管理番号6番:被虐の指輪 ③
結局、俺はまだ管理番号6番の保管部屋に閉じ込められていた。
指輪は……本当に外すことが全くできなかった。
外そうとすればするほど、強く、俺の指にはまりこんでしまう。最終的に指から血が出てきた辺りで俺は指輪を外すのを諦めた。
……もしかして、この指輪は……俺が何かヤバイことをするまで外れないんじゃないだろうか、そんな危険な予想が俺の脳裏を過る。
俺は今一度指輪、そして、ナイフを見る。
もし……ライナを殺せば指輪は外すことが出来るのかもしれない。だけど、それじゃあ、意味がない。
無論、どうしてライナを殺さないのかと言われれば……明確な反論はできない。
俺をこんな目に合わせているのは、管理者であるライナのせいでもあるけど……とにかく、ライナを殺害することだけはなんだか間違っている気がしていた。
『管理番号1番』
と、俺の耳元でいきなり声が聞こえてきた。俺は思わず驚いてしまう。
「あ……ライナ……」
『どうですか? 決断してくれましたか?』
「え……いやいや。おかしいでしょ? やっぱり……」
俺がそう言うとライナは暫く黙っている。
そもそもこんな点検行為を始めようと言い出したのはライナなのだが……
『わかりました。では、管理番号6番の部屋で待機していて下さい』
そういって、ライナの声が聞こえなくなる。もしかして……この部屋に戻ってくるのだろうか。
もしそうだとすれば……はっきりと断るしかない。そして、こんなふざけた点検行為は中止してもらおう。
俺がそんなことを考えていると、程なくしてライナが鉄製の扉を開けて部屋の中に入ってきた。
「あ……ライ……ナ……」
俺は部屋に入ってきたライナを見て絶句してしまった。
ライナの右手には……ナイフが握られている。
「え……な、なにそれ?」
俺の質問には答えずにライナを俺の方にやってくる。そして、無表情のままにナイフを振り上げると……そのまま俺の太ももに突き刺した。
「なっ……ぐっ……あぁっ……!」
鈍い……それでいて我慢できないほどの痛みで俺は叫んでしまい、その場に倒れ込む。
「私を殺害出来ないのならば、殺害するまでアナタを痛めつけます」
ライナは無慈悲にそう言った。なるほど……この指輪は中々どうして……最低な存在だということを俺は理解した。
「ら……ライナ……お前は……正常じゃないな……」
俺はなんとか声を振り絞ってそう言う。しかし、ライナは首を横に振る。
「いいえ。管理者として当然のことをしています。アナタは私を殺害し、こんなロクでもない場所から逃走すべきです。ですから、早く私を殺害して下さい」
その返答でライナが正常ではないということは明確に理解できた。
だとすれば……することは一つ。俺がしている指輪をなんとかするしかない。
俺は自分で持っていたナイフを手にすると、指輪目掛けて振り下ろす。
ガキンッ、と鈍い音がするだけ……指輪は傷つきさえもしない。
「無駄です。その指輪は一度装着すれば二度とは外すことはできません」
ライナはそう言うが……俺には考えがあった。
「……へへっ。外せない、か……確かに、指輪そのものは破壊できないし……はずすこともできないかもな」
俺はそう言って今一度ナイフを振り上げる。一か八か……ただ痛いだけ、という結果も考えられるが、この考えに賭けるしか無い。
「管理番号1番。アナタ……何を……」
困惑するライナを他所に俺はそのままナイフを振り下ろす。
「だけど……指輪を嵌めている『指』は……俺自身から外せると思うんだよな!」
俺はそのまま、ナイフを嵌めている薬指に思いっきりナイフを突き立てた。
今までの人生で発揮したことのない懇親の力……ナイフは肉を抉り、骨を断ち、そして――
「いっ……痛っ……うあ……くそぉっ……」
俺の薬指は根本から……俺の手から離れてしまった。
血がドボドボ出ているが、なんとか俺は指輪を「外すことに」成功したのである。
「ら、ライナ……これでも俺に殺してもらいたいか?」
俺がそう訊ねると、ライナは最初は呆然としていたが……すぐに我に返ったようで周囲を見回している。
「……はっ。え……こ、ここは……? 管理番号1番、私は……え? ど、どうしたのですか? その傷は!?」
と、ライナはそれまでの行動が嘘のように、慌てて俺のもとに駆け寄る。
ああ……なんとかなった。
俺はそんな安堵感と、痛みに対する疲労感で、そのまま気を失ったのだった。
点検結果:管理者報告
管理番号1番:管理番号6番との接触のせいに薬指を切断するが、管理者番号6番の部屋で意識を失ってから6時間後、ベッドの上で確認すると、薬指は完全に元通りになっていた。
管理番号6番の危険度判定:重度
理由:悪質性が非常に高く、一度作動すると、管理者番号1番のような行動をとらないと効果を止められないため。
補足:管理者は、管理番号1番の機転のきいた行動を評価すると同時に、管理者自身の危険存在に対する認識の甘さを反省する次第である。