管理番号6番:被虐の指輪 ①
管理番号6番・簡易名称:被虐の指輪
概要:管理番号6番は、金属製の指輪です。
管理番号6番を指にはめると、対象が行う行動に対して、嵌めた人間に関係のある人間はその行動への寛大さを著しく大きなものとなっていきます。(例:暴行、殺人等。周囲の人間は管理番号6番を装着した人間に一時的に非常に優しく接するようになります)
さらに、管理番号6番を対象が長時間装着するに伴い、管理番号6番は強く装着者の指にはまり込んでいきます。
最終的に装着者は管理番号6番を自力で外すことが出来なくなり、装着者はその場合でも管理番号6番を外そうとすると、周囲の人間が管理番号6番を外すことを許しません。(管理番号6番を外そうとする装着者に対して暴力等をふるってでも指輪を外すことをやめさせようとします)
管理番号6番を装着者が外すのを断念すると、装着者に対して周囲は、暴行や殺人を積極的に行なうよう、求めるようになってきます。それは、最終的に装着者が管理番号6番を無理にでも外すか、装着者が死亡するまで続きます。
点検行為には細心の注意を払い、管理番号1番にも事前に説明を行って下さい。
「……指輪?」
「ええ。そうです」
保管区域まで続く廊下を歩きながら、ライナは俺にこれから点検する危険存在の詳細を話していた。
「その指輪が……危ないってことか?」
「ええ。指輪を装着してから、おそらく私は、アナタに対して普段通りの対応ができなくなると思います」
「普段通りって……こんな風に会話できなくなるってこと?」
俺がそう言うとライナは首を横に振る。
「そうではありません。私はアナタに、この禁忌倉庫でおおよそ違反とされている行為を推奨するようになってしまうと思います」
「え……それって……例えば?」
「脱走や施設の破壊……あるいは、傷害や殺人などです」
ライナがそう言って俺は思わず黙ってしまった。
「え……指輪を嵌めただけで……まさかそんな……」
「報告書では実際にそうなるという記述があります。そして、組合の報告書はおおよそ間違いを冒しません」
ライナはそう言って一つの分厚い鉄の扉の前で立ち止まった。どうやらここが……その危険存在の保管部屋のようだった。
「で……ライナは俺にどうしてほしいの?」
「簡単です。そういった違反行為をもし私が推奨しても……その通りにしないで下さい。命令を拒否してほしいのです」
ライナはその綺麗な瞳を俺にまっすぐと向けたままで、至極真面目な顔でそう言った。
「え……えぇ……だったら、そんな点検、しなきゃいいじゃないか……他に方法は?」
「ありません。魔術師組合もこの方法で点検しろと依頼してきています。ですから、管理番号1番にはこの方法で点検をしてもらうしかありません」
「……だったら、俺をずっとこの保管部屋に閉じ込めておけば良いんじゃないの?」
「無理です。アナタが指輪を嵌めた時点で、私はおそらくアナタに部屋を出るように命令します。あるいは部屋を訪問し、アナタを部屋に閉じ込めるか……私自身も部屋にとどまるようにするでしょう」
意味がわからなかったが……ライナは嘘を言っていないようだった。
どうやら、俺がその部屋の中にあるという指輪を嵌めた時点で、厄介な状況が開始されてしまうらしい。
「……わかった。とりあえず、ライナが言ってきたヤバそうな命令は……全部無視するから。後で処罰するとかそういうのは……ないよね?」
俺がそう確認すると、ライナは頷いた。
「理解してくれて助かります。点検行為は約24時間……管理番号1番の活動時間限界までです」
「わかった……まぁ、あんまり気乗りしないけど……行ってくるわ」
俺がそう言うと鉄の扉がゆっくりと開く。
「では、点検行為の実施を開始して下さい」
いつも通りの抑揚のない声でライナはそう言った。俺は部屋の中に入っていく。それと同時に重たい鉄の扉が閉まる。
部屋の中は……何もなかった。いや、よく見ると部屋の床の中央部分にキラリと光る何かが落ちている。
「もしかして……」
俺は光る物体の方に歩いていく。そして、その近くまで来るとゆっくりと身をかがめてそれが何かを確認する。
「……なるほど。これか」
俺はその光る物体を手にとって見た。それは紛れもなくライナが話していたとおりに、金属製の小さな指輪だった。
「これを指にはめるのか……それじゃあ……とりあえず……」
俺はとりあえず、指輪を薬指にはめてみることにした。すると、指輪はまるで俺の指をギュッと掴むように、キツく嵌った。
それと同時に、鉄製の扉が開く。
「あ……ライナ」
見ると、扉の先にはライナが立っている。
「管理番号1番。指輪は嵌めましたか?」
「あ、ああ。ほら」
そういって、ライナに俺は指輪を嵌めた方の指を見せる。ライナはそれを確認すると俺の方にゆっくりと近づいてくる。
「そうですか。では、これを」
と、ライナはいきなり俺の直ぐ側まで近寄ってきたかと思うと、俺に何かを差し出してきた。
それは……まぎれもなく、ナイフだった。
「え……これは?」
俺は意味がわからずライナを今一度見る。
「管理番号1番。命令します。これを使用して、私を殺害して下さい」
そうして、ライナは至極真面目な表情で俺にそう言ってみせたのだった。




