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禁忌倉庫の管理記録  作者: 松戸京
管理番号1~10
12/80

管理番号5番:よくわからない魔法陣

管理番号5番・簡易名称:よくわからない魔法陣


概要:管理番号5番は、床に書かれた魔法陣です。


魔法陣の文様は組合の所属の魔術師の誰もが知らない文様であり、現在までもその詳細・意味合いは明確には解明されてません。


魔法陣の前に対象が立つと、魔法陣が輝き、しばらくすると、中央に何者かが出現します。


魔法陣の真ん中に出現した何者かは、魔法陣の作動を確認した対象への質問をしたところ「悪魔だった」と証言しています。


点検行為では、魔法陣が作動するのか、そして、魔法陣の中央に出現するのがあくまであるのかどうかを確認するようにして下さい。

 俺は管理番号5番の部屋に入った。目の前に存在するのは……


「……何かの模様?」


 幾何学的というか……よくわからない模様があった。なんだろうか……


『それは、魔法陣です』


 ライナの声が耳元から聞こえてくる。


「魔法陣……魔術師が使う……記号みたいな?」


『そう考えてもらって構いません。管理番号1番。アナタには魔法陣の前に立ってもらいます。すると、魔法陣が作動するはずです』


「作動……それで、大丈夫なの?」


『報告書では、魔法陣が作動するだけでは問題ないはずです。点検行為を実施して下さい』


 言われるままに、俺は魔法陣の前に立つ。暫くの間何も起きなさそうだったが……ふいに、魔法陣が仄かに輝きだした。


「お……おお……」


『管理番号1番……どう……しました……何が……起こって……』


「ん? ライナ? あれ……ライナ?」


 耳元からライナの声が聞こえなくなってしまった。その間にも魔法陣の輝きは一層激しくなっていく。


 そして、それがまばゆいほどに……それこそ、目を開けていられない程に激しい光が魔法陣から発せられてしまい、俺は目を閉じた。


 それから……少しの時間俺は目を閉じていた。そして、ゆっくりと目を開ける。


「……ん?」


 魔法陣の光は……消失していた。その代わりに魔法陣の中心部にはなんだろう……黒い靄のようなものが浮かんでいる。


「え……なんだこれ?」


「よぉ」


 俺は思わず驚いてしまった。声が聞こえてきた。どう考えてもライナのものではない。


「え……誰?」


「俺だよ。俺。お前の目の前に居る奴だよ」


 俺は今一度目の前を浮遊している黒い靄を見る。


 ……どうやら、俺に話しているのは黒い靄のようである。


「え……えっと……アンタは?」


「さぁ? 何だと思う?」


 逆に黒い靄が俺に尋ねてきた。


「え……魔法使い……とか?」


「いやいや。魔法陣から出てきたんだぜ? 魔法陣を作成したのが魔法使いであって……っていうか、お前、魔法使いじゃないな?」


 黒い靄は俺にそう言う。俺は正直に頷いた。


「なるほど……っていうか、ここはどこだ?」


 黒い靄は俺にそう訊ねてくる。


「え……いや、俺もわかんないんだけど……」


「……そうか。まぁ……いいや。俺はとりあえず自分のことは……悪魔だと認識している」


「え……悪魔?」


 俺がそういうと黒い靄は何も言わなかったが……なんとなく肯定しているのだろうということだけは理解できた。


「ああ。おそらくな」


「おそらくって……明確じゃないんだ」


「仕方ないだろう。いいか? 普通魔法陣ってのは目的があって書かれるんだ。だけど、この魔方陣は……よくわからないんだ」


「よく……わからない?」


「ああ。俺を呼び出す目的が、この魔方陣には存在しない。だから、呼び出された俺も自分がなんなのか理解できない。そういうことだ」


 黒い靄は少し面倒くさそうにそう言った。


「……でもさぁ。それじゃあ……アンタが悪魔かどうかということ自体、怪しい話になってこない?」


 俺がそう言うと黒い靄は少し黙っていた。それからしばらくして黒い靄はまた話し出す。


「そうだな。悪魔じゃないかもしれない」


「え……なんだよ……よくわからないな……」


「だから言っただろう。よくわからないんだ、って」


 黒い靄も苛ついた様子でそう言う。俺も正直困ってしまった。


「……もういいか? お前も俺のことをよくわかっていないらしいし……お前と話していてもあまり有益なことにはつながらなさそうだしな」


「あ……うん。わかった。ごめん……」


「いいか? 今度俺を呼び出す時は、少しくらい状況を把握してから呼び出してくれよ。俺も呼び出されてこんなわけのわからない状況……もういい加減飽き飽きなんだ」


 そして、再び魔法陣が輝くと、黒い靄は一瞬にして消えてしまった。その後にはもう魔法陣は作動しないようだった。


『……ますか? 管理番号1番? 聞こえていますか?』


 と、ライナの声が耳元で聞こえてきて、俺は我に返る。


「あ……ライナ」


『何があったのですか? 会話が遮断されていたようですが……』


「え……ああ、魔法陣が作動して……それで……」


『それで……どうしましたか? 何かに出会いましたか?』


「うん……たぶん……悪魔だと思う」


 俺がそう言うとライナは少し考え込んでいるようだった。それから、しばらくしてから会話が再開する。


『だと思う……というのは? なぜそのような言い方をするのですか?』


 ライナにそう聞かれて、俺は少し戸惑ったが、正直に返答することにした。


「だって……なんだか、よくわからなかったから……」

点検結果:管理者報告


管理番号1番:管理番号5番との接触後、会話の際に不明瞭な点が多い。


翌日には回復するが、どこか管理番号1番自体も判然としない感情を抱いているようだった。


管理番号5番の危険度判定:軽度


理由:よくわからないため。


補足:管理番号1番が管理番号5番を起動した際には、管理者との会話が一時的に遮断されてしまった。そのため、管理番号1番に、管理番号5番が起動した際に出現したという「悪魔」に関する質問をしたが、現在まで内容は不明瞭であり、結果的に管理番号5番の詳細は「よくわからない」状況にある。

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