管理番号7番:吸血花 ③
「管理番号1番。調子は……」
ライナがようやく俺の部屋に入ってきてくれた。
「ああ、ライナ! 見てくれ! こんなに綺麗に咲いたんだよ!」
俺は思わず自慢したくてライナに自分の右腕から生えている植物を見せつけてしまう。
植物は真っ赤な花を付けている……俺が今までの人生で見てきた中でも1番綺麗な花だ。
「あ……そうですね。随分、成長しましたね」
「え……反応悪いなぁ。でも、綺麗だよね?」
ライナの素っ気ない反応に俺は少し苛ついたが……まぁ、放っておくことにした。
どうせ、この花の美しさは俺にしかわからない。わからないやつにはわからにままにしておけばいい。
「それで……管理番号7番は十分に成長しました。花まで付けるのは報告書にもありませんでしたので、おそらくここまで成長させたのは、この事例が初めてでしょう」
「本当? へへへ……じゃあ、俺がこんな綺麗な花を初めて見たんだ……」
俺は思わずうっとりしてしまう。俺が……俺だからこそ、この花を咲かせることが出来た……そう考えると、この上ない満足感が身体を巡る。
「では、そろそろ切除しましょうか」
「……は?」
俺はライナが何を言ったのか……理解できなかった。今なんて言ったんだ? 切除……切除って切り取るってことだよな? 何を切るんだ?
「管理番号7番に対する点検は十分です。ですから、そろそろアナタの腕から切り取りましょう。血液を栄養としているようですし、切り取れば成長はしないはずです。それに、これ以上はアナタの身体にも影響を及ぼす可能性がありますから……聞いていますか? 管理番号1番」
……切り取る。そう言った。間違いなくそう言った。
俺の腕から花を切る……ふざけるな。これは……俺だけの花だと言うのに。
「……嫌だ」
「はい? なんですか、管理番号1番」
「嫌だと言っているんだ! この花は俺がいないとダメなんだ! 俺がずっと育てる!」
俺がそう言うとライナはムッとした顔で俺を見る。そんな顔で見たって、俺は絶対に妥協しない。
「……アナタに拒否権はありません。さぁ」
そう言って、ライナはナイフを取り出す。この花を切られるくらいなら……俺がライナを殺してでも護る必要がある。
俺はライナからナイフをひったくり、そのままその切っ先をライナに向ける。
「……何の真似ですか。管理番号1番」
「これ以上俺の花を切ろうって言うのなら……お前を殺すぞ!」
俺がそう言うとライナは呆れ顔で俺を見る。そして、大きくため息をついた。
「わかりました。そこまで言うのならば無理にとは言いません」
「え……いいの?」
「はい。ですが……後で大変なことになるのは、アナタですからね」
そういって、ライナは不機嫌そうに眉間に皺を寄せて俺の部屋から出ていってしまった。
「……ふぅ。良かった」
俺はそう言って今一度花を見る。こんなきれいな花を切ろうだなんて……ライナには自然と愛でる心とか、ないのだろうか?
「それとも……お前に嫉妬しているのかな?」
俺はそう言って今一度自らの右腕に生える美しい花に話しかけた。
結局、その日ライナは二度と部屋に来ることはなく、俺は平穏な気分で花を愛でる事ができた。
そして、夜になると俺は平穏な気持ちで眠りについた。
(……ん? なんだ?)
それから少しして俺はなんだか身体に違和感を感じた。
体全体が縛られているというか……窮屈なのだ。おまけに口の中にも何かが詰められているような……
「……ぐがっ!?」
俺は目を開けて……驚いた。
見ると俺の右腕に生えていた植物は……かなり巨大化していた。俺の身長の二倍以上の大きさだ。
そして、その根本からは無数の根っこが生えている。それは俺の腕だけでなく、俺の体全体に伸びている。
「んぐっ!? んごっ!?」
口の中にまで根が入ってしまっていて、俺は喋ることも出来ない。
……そして、俺は次の瞬間、理解した。
仮にこのまま意識を失っても、この植物のことを俺の身体は「害悪」と認識しない……つまり、俺はコイツにとって、永遠に死と生を繰り返す最適の栄養分になってしまうのである。
「んぐっ! ぐがっ!」
しかし、既に身動きさえ取れない。真っ赤な花はまるで俺という栄養分を得たのが、嬉しくて仕方ないというふうに誇らしげに咲いている。
ああ……俺が間違っていた。ライナの言うとおり、俺は……
その時だった。部屋の扉が開く。
「……やはり、こうなりましたか」
呆れ顔でライナが俺の部屋に入ってきた。手には……松明を持っている。
(ライナ……来てくれたのか)
俺が安心しているとライナは松明を持ったままで俺の方に近寄ってくる。
「安心して下さい。この部屋も保管区域の部屋と同様、高度な魔術防壁に守られていますから、多少の火災ではこの禁忌倉庫全体には広がりません。ですから、安心して……焼死して下さい」
「んぐっ!?」
俺が安心しているのもつかの間……ライナはとんでもないことを言い出した。
そして、あっという間にライナは松明の火を、植物の根っこに点火したのだ。
「んがっ!? んんんん!!!」
あっという間に火は広まり……植物だけでなく、俺にも迫ってくる。
「命令違反の罰則です。反省して下さい」
不機嫌そうにライナはそう言って、部屋を出ていってしまった。俺はもがきながら燃え盛る炎に焼かれ……そのまま焼死したのだった。
点検結果:管理者報告
管理番号1番:焼死。命令違反の罰則を実行したため。
管理番号7番の危険度判定:軽度。
理由:危険性はあるが、火に弱く、容易に駆除できるため。
補足:点検行為実施後、管理番号1番が、管理者と火を酷く怖がるという後遺症を見せた。




