管理番号1番:「し、ねる」男②
「……ん?」
……いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
俺はベッドから起き上がり周囲を見回す。
「……あれ、ここは……あ! そういえば……」
瞬時に俺は思い出す。俺は……殺されたのだ。いきなりわけのわからないやつに。
しかし……
「……ない」
傷跡はない。というか、服にも血痕の後さえ残っていない。どういうことだろうか、俺は確実に死んだはずだと言うのに……
と、そこへコンコンと扉をノックする音が聞こえてきた。俺が返事をする間もなく、扉が開く。
「どうですか? 気分は」
そう言って入ってきたのは……俺を刺殺した張本人、ライナだった。
「き、君……一体どういうつもりで……」
「どういう……ですか。確認のため来ただけですが」
「確認……?」
俺がそう訊ねると、ライナは小さく頷く。
「ええ。どうやら……少し報告書には不備があったようですね」
難しそうな顔をしてライナは俺のことを見る。
「不備……だって?」
「ええ。管理番号1番。アナタは確実に私が刺殺しました……ですが、アナタはまったくの健康体で……いえ、それどころか、アナタの服には血痕さえ残っておらず、ベッドの上に眠っていました」
「え……あ、ああ……たしかに」
「つまり、アナタは毎日生と死を繰り返しているのではなく、正確にはアナタの死は、アナタの意識が一時的にでも途切れた際に、死亡に関わる原因自体、無かったことにされる……つまり、アナタは死の概念そのものを持ち合わせない存在なのですね」
興味深そうな目つきでライナは俺にそう言う。そう言われても……俺はあまりうれしくなかった。
「要するに……俺は絶対に死ねないってことか?」
「そうですね。おそらく自然界に存在する事象では、アナタを完全に死亡させることはまず無理ですね。ですが……禁忌倉庫にはアナタを完璧に死亡させるような危険存在も保管されている可能性があります」
真面目な様子でそういうライナ。よくわからなかったが、俺が監禁されているこの場所には、意味の分からないものがたくさん保管されているらしい。
「で……お前は俺に、その俺を死亡させるかもしれない危険な存在の実験台になってほしい、ってことか?」
「私、ではありません。これは組合の決定ですから」
そう言うとライナは扉を大きく開き、俺に手招きをする。
「管理番号1番。アナタには未だ不確定事項が多く存在していますが……私の権限で、現在よりアナタを禁忌倉庫の点検係に任命します」
「任命って……俺のことを殺しておいて……謝罪もないの?」
俺が不満そうにそう言うと、ライナは不思議そうな顔をする。そして、少し面倒くさそう顔を歪める。
「残念ですが、アナタは職務を放棄することはできません。私がアナタを刺殺するのは、必要な職務でした。もし、職務に対して不満がある場合は、私の権限でアナタを解雇することもできます」
「解雇……それって、開放してくれるってことか?」
俺が思わず身を乗り出してそう聞いても、ライナは無表情で俺を見る。
「違います。係としての職務を放棄した場合は、アナタにも他の危険存在と同じように、厳重な管理をすることにします」
「え……ちょっと待て……厳重な管理って……俺、今監禁されているんだよな? 十分厳重に管理されている気がするんだけど……」
「いいえ。アナタ以外の危険存在は、私との会話は禁止されています。アナタはアナタ自身の特異性から私との会話を許可されているのです」
そう言うとライナは俺に背を向けて歩きだす。
「説明するよりも実際に見たほうが早いでしょう。保管区域にご案内します」
そういってライナは歩きだしてしまった。点検係……どう考えても危険そうな響きの言葉に俺はまったく納得できなかったが……
「……とにかく、行ってみるか」