管理番号7番:吸血花 ②
「う……うぅ……」
俺は結局あれから自室にいるわけだが……どうにも不安な気分だった。
まず、どう考えても右腕である。
右腕がおかしい……というか、右腕の植物が……成長しているのである。
最初は植物の芽だったのに、もう既に葉っぱをつけている。一体何が栄養なのかわからないが……
いや、なんとなく栄養はわかる。どう考えても俺だ。俺の血液だ。
なぜ血液と思うかといえば……赤いのだ。俺の右腕から生えている植物の葉っぱは緑色ではなく、まるでそれこそ血の色のように赤いのである。
こんな不気味なものさっさと引きちぎってしまえばいいと思うのだが……できないのである。
何度も引き抜いたり、ちぎってしまおうと思ったのだが、それをしようとすると、左手が動かないのだ。
それこそ、既に俺の身体自体を、この植物が支配してしまっているかのような感じで、なんだか恐ろしく思えてきた。
「管理番号1番。どうですか?」
扉を開けてライナが部屋に入ってきた。俺はあまり元気なくライナを見る。
「あ、ああ……まぁ、よく成長しているけど……」
「そうですね。かなり早い成長ですね」
ライナは俺の身体よりも、植物の成長に興味があるようで、興味津々で植物の成長を見る。
「えっと……これ、どこまで成長するの?」
「わかりません。ですが、まだ花をつけていないので、もう少し成長するかと」
「花……それって大丈夫なの?」
俺がそう訊ねると、むしろライナは何を聞いているのだと言う感じで俺を見る。
「大丈夫というのは、何がでしょう?」
「……俺が死なないか……いや、なんでもないよ」
まぁ……死んだとしても生き返るからいいか。
そう思ってしまう自分自身がなんだか悲しかったが……実際その通りなので俺はそれ以上は何も言えなかった。
「とにかく、花が咲くまで経過を観察しましょう。それから対応を考えます」
ライナはそう言って俺に背を向ける。まぁ……そりゃあそうだよな。俺は死なないんだから、むしろ、このわけのわからない植物がどういうものかを把握する方が大事だよな。
俺がそう思っていると、扉を出ていこうとするライナが俺の方に振り返る。
「……管理番号1番。本当に体調に異変はありませんか?」
「え……あ、ああ。ただ……」
「……ただ、なんですか?」
俺は言うのを迷ったが……やっぱり言っておくことにした。
「いや……こんな不気味な植物が腕から生えているのは嫌だから、いっそのこと引き抜いちゃおうかな、って思うんだけど……それができないんだよ」
俺がそう言うと怪訝そうな顔でライナは俺を見る。
「……できない、というのは?」
「いや、そのままの意味。自分の身体が言うことを聞かないというか、その気にならないというか……とにかくそんな感じだ」
俺がそう言うとライナは少し考え込むような素振りを見せた後で、何も言わずに部屋を出ていった。
「……しかし、花なんて咲くのかな?」
俺はそう言いながら腕から生えている植物を今一度見る。
どうにも不気味だったが……やはり引っこ抜こうとかそういう気持ちにはならなかった。
そして、実際それから数日後、俺の右腕の植物には綺麗な花が咲いた。
それこそ、血液のような真っ赤な綺麗な花……
「フフッ……お前は綺麗だなぁ……」
その日から自分でも変だと思っていたが……植物に対してやめられないことがまた一つ、増えてしまった。
俺はなぜか、その花に対して、まるで美しい女性を褒めるように、話しかけるようになってしまったのである。




