管理番号6番:被虐の指輪 ②
「え……えっと……何言ってんの?」
俺はとりあえず聞き返してみた。しかし、ライナの表情は至極真面目だった。
「命令です。私を殺害しろ、と言ったのですが」
……これは、本気で言っているのだろうか。流石に信じられないが。
いや……先程確かにライナは俺に事前に説明していた。これから俺が点検する指輪は危険であるのだ、と。
つまり、今ライナが俺に言ってきているのは、俺が嵌めた指輪のせい……そういうことなのだろう。
「えっと……嫌なんだけど……」
俺がそう言うとライナは不思議そうな顔で俺を見る。そして、不機嫌そうな顔で俺を見つめている。
「嫌? 理解できませんね。アナタに拒否権はないはずですが」
「え……で、でもさ……ライナを殺害する理由がわからないし……」
「理由、ですか。簡単でしょう。アナタを不当に監禁している……そんな施設の管理者である私を、アナタは殺害する自由があります」
「え……殺害する、自由って……」
ライナは特におかしなことを言っているとは思っていないようだった。俺は困ってしまった。
……確かに俺は不当にこのわけのわからない場所に連れてこられている。
しかし、ライナの言っていることを信じるのならば、俺をここに連れてくることを決めたのは別にライナの独断ではない。
だとするならばライナを殺害するのは……お門違いなのじゃないだろうか……
「い、いや……っていうか、そもそも殺害は不味いでしょ……俺は嫌だよ」
俺はあくまで拒否した。拒否しろ、とライナ自身にも言われたのだから。
「……そうですか」
すると、ライナは少し残念そうな顔をした後で、俺にナイフを差し出したまま動こうとしない。
「ナイフを取りなさい。管理番号1番」
「え……い、嫌だよ」
「取りなさい。殺害は今はしなくていいですから」
……不安だった。ライナの事前説明では指輪の効能は非常に強力だと言っていたし……本当にこのナイフをとってしまっていいのだろうか……
俺は恐る恐るナイフを手に取る。ライナは特に不審な挙動をせずに俺にナイフを手渡した。
「数時間後、また来ます。それまでに殺害するかどうかを決定して下さい」
そう言ってライナは俺を於いてそのまま鉄の扉を開け、そのまま部屋を出ていってしまった。
残された俺は呆然とナイフを持ったまま、立ち尽くしている。
「……これ、どうすんのよ」
俺がそう言いながらナイフを……そして、今一度薬指に嵌めたままの指輪を見てみる。
指輪は怪しげに光っている……いや、むしろ、まるで俺の今の状況を楽しんでいるかのように邪悪に輝いていた。




