は、外での2時間……ここでの1時間は外での24時間です」


「え……じゃ、じゃあ……」


「はい。早く戻りましょう。私達がこの場所に長く居すぎると、元の時代に戻れなくなります」


 そう言ってライナは足を早め、俺もそれに続く。


 結局、それから30分で俺たちは鉄製の扉の前に戻ってきた。


「良かった……戻れて」


「あ、ああ……」


 そういってライナは俺の方を見る。ライナは鉄の扉を開けながら、俺の方に顔を向けた。


「あ……一つ、覚悟してもらいたいことが」


「え? 何?」


 ライナが扉を開けて外に出る。俺もそれに続いた。


「えっと……既に外では24時間経っています。つまり、管理番号1番。アナタは外に出ると同時に……」


 ライナがそう言い終わらない間に、俺は床にぶっ倒れた。


 24時間……それはまさしく俺の活動限界。


 俺は薄れ行く意識の中で、もしあの場所に24時間いたら、外の世界では一体何時間……何日経っているのかな、なんてことを思いながら、そのまま意識を失ったのだった。

点検結果:管理者報告

管理番号1番:管理番号9番の部屋を出ると同時に、死亡。

管理番号7番の危険度判定:重度。

理由:特異性は「どこかに行ってしまいたい」と思わせるだけでなく、その時間の流れが狂っているため。魔術的要素が複雑に絡み合っている可能性が考えられる。誤って管理番号9番の中に入ってしまうのは避けるべきである。

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