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一人ぼっちの魔法使い  作者: 星野 葵
6/6

#5 ティレアの魔法

「セクエ殿?どうしたんだ、そんなに急いで。」


セクエが入ってくるなり、アトケインは驚いた様子でそう言った。


「気配のこと、調べに行ってきた。」


セクエは答える。アトケインが真面目な顔つきになったのが分かった。


「…どうだった?」

「まず、あそこには剣使いがいた。数はそこまで多くない。七、八人ぐらいだと思う。」

「何をしていたのか、分かるか?」

「そこまでは分からない。だけど、私が感じていた気配は魔道具のものだった。かなり大掛かりで、たぶんあれは…遠くの物を転移させるための道具だと思う。物だけじゃなくて、人も転移させられる。」


ここでセクエは自分を落ち着かせるために長く息を吐いた。ここから先が重要なことだ。だが、彼らが行ったことをただ言うだけでは、バリューガに疑いの目を向けられかねない。セクエは言葉を選びながら慎重に言った。


「ねえ、ケイン。」

「なんだ?」

「彼らは確かに剣使いだけど、バリューガとはなんの関係も無いんだ。だから、バリューガを疑わないでほしい。分かってると思うけど、バリューガには、何の記憶もないから…。」


この言葉で、どうやら剣使いたちが何か企んでいるらしいということをアトケインは想像できたようで、より一層真剣な表情になった。


「ああ。分かっている。…何かあったのか。」

「彼らは、『鉄砲』っていう道具を持ってた。」

「鉄砲?」


セクエは、アトケインは鉄砲を知らないと知って、光の固体で鉄砲を作った。


「こんな形をしてるんだけど、持ち手にあるこの引き金を引くと、この筒の先から網が出てくる仕組みになってるんだ。ものすごく速くて、ほとんど目で追えない。それで…。」


セクエはここで少し間をおいてから言った。


「これで魔法使いを狩るって言ってた。」

「狩る?魔法使いを捕まえて、どうするというんだ?」

「そこまでは分からない。」


セクエは黙った。もし捕まったらと思うと、ぞっとする。殺されるのだろうか。それとも、どこかで働かされたりするのだろうか。剣使いが魔法使いを憎んでいると考えるなら、前者のほうが妥当だが、だとするならわざわざ網を使う必要はない。殺すのではなく、捕まえることが目的な気がする。


「…それから。彼らは、毒を使う。」


言っていて、さっきまでの感覚が蘇ってきた。


「彼らはなんともないようだったから、たぶん、魔力に反応するんだと思う。」


そこでアトケインは待ってくれ、とセクエを止めた。


「彼らはなんともない、ということは、セクエ殿はその毒を受けたのか?今は大丈夫なのか?」

「うん。とりあえず、今のところは。知り合いに助けてもらったから。」


セクエは毒のことをできるだけ細かくアトケインに伝える。


「煙…みたいなもので、始めは変な匂いがするとしか思わなかったけど、だんだん体に力が入らなくなる。めまいもあったと思う。」


自分が知っていることはこのくらい、だろうか。セクエは頭の中でもう一度確認して、それからアトケインの方を見た。いったい、アトケインはどんな行動に出るのだろう。


「そうか…ありがとう。」


アトケインはそれだけ言って、腕を組んでしばらく下を見て考え込んでいた。しばらくすると顔を上げ、セクエに言った。


「とりあえず、セクエ殿は休んでいてくれ。体内にまだ毒が残っているとまずい。」

「待って。どうするつもり?」

「…まず、全員に村の外に出ることを禁止させる。理由は伏せておく。それから、力のある魔法使いを数人選んで事情を説明し、村の周囲に結界を張る。ここまですると、村人の中には怪しむ者も出てくるだろうが、できるだけこのことは知らせない方がいい。それから…そうだな、バリューガ殿はしばらく外に出ないでもらわないといけない。」

「剣使いたちが襲って来たら?」

「それは…なんとも言えない。戦闘というものは、あまりしたことがないんだ。他のみんなもそうだろう。その時は…。」


唇を噛んでいるのが見て分かった。あくまで最悪の場合だが、と前置きをして、アトケインは言った。


「セクエ殿に戦ってもらうことになるかもしれない。私もできる限りのことはしようと思うが、それでも、どこまでできるか…。」


それから、二人はしばらく黙った。セクエはなんだか気まずくなって、逃げ出すように部屋から出ると、自分の部屋に入った。だが、それでもすぐにいてもたってもいられなくなり、しばらく部屋の中を動き回ったあげくバリューガの部屋に行った。


「なんだよ、って…またなんかめんどくせえことが起こったな?」


バリューガはセクエの顔を見るなり言った。セクエは何も言わずにコクリと頷く。


「今度はなんだよ?」


セクエは自分が見てきたものをバリューガに話した。これからどうなるか分からないということも、今とても不安だということも話した。セクエの頭は混乱していて、何を言っているか自分でも分からないくらいだったが、それでもバリューガは最後まで聞いてくれた。


「それから、たぶんこれからバリューガは外に出られなくなるだろうし、私だって、剣使いと戦わないといけないかもしれないし…。」


そんなことを言うと、バリューガは一つため息をついて言った。


「よし、だったら外に出ようぜ?」

「え?」


なんでそうなるのだろう。バリューガの考えはいつも突拍子もないので反応に困る。


「なにボケっとしてんだよ。これから出られなくなるかもしれないんだろ?だったら、今のうちに外に出ておく。おまえも、戦うことになるかもしれないなら、今のうちに戦わなくていい時間を楽しんでおく。それって、普通の考え方だろ?だから外に出て遊ぶんだよ。」


バリューガはセクエの手をとって部屋を出る。バリューガに引っ張られながら、セクエはどこか安心していた。本当に不思議だ。なぜバリューガと一緒にいるだけでこんなにも明るい気持ちになれるのだろう。外に出ると、それを見つけた村の子供たちが集まって来た。


「あ、剣使いのにーちゃん。遊ぼ!」

「でも、隣の人、誰?」

「友達?彼女?」

「彼女だー!」


子供たちは勝手にあれこれ話し出す。バリューガは大げさにため息をついて言い返した。


「バーカ、ちげえよ。こいつはただの友達だ。」


そして、セクエを振り返ってこう言った。


「オレはチビたちの相手するけど、どうする?一緒に遊ぶか?」

「いいよ。ちょっと思い出したことがあるから、それをしに行く。」


セクエは歩き出す。バリューガと子供たちがワイワイと騒ぐ声が聞こえる。それを聞いて、思わず微笑んでしまった。バリューガはいつでも明るい。その明るさにどれほど支えられただろう。セクエは走り出す。これから行く所は村の外だ。早めに終わらせなければならない。せめて、村に結界が張られる前に戻ってきたかった。


ーーーーーー


村を出て、森の中を進む。細い獣道をたどっているのだが、草が生えていてほとんど分からなかった。それでもずんずん進んでいくと、少し開けた場所に家が建っていた。いや、家より小屋と言った方が正しい。板を打ち付けて作られた屋根にはびっしりと苔が生え、壁はところどころ古くなって穴が空いている。その前まで来て、セクエは立ち止まった。


(もう一度ここに来ることがあるなんてね…。)


このボロボロの小屋はセクエの家だった場所だ。母とともに暮らし、母が治療院を経営していた小屋。誰もいなくなってからは傷みがひどいが、それでもセクエが昔のことを思い出すのには十分だった。その中に入ることが、セクエは怖かった。自分がこの家庭を壊してしまったということは分かっているからだ。そんな所に今さら入るなんて、と思うと、セクエにはなかなかその朽ちた扉に触れることができなかった。


それでも意を決して扉を開けると、ギギギィ、と耳障りな音を立てて扉はゆっくりと開いた。中からむうっと薬の匂いがした。


(お母さんは治癒魔法だけじゃなくて、傷薬も作っていた。もしかしたら、使えるものがあるかもしれない…。)


ここに来たのは、そのためだった。それに、作り方だって分かるかもしれない。セクエは読心術を使って、ためしに薬の入った瓶の一つに触れ、その薬に込められた思いを読み取ってみた。


ーこれは、傷薬。少ししみるけど、とっても良く効くのよ。ー


声が頭の中に響く。母の声だ。


(傷薬か…できれば解毒の薬が欲しいんだけど…。)


そう思って瓶から手を離した。


「いつかあなたと一緒に、薬草を採りに行けたらいいわね…。」


いきなり後ろから声が聞こえて、セクエは慌てて振り返った。だが、そこに広がっていた光景を見て、セクエは目を見開いて立ち尽くしてしまった。


そこには母がいた。


(どういうこと…?)


母は自分の存在に気づいていないらしく、呆然としたように薬を塗っていた。薬を塗っている相手が赤ん坊だと気づいた時、セクエはようやく状況を理解した。


(読み取った記憶が、目の前に現れているんだ…。)


つまり、セクエの目の前の光景は過去のものであり、赤ん坊はおそらくは自分なのだろう。そして母は自分の娘に薬を塗っているだけなのだ。そう思って見てみると、朽ちかけていた床や壁は新しく作り直したようにしっかりとしていて、棚の上にはホコリが一つも無かった。セクエはしばらく時を忘れてその光景に見入った。


ギィ、と音を立てて扉が開いた。客なのだろうか。だが、母は顔を上げないどころか挨拶もしないで娘と向かい合っていた。


「そろそろ時間ではないか?」


入ってきた人が母に声をかけた。声からして、女だったが、顔は入り口から入る光で逆光になっていて分からない。


「…嫌です。この子を、もう連れて行かないで下さい。」


母は答える。声に感情が無かった。女は一つ小さくため息をついて言った。


「あなたが言ったのだろう。その娘の力が大きすぎるのではないか、と。私はその娘の症状に合った方法で魔力を抑えているだけだ。」

「ですがっ…!賢者様!」


その一言でセクエは驚愕した。


(賢者…?じゃあ、この人は、まさか。)


母は立ち上がり、賢者と呼んだその人に歯向かうように言った。


「あなたの言う『治療』というものが始まって以来、この子はニコリとも笑わなくなってしまいました…!毎日毎日傷だらけになって帰ってきて…。血液と共に魔力を体外に出すとあなたは言いましたが、はたしてそれはこの子のためになるのでしょうか?私は、とてもそんなふうには思えません!」


セクエは驚いた。本当に心底驚いた。賢者は村の長であり、逆らうことなどありえない。それに母が逆らっていた。いや、それ以前に、母が自分の受けていた虐待に気づいていたことが驚きだった。ヘレネの事だから、どうせ誰にも気づかれずにいたのだろうと勝手に思い込んでいたが、確かに毎日傷だらけになって帰ってくる自分を見て何も感じないということの方がおかしい。そう思うと、セクエはこの女、おそらくはヘレネという名であろうこの女がたまらなく憎くなる。つまり、この女は、母に何を言われようとも、その行いを変えなかったということなのだから。


「では、この娘の魔力をそのまま放っておくと言うのか?」


ヘレネは言う。


「この娘が、これから危険な存在となる可能性を、知っていながら放置するというのか。それがどれほどの罪になるのか、分かっていないとは言わせない。危険だと分かっていたからこそ、あなたは私に相談したのだろう?」


ヘレネは母を追い詰めるようにそう言う。それでも母は負けじと言った。


「それならば、何か他に方法は無いのですか?せめて、この子が傷つかないような方法があるはずです。」


ヘレネは何も答えない。ゆっくりとした足取りで小屋の中へと入って来る。セクエはこの瞬間になって体が震え始めるのを感じた。あの顔を見ることになるかもしれない。ヘレネの顔は今でも鮮明に覚えている。だが、覚えているのと実際に見るのとではまったく恐怖が違う。セクエは視線をそらそうとしたが、なぜかうまくできなかった。


「そんなものは、無い。」


ヘレネは冷たくそう答え、赤ん坊に手を伸ばした。母はその手を止めるように掴み、すがりつくように言った。


「お願いします。どうかこの子を傷つけないでください!」

「うるさい。」


そこで、セクエはようやく視線をそらすことができた。その次の瞬間、ガタンという何かにぶつかるような音、母のうめき声、続いて扉が閉まる音がした。ヘレネが出て行ったのだと分かった。だが、それでも、セクエは視線を上げることができなかった。音だけで、ヘレネが何をしたのかが痛いほど分かった。なんらかの魔法を使って母を黙らせ、何も言わずに赤ん坊を連れて行ったのだろう。


「ごめんなさい。ごめんなさい…。」


泣き声に混じって母がそう言っているのが聞こえる。母の泣き声はすすり泣きから次第に悲鳴のようになっていき、その声は誰に聞かれるわけでもなく小屋中に響いていた。


ハッと目を覚ます。


(夢…?)


どうやらそうらしい。自分はさっきまであった新しい床とは似ても似つかぬ朽ちかけた床に倒れこんでいたのだった。すぐそばにはおそらく手を滑らせて落としたのだろう薬の瓶が転がっている。静かで何も動かない小屋の中でセクエの心臓だけが今時間が動き続けていることを証明していた。


(これは…ずいぶんとひどい勘違いをしていたみたいだね。)


セクエは起き上がる。さっきまで見ていた光景は、確かに読心術で読み取った記憶ではあった。だが、それは目の前に広がっていた、つまりは幻覚的なものではなく、セクエ自身がこの薬の記憶の中に入り込んでしまっていたために見てしまった光景なのだろう。セクエは読心術を使わないようにして瓶を元の棚に戻す。


(やっぱり意図的に読心術を使うのは危険か。今回は戻って来られたけど、場合によっては目覚めることができなかったかもしれない…。)


この考えはあくまで予想の域を出ないのだが、それでも、もしそうなったらと思うとやはり使わない方がいいのではと思わざるを得ない。


(解毒薬は諦めようか。)


これは仕方のないことだ。なぜなら、セクエは瓶に書かれている文字が読めないのだから。だからこそ読心術を使ったのだが、瓶に触れるたびにあんなものを見させられていたのでは体がもたない。


開いたままの扉から外へ出る。風が心地いい。だが、扉を閉める時の音が、どうしてもさっき見た記憶と重なってしまい、気分が悪い。嫌でもヘレネのことを考えてしまう。セクエは首を何度も横に振り、その考えを頭から追い出すと、飛び上がった。そろそろ村へ帰らないと。そこでふと気づく。だいぶ日が傾いている。


(私、どれだけ寝てたんだよ。)


我ながらあきれる。もう村には結界が張られてしまっただろう。そこまで長く外に出ていたのに、何も持たずに帰ってくるのはなんだか腹立たしいが、仕方ない。セクエは急いで村へ向かった。村の周りには何も見えないが、魔力が集まっているのが分かった。


(やっぱり張られちゃったか。)


セクエは地面に着地して周りに誰もいないことを確認してから結界にそっと触れ、唱えた。


「消滅せよ。」


手の触れているところから結界が薄くなって消えていく。セクエはそこをくぐり抜け村に入ると、何もなかったように結界を張り直してから賢者の館に向かう。途中でバリューガに会った。


「一日中どこ行ってたんだ?」


バリューガは不思議そうに尋ねる。セクエは一つため息をついて答えた。


「嫌な夢を見てたんだよ。」


その答えに、バリューガはなおさら不思議がるだけだったが、セクエは気にせずに自分の部屋に戻って休んだ。まだ外はだいぶ明るかったが、明日は忙しくなる気がする。毒のことも気になるし、今日は早めに休んでおいたほうがいいだろう。


ーーーーーー


朝だ。目が覚める。起き上がって窓から外を眺めると、かなり早い時間のようで、明るくはあったが人気がなかった。まるで、自分だけが危険を察知して目覚めてしまったような…。


(バカ。なんでそうなるんだよ。縁起でもない。)


バリューガは首を何度か横に振った。それにしても、こんなに早く目覚めるなんて今までに無かった。なんとなく気になって、バリューガは着替えてから外に出た。


風が強い。まだ寒い季節なので、風が体を切っていくような冷たさだった。まだ誰も起きていない村を行くあてもなくぼんやりと歩く。自分が雪を踏む音だけが辺りに響いていた。村のはずれまで来たところで、バリューガは何かにぶつかって立ち止まった。


「ん?…ああ、結界か。そういえば、セクエがもうすぐ張られるって言ってたな…。」


そっと手で触れてみる。温かくもなければ冷たくもない。空気が固まって壁になってしまったような感じだ。


「おい、そこで何をしている?」


いきなり声をかけられ、バリューガは辺りを見渡した。そこには自分よりもいくらか背が高い男が立っていた。この結界の見張り番だろうか。


「別に何もしてないさ。ただの散歩だよ。」

「本当にそれだけなのか?」


どうやら何かしていたと疑われているらしい。まあ、自分が剣使いである以上そう疑われても無理はない。


「分かった。戻るよ。その方が安心なんだろ?」


バリューガがそう言うと、男は硬くなっていた表情を少し緩めて申し訳なさそうに言った。


「悪いな。君を疑っているわけじゃないんだが、状況が状況だ。念を押すよう賢者様から言われている。君も、しばらくは外へでない方がいい。今のようにあらぬ疑いをかけられる。」


どうやらこの男はずいぶんと剣使いを許してくれているようだ。そういう心配をしてくれること自体が嬉しかった。賢者からそう言われているだけかもしれないが、それは今は考えないことにしよう。


「ああ、分かった。気をつけるよ。」


それだけ言って結界を離れ、来た道を戻ると、前から誰かが走ってくるのが見えた。


(あれ、ヤーウィちゃんだ。こんな時間にどうしたんだろ。)


まだかなり早いはずだ。走っている様子から、かなり急いでいることが分かる。すると、相手もこちらに気づいたようで、近くまで来ると立ち止まった。


「バリューガお兄ちゃん。お姉ちゃん、見た?」


ヤーウィはすぐにそうきいてきた。バリューガは何が起こったのかを想像して少しだけ怖くなった。


「いや、見てないけど…。」


するとヤーウィは今にも泣き出しそうな顔をして言った。


「お姉ちゃん、またいなくなっちゃった…。一緒に探して!お願い!」

「ちょ、ちょっと待てよ。落ち着けって。いつからいないんだ?」


もしかしたら、その子は自分と同じように散歩に行っただけかもしれない。だとしたら、村の中からは出られないから探すのは簡単だ。だが、もしそれ以前にいなくなっていたのだとしたら…。考えたくはなかったが、可能性は考えなければならない。ヤーウィは暗い表情のまま言った。


「昨日から、帰ってないの。お母さんは、またいつものことだって言って気にしてないけど、今まで夜に帰らなかったことなんてなかったんだよ?何かあったのかもしれない…。どうしよ…どうしたらいいのかな…?」


まずいな。そう思った。もしかしたらその子は村の外に出ていて、結界のせいで帰ってこれなくなっているのかもしれない。剣使いに捕まっているという可能性だってある。バリューガはヤーウィ続けて尋ねた。


「お姉ちゃんって、普段はどこに家出するんだ?もしかしたら、そこにいるかもしれないだろ?」


ヤーウィは首を横にブンブン振って言った。


「村の外!村の外にいるの!お姉ちゃんのお友達がそう言ってたから間違いないの!お願い、一緒に探しに行こうよ!お姉ちゃん、きっと寂しがってるもん!」

「でも…結界が…。」


ヤーウィの姉は見つけてあげたい。だけど、それはやりたくてもできないのだ。剣使いであるバリューガは結界を壊す方法など知らない。それに、結界を壊してしまえば、そこから剣使いが襲ってくるという可能性だってあるのだ。


「今、村には結界が張ってあるんだ。もしそれを壊したら、危ないだろ?だから、まずは賢者さんに相談したほうがいい。」

「でも、結界なら、ヤーウィも使えるよ。張り直せばバレないよ!お願い、急ぎたいの!」


ここまで言われてしまうと、バリューガは断れなくなってしまう。実を言うと、バリューガは結界を壊す方法は知っているのだ。


「ああもう!仕方ねえな!その代わり、うまく張り直せよ?バレたらヤーウィちゃんの責任だからな?」


バリューガは半ば諦めたようにそう言うとヤーウィを連れて村のはずれまで戻ってきた。見張りの人がいないことを念入りに確認してから、セクエからもらった魔道具を取り出す。


(まだちゃんと使えねえけど…。これなら壊せるはずだ。)


少しだけ魔道具に意識を向ける。すると、セクエが見せてくれたものよりもいくらか短かったが、光の刃ができた。これを結界に突き刺し、通れるくらいの大きさに丸く切り取る。切り取った部分が消えて穴が空いたのが感覚で分かった。バリューガはその穴から外へ飛び出すと、ヤーウィに結界を張り直させてから森の中へと駆け込んだ。村の近くだと人に見つかるかもしれないからだ。


(その代わり、誰からも助けてもらえないってことだけどな…。)


バリューガは走った。ある程度村から離れると、立ち止まって息を整えた。なんだかものすごく心細い。村に結界が張られていなければ、きっとこんなことを思うこともなかっただろう。早くこの子の姉を見つけ出さなければ。


「ティレアお姉ちゃーん!ヤーウィだよー!どこにいるのー?」


ヤーウィはすぐさま大声を出して姉を探した。名前はティレアというようだ。バリューガも声をあげようとして、そこで一つ気づいた。


(こんなに大声出してたら、ティレアって子は見つかるかもしれないけど…。)


バリューガは辺りを見渡す。村の周りは森、あるいは林になっているので見通しが悪い。


(それって、剣使いからも見つかりやすくなるってことだよな…。)


こんな所では、相手の姿をすぐに見つけることはできないだろう。だが、相手からしてみれば、大声を出している相手を見つけるのは簡単なはずだ。


(これは…だいぶまずいことになったかもしれねえな。)


バリューガは睨みつけるようにして周囲を見渡し、警戒した。バリューガの中には魔力があるので、ある程度の魔力なら離れていても感じることができる。剣使いたちが魔道具を持っていてくれればそれを感じることもできなくはないだろうが、そう都合よくはないだろう。警戒するに越したことはない。


サクッ。


聞き間違いだろうか、何か聞こえた。バリューガはヤーウィに近づき、静かにさせる。


「しっ!」


いきなり何を言い出したのかとヤーウィが嫌そうな目でバリューガを見上げたが、その顔つきでおおよそのことが分かったのか、すぐに黙った。


サクッ。


音はかなり近い。相手の射程範囲内、といったところだろうか。どんなことをされるのか、バリューガはセクエから聞いていて大体のことは知っていた。たしか、網を投げてくるんだ。多少意味合いが違うかもしれないが、まあ間違いではないだろう。


バン、と音が聞こえると同時に、バリューガはヤーウィを押し倒し、自分もその場に倒れこむようにして網を避けた。バリューガはすぐに立ち上がって魔道具を構えた。今避けることができたのはほんの偶然だ。しかも、相手が何人なのかも分からない。バリューガはヤーウィを立たせると、いつでも庇えるようにそばに寄せた。


「お兄ちゃん、触っちゃだめだよ…。」


ヤーウィが心配そうに言う。バリューガが魔力に触れられないことを分かっているらしい。


「そんなこと言ってられねえだろ。それに、おまえはまだ魔力が小さいから大丈夫だ。」


そう言いながら、バリューガの腕はすでに痺れ始めていた。だが、この程度なら、痛みが走るようなことはない。せいぜい、全身が軽く痺れるだけで済むだろう。と言っても、これは自分の勝手な予想に過ぎないのだが。


バリューガが魔道具を構えたことで、相手は、もう不意打ちはできないと思ったのか、ザクザクと雪を踏んで二人の前に姿を現した。網を発射した鉄砲とかいう道具は、その場に置いてきたのか、持っておらず、その手には代わりに刃物が握られている。バリューガの魔道具ような小刀としても使えるようなものではなく、いかにも人や獣を切るために作られたような、細く、それでいて丈夫そうな剣だ。


バリューガと違い、相手の男はこういったことには慣れているのだろう。余裕そうな笑みを浮かべて襲いかかってきた。バリューガは振り下ろされた剣をとっさに、本当になんの考えもなく魔道具の光の刃で受け止めた。だが、結果だけ言えば、それは『受け止めようとした』ということになってしまった。光の固体というものはバリューガが思っているよりもはるかに丈夫で鋭利なものだった。男の剣は、光の刃に当たると同時に、なんの抵抗もなく、まるでもともと繋がっていなかったかのように、あっさり切れてしまったのだ。


「え?」

「あ?」


この状況は、男はもちろんバリューガもまったく予想できず、二人そろって間抜けな声を出してしまった。どちらもあっけにとられて、バリューガは魔道具を構えたまま、男は折れた剣を振り下ろしたまま、しばらく動かなかった。しかし、先に動いたのは男の方だった。


「う、うわあああぁぁー!」


男は完全に混乱してしまったようで、聞いている方が驚くような大声をあげて、切れたままの剣をさらにバリューガに向けて振り下ろしてきた。バリューガもその悲鳴を聞いてようやく我に帰り、今度はとっさにではなく、よく考えて、男の頭を水平に切りつけた。


剣の時とは違い、わずかに、何かを切ったような抵抗を感じ、次の瞬間、男はドサリと仰向けにその場に倒れた。ゾクリと鳥肌が立つ。だが、血は流れない。肉も切れていない。そのことを確認してから、バリューガはさらに男が息をしていることを確かめ、それからようやく安心した。


「死んじゃったの…?」


ヤーウィが心配そうにそうきいてきた。バリューガは男を見下ろしたまま答える。


「大丈夫。気絶してるだけだ。」

「でも、さっき…。」

「ほら。」


バリューガはヤーウィを振り返って、よく見えるようにして、自分の手に剣を突き刺した。剣はあっさり手のひらを貫通し、手の甲から生えているように見えた。だが、痛みは無いし、血もでない。すり抜けているのだ。


「これは、生き物は切れないんだよ。」


でも、とヤーウィは不思議そうに言う。


「それなら、なんで倒れちゃったの?」

「頭を切ると気絶するようになってるんだ。まあ、あの切れ味を見たあとじゃ、切れないって分かっててもヒヤヒヤしたけどな。」


さて、と辺りを見渡し、バリューガは手を握りしめた。だいぶ痺れていて、思うように力が入らない。今は腕だけだが、これは足にも広がるだろう。これは思ったよりもひどくなるかもしれない。


「そろそろ、帰ろう。」


バリューガは言う。ヤーウィはまだ諦めきれないようで嫌そうな顔をしていた。


「でも、だって…お姉ちゃんが…。」

「これ以上は無理だ。おまえだって分かるだろ?」


ヤーウィはそれでもしばらく動かなかったが、やがて諦めて、しぶしぶバリューガと一緒に帰ることになった。


だが、少し村から離れすぎていたのか、体が痺れているせいなのか、なかなか村にはたどり着けない。そうしている間にもバリューガの痺れはひどくなる一方だった。足取りはだんだんと重くなり、何度も転びそうになった。その度にヤーウィは立ち止まってバリューガを心配そうに見つめていたが、かといって何もすることができず、途中で何度も謝った。


「ごめんね?ヤーウィが行きたいって言っちゃったから…。」


本当なら、そんなことない、と言ってやりたいところだが、今のバリューガは立ち上がって歩くことが精一杯でそんな余裕はなかった。そして、ようやく村が見えてきたところで、バリューガは倒れてしまい、そのまま立ち上がれなくなってしまった。


「ヤーウィちゃん。おまえは、先に帰ってろ。」


バリューガは言った。セクエが言うには、どうやら狙われているのは魔法使いだけらしい。ならば、剣使いである自分は村の外にいても問題無いだろう。ヤーウィだけでも村に帰さないと、捕まってしまうかもしれない。


「でも…お兄ちゃんは?」

「オレのことはいい。ちょっと痺れてるだけだ。すぐよくなる。そうしたら、帰るから。」


ヤーウィまだ心配そうな顔をしていたが、今襲われたらどうしようもないと思ったのか、バリューガをおいて村へと帰った。結界のことが気にかかったが、自分で張った部分の結界なら消すこともできるだろう。


今の状態では立ち上がることはできないが、少しなら体を動かすことはできる。バリューガは近くの木に寄りかかり、できるだけ楽な姿勢になって休んだ。起きてからだいぶ時間が経っていた。もう早朝というよりは朝と呼べる時間帯に入っている。だが、吹く風はまだ冷たく、バリューガは外へ出たことを後悔し始めていた。


ーーーーーー


「セクエ殿、起きているか?」


部屋に来てすぐにアトケインは言った。セクエは起きていたので軽く返事をする。


「何?」

「今、念のためと思って、村人たちの中で行方が分からない者がいるかどうか調べてきた。」


アトケインは険しい顔をして続ける。


「一人、少女が行方不明だ。昨日学校に行ったきり帰っていないらしい。これから探しに行こうと思うのだが、人数が多い方がいいと思う。手伝ってほしいのだが、いいだろうか。」

「その子の名前は?」

「ティレアというそうだ。」


これを聞いて、セクエは一つため息をついた。あの時、ちゃんと森に入らないように警告しておくべきだった。これはある意味セクエの責任でもある。


「分かった。じゃあ、行ってるね。」

「一人で大丈夫か?少し道具を持って行こうと思うから、もう少し待って一緒に行く方がいいと思うが…。」


アトケインは驚いていた。あまりにもセクエの行動が早かったせいだろう。セクエとしては、できるだけ急いだ方がいいので、短く答えた。


「大丈夫だよ。それに…その子、知ってる子だから。」


それだけ言うと、セクエは部屋を飛び出して森へ向かった。結界を通り抜けて魔力をたどる。だが、ティレアの魔力は小さすぎて見つけることができない。仕方なく、昨日剣使いを見た所まで行くことにした。そこに毒があることは分かっているので、できれば近づきたくなかったが、それでも、そこにティレアがいるなら助けに行かないとだろう。


セクエは走ってそこに向かう。途中、誰かの気配を感じて立ち止まった。剣使いだ。


(もしかしたら、ティレアがどこにいるか分かるかもしれない…。)


そう思って、セクエは自分から剣使いの前に出た。その男はいきなり獲物が現れたことに一瞬驚いたようだったが、すぐに何も言わずに鉄砲を構え、網を発射した。


炎の壁ヴァナス・ウィール。」


セクエはすぐに目の前に炎の壁を作り出し、飛んでくる網を焼き払った。鉄砲は一度使うとしばらく使えないらしく、男は鉄砲を地面に投げ捨てると、腰に差していた剣を抜いて構えた。


「待って。私は話を聞きたいだけなんだ。」


セクエは慌てて男に言った。動きが一瞬だけ止まった。


「あの村で、何人捕まえた?捕まえたなら、今どこにいるの?それを教えて。」


言っていて、我ながらバカバカしいと思った。こんなことを言って答えてくれるなら苦労しない。男は剣を下ろし、ゆっくりとセクエに近づく。セクエは、正直逃げ出したかったが、それでもギリギリまで動かなかった。


「確かに、俺たちは一人、子供を捕まえた。だが。」


男はだいぶ緊張しているようだった。息が荒い。魔法使いを相手にして怯えているのか、それとも興奮しているのか、どちらにしても、気持ち悪いものだった。


「お前になんか教えるわけないだろうがっ!」


男はそう言うとセクエに向けて剣を振り下ろした。セクエはすぐに自分の周りに結界を張って身を守ったが、反射的に手で頭をかばってしまったため、手の甲を軽く切られてしまった。


セクエはまだ何か仕掛けてくるかと思っていたが、男はセクエに小さな傷をつけただけで満足したように少し後ずさった。その様子から、どうしようもなく嫌な予感が頭をよぎる。だが、そう思うより前に、頭の中では誰かの声が響いていた。


(まいったな…。)


どうやら最近になって読心術を制御できなくなってしまったらしい。何も意識していないのに、あの剣に触れただけで過去のことを感じ取ってしまった。頭の中の声はだんだんと大きくなり、セクエは嫌になって顔をしかめる。この声は悲鳴に近かった。というより、完全に悲鳴だった。この剣で前に切られた人、殺された人、捕まった人の悲鳴が頭の中で何度もこだまする。セクエはその声を振り払おうと頭を押さえたが、その中のいくつかに、聞き覚えのある声が混じっていると気づいた時、その動きを止めた。


(今の声…。)


間違いない。今の声は、学舎にいた器たちの声だった。つまり、彼らはあの時、保護されたのではなく、捕まえられていたということだ。


「あなたたち…。」


セクエは頭を押さえていた手を下ろし、目の前の男を睨みつけた。その姿をはっきりと視界にとらえた時、セクエの中からは、ティレアに対する心配や後悔、目の前の男に対する恐怖、その他の感情は一切消えて無くなった。あるのは、純粋な怒りだけだった。


「この辺りにいた子供を、捕まえたことがあるね…?」


男はセクエがなぜそのことを知っているのか、面白がっているようだった。ニヤニヤと嫌な笑いを浮かべてゆっくりと頷く。だが。


次の瞬間、男は意識を失って倒れた。首にはかなり深い切り傷が残っていて、そこから血が飛び散って雪を赤く染めていた。生きていないことは一目で分かる。しかし、その場にはすでにセクエの姿は無かった。


ーーーーーー


バリューガは手を握っては開く動作を繰り返していた。痺れは休んでいる間も広がり続けていて、体が全く動かなくなった時もあったが、やがてそれも収まり、少しずつではあるが、体は動くようになっていった。


(どうしたもんかな…。)


指先はまだ思うように動かせないが、もうすぐ立ち上がれるくらいまで回復する。だが、どうやって村へ戻ればいいだろう。バリューガは結界を壊すことはできても張ることはできない。穴を開けたままにしておくわけにはいかないし、かといって誰かを呼べば外に出ていたことが知られて面倒なことになりそうだ。


(こんなことならヤーウィちゃんを帰さない方がよかったかな?)


そんなことを考えながら悩んでいると、一人の男がやってきた。男はバリューガの姿を確認すると警戒しながら近づいてきて、声をかけた。


「一人か…?」


バリューガは頷く。すると、彼らはどうやら村へ入ろうとやってきた剣使いのようだ。魔力を感じない。男が後ろの方に何か合図をすると、向こうからもう一人男がやってきた。


「…へえ。いきなり捕まえられるかと思ってたけど、そうじゃないんだな。」


バリューガは言う。まあ、これから捕まえられる可能性も十分にあったのだが。


「当然だ。お前、剣使いだろう?」

「おお、ご名答。分からないかと思ってたぜ。」


バリューガはできるだけ気楽に答える。本当は何かされるのではないかと怖いのだが、こうして話すことで怖さを紛らわすことができた。


「あの村、結界が張ってあるみたいだが、入る方法は分かるか?」


男がきいてくる。


「なんでオレがそんなことに答えなくちゃいけないんだよ。オレは一応、あの村に住んでるんだ。友達だっている。教えてたまるか。」

「だけど、お前、村を襲う俺たちの仲間かと思われて、村から追い出されたんだろう?」


なるほど、そんなふうに見えるのか。そんなつもりは全く無かったが、まあ確かにそう思うのも仕方ないかもしれない。


「どう思うかはおまえらに任せる。でも、入り方は教えてやらない。」

「そう言うなって。お前がもし俺たちに協力してくれるなら、一緒に連れてってやってもいいんだぞ?」

「は?」

「あの村で、ずっと一人だったんだろ?俺たちの国は剣使いの国だ。お前と同じような身寄りのない子供だって大勢いる。村から追い出すような魔法使いに囲まれて過ごすより、そんな所で過ごしたいとは思わないか?」

「なるほどねぇ…。」


男は交互にバリューガに話しかける。バリューガは気の無い返事をしながら手をもう一度握り、そして開いた。まだうまく動かない。これじゃあ魔道具を使うことはできない。できるだけ早くこの男を黙らせて村に帰りたいものだ。


「なあ、いいだろう?俺たちと一緒に来いよ。俺たちの国はな…。ん?」


話していた男がいきなり黙った。何かを怪しむような顔をしてもう一人の男と顔を見合わせる。男たちは互いに頷き合うと、一人は持っていた荷物をいじり始め、もう一人はバリューガに話しかけた。


「お前…魔力を持ってるな?」


自分の心臓が激しく動いたのが分かった。


(この言い方、狙ってるのは魔力なのか?)


「なに言ってんだよ。オレは剣使いなんだぞ?魔力なんて、持ってるわけ…。」


バリューガはとっさに嘘をついた。だが、彼らはそれを信じるつもりはないらしい。


「いいから黙ってろ。」

「お前…動けないみたいだな。都合がいい。」


男たちの目つきはさっきとは変わっている。もう彼らは自分を剣使いではなく、獲物としてしか見ていない。そして今、自分は動いて逃げることができない。


後ろで荷物を探っていた男が何かの袋を取り出した。そして、バリューガの頭を掴んで木の幹に押さえつけると、その袋の口をバリューガの鼻と口に押し付けた。ツンと鼻をつく嫌な匂いがして、次の瞬間、喉に焼けつくような痛みが走った。バリューガがゴホゴホと荒い咳をすると、男は袋を口から離した。


「間違いないな。」


(これ…セクエが言ってた毒か。)


バリューガは咳を繰り返しながら思った。もう少し警戒していればよかった。


「捕まえるぞ。」

「ああ。」


男が近づいてくる。バリューガは無理やり咳を止めて叫んだ。


「ふざ、けんなっ!」


バリューガはまだうまく動かせない手で魔道具を握ると、一人の男の頭をそれで貫いた。男が倒れる。だが、バリューガは男が倒れる方向までは考えていなかった。男は自分の方に倒れてきて、バリューガにのしかかってきたのだ。その拍子に、バリューガは魔道具を落としてしまい、男が乗っているせいで動くこともできなくなってしまった。すぐに男の体をどかそうとするのだが、体の痺れのせいなのか、毒のせいなのか、体に力が入らない。そうしている間に体に毒が回ってしまったのか、意識が薄くなってきた。


(これは…まずいな…。)


あっという間に何も見えなくなり、もうダメだと思った時、声が聞こえた。


「結界魔法!」


すぐ近くに誰かが来た気配がした。


「お前、何をしているんだ。彼から離れろ。」

「黙れ!」

「仕方ないな…。催眠魔法フィアル・リサク!」


ドサッと何かが倒れる音が聞こえた。体に乗っていた男の体がどかされ、肩を強く揺すられた。薄く目を開けると、目の前にいたのはアトケインだった。


「大丈夫か?とりあえず、これを飲んでくれ。」


口に何かを当てられ、そこから何か水のようなものが流れ込んできた。少し苦くて、飲みにくい。だが、しばらくすると意識がはっきりしてきた。その様子を見て、アトケインはもう大丈夫だと思ったのか、いろいろときいてきた。


「どうしてこんなところにいるんだ。外が危ないということは分かっていただろう。」

「それは…。」


もう隠していても仕方ない。バリューガは全て話すことにした。


「ちょっと知り合った子がいるんだけど、その子の姉が昨日から帰ってきてないらしいんだ。一緒に探してくれって言われて、それで、村の外に出た。」

「その子とは一緒じゃないのか?」

「剣使いに襲われたから、村に帰したよ。でも、オレはその子の魔力に触っちまったから、体が痺れて動けなかったんだ。」

「そこを再び剣使いに襲われた、ということか。」


バリューガは頷く。すっかり迷惑をかけてしまった。アトケインは質問を続けた。


「一人目の剣使いはどうやって逃げたんだ?」

「セクエからもらった魔道具で気絶させた。」

「どんな武器を持っていた?」

「鉄砲、っていうんだっけ?その道具と、細くて長い剣。あと、毒も持ってる。」

「そうか…。」


アトケインはそれからしばらくバリューガが動けるようになるまで待ってくれた。ようやく立ち上がれるようになって、村に戻ろうとした時、森の奥の方で、何かがすごい速さで飛んでいくのが見えた。


「あれ?今の…。」

「ああ、セクエ殿かもしれないな。行方不明になっている子を探そうと思って、セクエ殿に協力を頼んだんだ。」


なんだか違和感を感じた。いくら人を探しているからといって、あんなに速くすることがあるだろうか。一瞬しか見えなかったが、とても人を探しているようには見えなかった。


「賢者さん、セクエが行きそうな所、分かるか?」

「え?そうだな…たしか、剣使いが集まっていた場所が、あちらにあると言っていたが、そこに向かうかもしれない。」


アトケインはセクエを見た方向よりもやや右側を指差した。


「そこに行こう。急がないとまずい。」


バリューガは走り出す。あとからアトケインがついてきた。


「どうしたんだ?何かあるのか?」

「これは、あくまでオレの勘だけど。」


バリューガは走りながら答えた。


「このまま放っておいたら…セクエはまた人を殺すことになる。」


(その前に、止めねえと。それはきっと、セクエが一番やりたくないことだ。)


たぶん、セクエに意識はあるのだろう。ただ、目の前が見えなくなってしまっている。あの時、学舎で突然襲ってきた時と同じだ。止めてみせる。そのために、自分はこの魔力をそのままにしておいたのだから。


ーーーーーー


(うーん。どうなってるんだろう?)


意識はあるが、しかし目を開けずにティレアは考えていた。何を考えているかというと、まず、ここはどこか。それから、自分はどうなっているのか。最後に、たまに聞こえる男の声は一体誰の声で、何を話しているのか。まあ、考えていても仕方のないことが多い。正直に言うならば、ティレアは目を開けて何が見えるのかが怖いだけなのだ。


ティレアが想像した現状は、例えば、私は何かの間違いで気を失ってしまい、そこを誰かに見つけられて村のどこかで治療してもらっている最中、とかである。


(いやいや、だったらこんな冷たい風が吹く部屋に人を置いておくわけがないし、そもそも、気を失ってる人を寝かせるなら布団をかけないのはおかしいよね?)


じゃあ、ここは外で、自分は気を失って倒れたままの体勢で普通に目を覚ましただけなのか?


(でも、だとしたらこの声の説明がつかないよね…。地面がこんなに硬いのもおかしいし。)


どんなに考えても状況が分からない。かといって目を開ける勇気は無い。困ったものだ。


それでも辛抱強く目を閉じたままじっとしていると、声が聞こえなくなり、辺りが急に静かになった。人の気配も感じない。ここでようやく、ティレアは恐る恐る目を開けた。


まず目に飛び込んだのは、鉄格子だ。自分のすぐ目の前にある。硬いと思っていた地面は土ではなく鉄板で、外の空気にさらされて、これでもかというほど冷えている。寒いわけだ。鉄格子の向こう側は森が広がっていて、村の近くなのだろうと見当がつく。辺りに人がいないことをもう一度確認すると、ティレアは起き上がり辺りを見渡す。そこで、ティレアは驚くべきことに気づく。


(え?ここ、檻の中?)


どうやらそのようだ。上下は鉄板、周囲を鉄格子に囲まれている。出口らしきものには鍵がつけられていて、試すつもりはないが、おそらく開かないだろう。にしても、目を開けてもまだ状況が分からない。自分はなんでこんなことになっているんだ?


(ていうか、そもそもなんで私意識が無かったんだろう?確かセクエさんと別れたあと、森に入ったはずだけど、お世辞にも寝心地がいいとは言えないあんな所で寝てしまうとは思えない。かといって気絶する理由も無かったわけだし…。)


ティレアとしては首をひねるばかりである。最終的に、誰かが来たら事情を説明してもらおう、というとても当たり前な結論を出し、考えても仕方ないということで、しばらくぼんやりすることにした。


話し声が聞こえてハッと我に帰った時には、だいぶ時間がすぎていただろう。檻の端に日が当たって暖かくなっていた。まあ、所詮は外なので寒いものは寒いのだが。男たちは、ティレアが起きていることに気づくと、驚いた様子で足を止めた。魔力は感じない。剣使いだろう。ティレアは緊張した。


「な、なんで起きてるんだ?」


男の中の一人がきいてくる。だが、こんな時にもティレアの人見知りと臆病さが顔を出し、うまく答えることができない。そもそも、目覚めた理由など分かるはずがない。


「あ、あの…ここから出してもらえませんか…?」


ティレアは蚊の鳴くような声で言う。なんとか聞き取ってもらえたようで、また別の男が答える。


「出すわけないだろ。お前は捕まったんだよ。」

「にしても、毒が効いてるんじゃないのか?目覚めた奴なんて今までいなかったぞ。」


(毒…?)


ああ、そういえば、近くに何か壺のような物があって、そこから毒の煙が出ていたような気がする。危ないな、と思って、解毒魔法で無毒化しておいた。まずかったのだろうか?


(というか、そもそも私には毒は基本的に効かないんだけど…。)


効いたとしても、一時的なもので、すぐに体内で無毒化される。これは、無意識のうちに体が解毒魔法を使ってしまうからだ。


解毒魔法。ティレアが初めて覚えた魔法で、そして唯一使える特殊な魔法。有害な物質を体内、体外を問わず無毒化し、無害にする魔法。それだけであり、それ以上でもそれ以下でもない。ただ、それだけの魔法。


(じゃあ、それが使えたから目覚めることができたってことなのかな?だとしたら、まあ運が良いというか、なんというか…。)


いやいや、ちょっと待て、今、この男は『捕まえた』とか言っていなかったか?


(ええと、つまり、私は森に入ったところをこの人たちに襲われて、おそらくは毒を嗅がされて気絶して、そうしてこの檻の中に入れられた…ってこと?)


やはり頭が追いつかない。誘拐された、ということなのだろうか。魔法使いでありながら魔法を使えない自分を?それこそ考えにくい。そんなことにどんな利点があるというのか。


「と、とにかくお頭に報告にいかないと…!」

「そうだな。よし、お前、こいつを見張ってろ。」

「分かった。早くしろよ。」


そんな会話がされて、男たちは一人を除いて全員どこかへ行ってしまった。『お頭』の所に行ったのだろう。残った一人にティレアは思い切って声をかけた。相手が一人ならあまり緊張しないのだ。


「あの…私なんて、捕まえてどうするんです…?」

「バカか。そんなことも分からねえのかよ?俺たちは魔力がほしいんだ。お前の魔力を奪うんだよ。」

「えっ?」

「聞こえなかったのか?うるさい奴だな。」


(いや、だって…。)


「私なんかの魔力でいいんですか?」

「あん?」

「だって、私、普通の魔法使いの半分も魔力を持っていないんですよ?そんなに少なくていいんですか?」


自分の置かれた状況をすっかり忘れて、ティレアは本当に不思議に思ってそう尋ねた。言ってしまえば、ティレアは獲物としてはハズレだ。そんな自分を見張ってまでして逃がさないようにするなんて、なんだかおかしくて笑えてくる。


「…変わった奴だな。」


男は気持ち悪そうな顔をしていた。


(でも、魔力を取られるのか…。)


考えたことなどなかったが、魔法使いから魔力を抜いてしまうとどうなるのだろう?魔法を使った時、体の中の魔力が少なくなってだるくなることがあるが、そんな感じなのだろうか。


(でも、魔力を一度に全部使ったことなんて今までに無いからな…。どうなるんだろう。)


そう思うと、今さらながらこの状況が怖くなってくる。自分は殺されてしまうのだろうか。


「お前か。目を覚ましたというのは。」


声がして視線を上げると、大柄な男が立っていた。この人がおそらくは『お頭』なのだろう。見張っていた人が背筋を伸ばすのが分かったし、他の人たちとは雰囲気が違う。


「ふん、本来なら何もしなければ起きるはずはないのだがな…。変わったこともあるものだ。」


(まあ、解毒魔法を使える人はめったにいないからなあ。初めて見たのかもしれない。)


でも、このことについては言わない方がいいだろう。何かに悪用されそうな気がする。他の人ならそんなことは考えないが、この男はそう思わせる何かがある。


「おい、お前。」


大柄な男は見張りの男に声をかけた。


「もう見張らなくていい。お前はほかの奴らと一緒にいろ。」

「はい!」


見張りの男が走って去っていく。なんだか取り残されたようで心細い。


「ふむ、それほど魔力があるわけでもないようだな。面白い奴だ。」


男はティレアを見ながら言った。魔法が使えたなら、こんな檻から逃げ出すこともできたのだろうが、それができないのでどうしようもない。こんなことになるなら、嫌がらずに魔法を勉強しておけばよかった、と後悔する。


「これは魔力を抜くより、売った方がいいかもしれないな…。」


とんでもないことを言い出した。ティレアは怖くて体が震え出すのが分かった。


(う、売るって、つまり奴隷…?何なのこの人たち?だったら殺された方がずっとマシだよ…。)


と、視界の端で何かが動いた、と思ったら、目の前から男が消えた。どこへ行ったのかと辺りを見渡すと、あの大柄な男は、なんと小柄な子供に地面に押さえつけられていた。男はかなり動揺しているようで、目を大きく開いていた。乗っている子供は、長くて白い髪をしていた。


(あの子、まさかシロさん?)


競技大会で見たあのシロなのだろうか。本名こそ分からないが、外見はやはり特徴的だ。


「お前が親玉か。」


シロがそう呟く。ティレアはあまり魔力を持っていないため、魔力をうまく感じることができないが、それでも、シロの全身から魔力が溢れているのが分かった。それから、かなり怒っているということも。


「またガキか。わざわざ捕まりに来るなんて間抜けなガキだな。」


男はそう言ってシロを振り落とすと、立ち上がって剣を構えた。男とシロが向かい合うと、辺りの空気が一気に張り詰めたような気がした。話すことも動くことも許されないようなピリピリとした緊張が高まっていく。


二人は同時に動いた。男はシロに向かって剣を振り下ろす。シロはそれを飛び上がって避ける。男はまた斬りつけようとする。だが、それもシロは飛んで避けてしまう。その様子を見て、ティレアは違和感を感じた。


(なんで飛び上がってもすぐに着地するんだろう。ずっと飛んでいる方が、絶対に有利なのに。それに、全然反撃しないし…。)


男は狂ったように剣を振り回し続け、シロはそれを避け続けた。シロのその動きは、遊んでいるようにも見えた。だが、その表情はいたって真剣で、遊んでいるつもりはなさそうだ。


「そんなもので。」


シロが呟き、突然動いた。男の胸を強く押し、近くにあった木の幹まで男の体を持ってきて、そしてそのまま光で作った短剣をその喉に押し付け、男の動きを止めた。すべての動作が一瞬だった。男は自分に何が起こったのか理解できていないようで、背中を木に付け、喉に短剣を押し付けられたままの姿勢で動かなかった。


「魔法使いが狩れるとでも?」


シロは言う。短剣を握るその手に力が入る。殺される、と思って思わず目を閉じようとした時、また誰かがやってきたらしい。声が響いた。


「セクエッ、やめろっ!」


(え?セクエ?)


まさかそんなはずはない、と思ったが、シロはピタリと動きを止め、目の前の男に見入るように目を大きく開いた。その途端、緊張が一気にほどけ、シロの雰囲気が誰かと戦っている時の荒々しいものではなく、いかにも少女らしい、落ち着いたものに変わった。


だが、シロはすぐに苦しそうに顔を歪めると、ヨロヨロと後ろに二、三歩下がり、その場に座り込んでしまった。何かがおかしいことは分かるが、男はそんなことは気にしない。ティレアがさっき声が聞こえた方を振り返ると、誰かが走って来るのが見えたが、まだ遠くにいてとてもシロを助けられそうにない。男は剣を振り上げる。シロは動かない。


(どうしよう?もしこの子が本当にセクエさんだとしたら、殺されるなんて嫌だ。でも、誰も助けられないし、このままじゃあ…。)


剣が振り下ろされる。ティレアは必死になって叫んだ。


「や…やめてぇーっ!」


その瞬間、爆発が起きた。ティレアを中心として、目もくらむような閃光とともに大量の魔力が放出され、それが辺りのものを破壊したのだ。その威力で檻はバラバラにちぎれて四方に飛び散り、近くにあった魔道具、壺、荷物を入れている箱などはビビ割れたり粉々になって吹き飛んだ。光は熱を持って周囲に広がって雪を溶かし、爆風が木々を揺らした。何が起こったのか、その場にいた人は誰一人として理解できなかった。ただ、ティレアは閃光が放たれる前の一瞬だけ、とんがり帽子をかぶった小さな三人組を見たような気がした。


気がつくとそこはさっきまでと大きく変わっていた。檻は無くなり、雪は溶け、男は檻の破片が頭に当たったのか、その場に倒れていた。セクエは仰向けに倒れている。ティレアは何が起こったのか分からないまま、それでもなんとかセクエに駆け寄った。


「セクエさん?しっかりしてください!」


触っていて、体が冷たくなっているのが分かった。それと同時に、解毒魔法が毒を感知する。


(毒があるのにあんなに動いたから…。)


ティレアはセクエの体を調べてどこかに外傷がないか探した。傷口から毒が入ったのなら、その傷に解毒魔法を使った方が早く効く。手の甲に見つけた小さな傷は、赤黒く膿んでいて、その周りは血管が浮き出ている。元々はただの切り傷だったのだろうが、今は目を背けたくなるようなひどい傷になっていた。ティレアはセクエの手を両手で挟むようにして傷口に触れ、解毒魔法を使った。


(ごめんなさい…。)


そう思わずにはいられなかった。自分が魔法を使えないばかりに、自分は他人に迷惑をかけ続けている。自分がもっと、別の魔法を使えたら、こんなことにはならなかったのかもしれない。


(私が、悪いんだ。私が、解毒魔法を使えるから…。)


小さい頃、本でたまたま見つけたこの魔法は、使える人は滅多にいないと書かれていた。それを使えたらきっと家族が褒めてくれると思って、ティレアは陰ながらその魔法を練習していた。そして使えるようになった。だが、その時ティレアは気づいていなかったのだ。その魔法は特殊すぎて、使う者の魔力を変質させてしまう。解毒魔法を使うということは、その他の魔法を一切使えなくなるのだということを。そしてティレアは魔法を使えなくなった。理由も分かっていた。だが、ティレアはそれを認めたくなくて、現実から目を背け続けた。その結果がこれだ。


(私が、こんな魔法を覚えなければ、こんなことにはならなかったし、学校や家に居場所を見つけることもできていた。全部私が悪いんだ…。)


苦しいのはセクエのはずなのに、ティレアは涙を止められなかった。申し訳なくて、情けなくて、消えてしまいたい。


「あ…。」


セクエが目を覚ました。目の前に泣いている人がいたら混乱してしまうような気がしてティレアはひとまず手を離して涙を拭いた。だが、まだ毒が残っていると思ってまた傷口に触れた。セクエはしばらくティレアが手を握っているのを見ていたが、やがてその手を離すと、体を起こして両手を地面につけた。そこからセクエの魔力が地面を通して広がっていく。


(どこまで広げるつもりなんだろう。まだ体を動かすのは辛いはずなのに…。)


魔力は目で見える範囲を超え、ティレアの感じられる範囲を超え、とにかくどこまでも広がった。もう村まで届いているんじゃないだろうか。しばらくすると、セクエはふいに呪文を唱えた。


返還転移フィクラ・ロプ。」


すると、近くに倒れたままの男が消えた。驚いて周りを見ると、壊れた魔道具や荷物も無くなっている。今の呪文でどこかへ転移させたようだ。魔力を広げていたのは広範囲に渡って魔法を使うためだったのだと見当がつく。たが、セクエはそれを終えると力尽きたようにまた横になってしまった。


「セクエさん?」

「もう、大丈夫みたいだな。」


後ろで声がした。驚いて振り返ると、そこには賢者ともう一人、剣使いがいた。そういえば、さっき声がして、誰かが向かってくるのが見えていた。その人たちだ。


「彼女を助けてくれてありがとう。君は、友達なのか?」


賢者が言う。


「え、えと、その。と、友達ってほどじゃないですけど…。」


声が震えている。賢者が相手となると、やはり緊張してしまうのだ。


「で、でも、セクエさんは、私を助けてけれたので…。」

「そうか。」

「ホント、ありがとな!いやー、オレたちだけじゃ間に合わなかったから、助けてくれて助かったよ!」


剣使いの人が言う。たしか、バリューガといっただろうか。


「では、そろそろ帰ろう。剣使いたちは、セクエ殿が全員返したようだし、行方不明だった君も見つかった。セクエ殿を休ませる必要もある。」


賢者は全員の顔を見て確認すると、呪文を唱えた。


集団転移ジバスク・ロプ。」


ティレアたちは転移した。ここまで来るのにずいぶん長い時間がかかったようだが、それでも帰り道は一瞬だった。

最終話だけいくらか長くなってしまいましたが、最後まで読んでいただきありがとうございます。シリーズですので、まだ何か書こうかと迷っていますが、たぶん書きます。それも読んでいただけたら嬉しいです。


あとから気がつきましたが、「トモダチ」についてまだ説明がありませんでした。次作で書きます。すみません。

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